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北朝鮮核危機こそ、憲法9条や「専守防衛」政策の失敗の証である - 榊原智

米国のトランプ大統領は、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談後の記者会見で、米韓合同軍事演習の中止を表明し、在韓米軍の将来的な引き揚げに言及した。

北朝鮮の核・弾道ミサイルの脅威はなくなっていない。にもかかわらず、トランプ氏は、北朝鮮に対する軍事的圧力を弱め、朝鮮半島の安全保障環境を激変させかねない話に言及した。日本に衝撃が走ったのは当然だ。

米韓合同軍事演習の中止を、北朝鮮や中国は大歓迎している。在韓米軍の引き揚げは、中国の「属国」になりたくない北朝鮮はともかく、中国は切望してやまない話だ。朝鮮半島に対する米国の影響力を排除すれば—日本が再び朝鮮半島に出向くつも りはないことも相俟って—、中国の勢力圏に収められるかもしれないからである。

トランプ氏にとって、米国の納税者のカネを在韓米軍に費やすのは望ましいことではなく、将兵を米本土に戻すことが正しいことなのだろう。

米韓合同軍事演習の中止が長期に及んでその抑止力が大幅に低下したり、在韓米軍の撤退が現実になれば、朝鮮半島をめぐる安全保障環境は不安定化し、日本も直撃を受ける。北緯38度線にある前線が、対馬まで南下してくるからである。

南西諸島方面で中国の軍事的圧力に耐えている日本にとって、もう1つの「正面」が朝鮮半島との間にできることになる。自衛隊の現有兵力や今の年間5兆円規模の予算では間に合わない。

韓国が将来的に、中国の影響下に入る恐れもある。日清戦争以前の状態に戻ることになるが、そうなれば朝鮮半島正面でも自衛隊は中国軍と対峙することになるかもしれない。済州島などに中国海空軍の根拠地ができれば、九州周辺どころか日本海も騒がしい海になってしまう。

北朝鮮の核・ミサイルの脅威が取り除かれるとすれば、それはすばらしいことだ。ただしその場合でも、日本には別の形で安全保障上の懸念が生じる恐れがある。北朝鮮問題がどのような展開をみせるにせよ、日本に「平和の配当」はもたらされないと覚悟しておいたほうがいい。

トランプ氏は、日本との戦略的な調整なしに、日本や朝鮮半島をめぐる安全保障環境を不安定な方向へ変化させかねない発言をしたわけだが、似たようなはしご外しが、北朝鮮問題にとどまらず、中国問題をめぐって起きない保証はない。日本政府は、トランプ氏と米政権とこれまで以上に丁寧かつ慎重に意思疎通をはかっていかねばならない。

もちろん日本は、トランプ氏率いる米政権が取り組む北朝鮮の核・弾道ミサイル廃棄の取り組みに期待し、後押しする以外にない。安倍晋三首相が日米同盟を重視し、トランプ氏と協力していることは間違っていない。

日本国民の安全のため、拉致被害者を取り戻すための現実的で正しい選択である。また、安倍首相と与党が憲法解釈の変更に踏み切り、限定的とはいえ集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法を制定しておいたことが、北朝鮮核危機に臨んで日米同盟を機能させ続けることになった。評価すべき話である。

その上で指摘したいのは、「トランプ氏に頼り、振り回される日本」は、戦後日本の選択の結果だということである。

それとは異なる選択に基づく歩みもあり得たはずだ。日本の現在のありさま、能力では決してできないことだが、本来、日本国の首相が北朝鮮の指導者と直談判してもよかったように思う。

日本は人口1億2,700万人。経済規模は世界第3位であり、科学技術の水準も有数だ。自由と民主主義、国際法を尊重している。控えめにみても、中国と南北朝鮮を除いた世界各国から信頼されている。アジアで唯一、先進7カ国(G7)の一員となっている。

日本が、東アジアの平和、安全保障にもっと責任をもつ国となっていても不思議ではなかった。そもそも北朝鮮は経済規模が2兆円弱で、鳥取県や高知県クラスにすぎない。

その場合であっても、日本は米国と同盟を結び、協力するのが望ましい。第2次世界大戦後の国際社会において、主要な先進民主主義国は米国と同盟または準同盟関係を結んで安全保障を確保している。日本の防衛や公正で自由な世界秩序を保つために日米同盟は、双務性を帯びさせた上で必ず堅持すべきだと思われる。

現実はもちろんそうなってはいない。日本は安全保障の根幹を米国に頼り切りである。1990年代から北朝鮮の核開発やミサイルの脅威の到来が明らかであったにもかかわらず、日本政府も国民も傍観していたに等しい。

6カ国協議などに加わってはいたが、米国と一緒に北朝鮮にだまされ続けてきた。米本土に対する北朝鮮の核攻撃能力の完成が現実味を帯びたことで米政府が北朝鮮問題に本腰を入れ始めた今になって、日本も大騒ぎしている。

戦後の日本がもっと早く、国の安全保障と国民の生命、人権を真剣に重んじ、国際社会の平和と繁栄に対する責任感に目覚めていれば、もっと違った展開があったのではないかと思う。

北朝鮮が核武装に到達するより前に日本が主体的に動き、同盟国米国を巻き込んで、核の脅威の出現を阻めたかもしれない。それは、日本国民や米国民、北東アジアの諸国民にとって今よりもはるかに歓迎できる話であったろう。

そうならなかったのは、なぜか。筆者は産経新聞6月12日付コラム「『風を読む』 北対処…本来は日本の役割」でも記したが、「敗戦を経た戦後の日本人が、無責任で意気地がなかったからであろう」。

現憲法がもたらした、誤った「平和主義」にしがみついた結果、日本人は「専守防衛」という本土決戦主義をすばらしい戦略のように勘違いしてきた。日本は「専守防衛」ゆえに、北朝鮮に効果的な軍事的圧力を及ぼせる「懲罰的抑止力」を持たなかった。

力しか理解しない北朝鮮は、専守防衛という日本の善意など歯牙にもかけない。万一の場合に戦う態勢も覚悟も整えてこなかった日本はかえって、北朝鮮の核武装という、日本や地域の平和と安全を損なう事態を招いてしまったのである。

北朝鮮核危機こそ、憲法9条・前文やそれに基づく「専守防衛」政策の失敗の証であるという反省が必要なのではないか。

現在進行形の北朝鮮核危機について日本は、今とることのできる選択肢を活用してしのいでいくしかない。だが、それと同時に、日本がもう少し主体的に、平和と日本国民の安全のために行動できるよう憲法改正や安全保障改革に取り組み始めたほうがよい。

それが、日本国民のみならず、米国および世界の諸国民の安全の向上にも資する。日米同盟はより確かなものとなり、米国がとりがちな恣意的行動を抑えるための日本の発言力向上にもつながっていくだろう。

--- 榊原 智(産経新聞 論説副委員長)

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