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元暴走族・商社マンが作った引きこもり塾

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親と揉め、荒れていた中高時代を経て、2浪の末にICUへ入学。卒業後に総合商社に入社するも、うつ病になり4カ月で退職。1年間の引きこもりを経験した。その後自身の体験から不登校、中退者専門の塾を立ち上げた男のストーリー。


■「軽度の発達障害で、暴走族の世界にもなじめなかった」

【田原】安田さんのご著書を読みました。幼少期から、なかなか大変なご経験をされましたね。

【安田】父のDVなどが原因で、両親が離婚。寮に入ったり、父方の祖父母と暮らしましたが、折り合いが悪くて、友達の家を泊まり歩いたり、ときには公園で野宿をしたりしていました。

【田原】気が進まなければお話しにならなくていいですが、お父さんはどうして暴力を?

【安田】感情のコントロールが非常に苦手な人でした。当時はそういう言葉がなかったですが、私と同じく発達障害の傾向があったのかなと。上手くいかないことがたくさんあったのではないかと思います。

【田原】壮絶な環境で育って、よくグレませんでしたね。

【安田】じつは不良の真似事もしました。ただ、僕も軽度の発達障害があって、暴走族の世界にもなじめなかった。どんくさいので、結局、どの世界に行っても自分の居場所をつくれないんですよね。

【田原】どんくさいというより、言いたいことを言っちゃうからじゃないですか。著書を読むと、黙っていれば目をつけられずに済む場面なのに、言いたいことを言った結果、いじめられるパターンを繰り返している。

【安田】そうかもしれません。空気を読めなくて、「なんだ、あいつは」となることはよくありました。「この場ではこう言ったほうが丸く収まる」とわかることもあるんです。でも、考えたことを言ってしまいたいという衝動を抑えられなくて。

【田原】中学時代はまったく勉強してなくて、高校は偏差値の低いところに入った。ところが、高2のころに突然、やる気を出して勉強するようになった。どうしてですか。

【安田】まず将来に対する不安がありました。学校もあまり行ってなかったし、さすがにこのままではまずいなと。受験を具体的に意識するようになったのは、2001年の年末です。その年、アメリカで同時多発テロが起きて、その後アフガニスタンへの空爆が行われました。僕は自分が虐げられてきたという思いが強くて、不条理なことに人一倍敏感なタイプ。アフガニスタンの人々にとって空爆は不条理だったはずで、「紛争や戦争を解決して、世の中から不条理をなくしたい」と考えるようになりました。

キズキ共育塾 代表 安田祐輔氏

■国連の職員になるならと2浪してICUへ

【田原】それで、不条理を正すためにどうしましたか?

【安田】国際紛争を解決に導くには、国際政治学者や国連の職員になればいいと考えました。で、学者になるなら東大で、国連の職員になるならICU(国際基督教大学)だろうと。単純な発想です。

【田原】毎日13時間以上勉強したそうですね。ずっとサボっていたのに、よく変われましたね。

【安田】切羽詰まっていましたから。高校時代、アルバイトを7回変えました。サービス業は苦手で、どうしても長続きしなかった。そうなると、身を立てるには勉強しかないなと。もう1つ、勉強してみたら意外に楽しかった。夜の街を彷徨っても成長は感じませんでしたが、勉強すると、昨日読めなかった英語が今日は読めたりする。成長を実感できるのが面白くて、気がついたら睡眠以外の時間はほぼ勉強に充てていました。

【田原】浪人を2回やった後、ICUに合格。大学生活では何を?

【安田】中東問題に興味があり、イスラエルとパレスチナの問題を扱う学生団体に入りました。その学生団体で、イスラエルとパレスチナの若者を12人、日本に招いて、1カ月合宿して対話してもらう平和会議をやりました。日本への入国はビザが必要ですが、パレスチナ人はイスラエル側に入れないため、自分でビザを取れません。だから僕が現地まで行って、彼らからパスポートを預かり、イスラエルのテルアビブにある日本大使館に行ってビザを取り、またパレスチナ自治区に戻るといったこともやりました。

【田原】安田さんは、自分のことを発達障害とおっしゃる。発達障害でも、そういうことができるんですか?

【安田】発達障害にもいい面があって、さっき言ったようにあることに集中し始めると本当に集中力がすごいんです。このときはいい面が出たんだと思います。

【田原】そのあとはルーマニアに行く。

【安田】ルーマニアの研究機関にインターンに行ったのですが、3カ月で辞めました。そこで一緒に働いていたアメリカ人やイギリス人は、現地をよく知らないのに偉そうなことばかり言う。それって何か違うんじゃないかと。ただ、僕も世界を知っているわけではありません。世界の最貧国と言われる国で苦しい生活をしている人たちと一緒に暮らしたうえで自分に何ができるかを考えようと思い、バングラデシュに行きました。

【田原】マザーハウスの山口絵理子さんと発想が似てるね。山口さんも米国の研究機関で同じ思いを抱いて、バングラデシュの大学院に入った。彼女は現地の貧困を解決するために起業したけど、安田さんは商社にお入りになった。これはどうして?

【安田】そこが僕の弱いところだったんでしょう。バングラデシュの娼婦街でリストカットした子やメンタルを病んでしまった子を見て、支援する方法を見つけたいと思ったのですが、一方で人から称賛されるブランド力のあるところに所属して安心したいという欲求もあった。自分に嘘をついて就活しているうちに受かったところに行ってしまった感じです。

■大手総合商社に入社したが、4カ月でダウン

【田原】総合商社に入社したものの、4カ月でダウンして辞めてしまう。

【安田】これにはいくつか原因があります。1つは発達障害。僕は感覚が過敏で、革靴を履けないんです。無理して履いていたら水虫になったのでオフィスで靴を脱いで仕事していたら、上司から叱られました。あと、人と距離が近いのも苦手で、満員電車にも耐えられませんでした。早朝出勤という手もありましたが、発達障害は睡眠障害が出やすくて、朝早く起きることもできなかった。

【田原】そんなの、通気性のいい靴を履いたり、睡眠薬を飲んで眠ればいいんじゃない?

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【安田】おっしゃるとおりですが、当時は気がつかなくて。あと、そもそも意味のないルールを押しつけられることに根本的に耐えられなかったんだと思います。内勤なのに革靴を履けとか、朝に会議があるわけじゃないのに9時に来いとか、正直、意味がわかりませんでした。

【田原】辞めた原因はほかにもある?

【安田】配属が希望と違うことも大きかったです。僕が就活していた時代は、尖った若手を採用したいという空気が強くて、人事から「若手でもやりたい分野で活躍できる」と言われて内定をもらいました。当時は幼くて、それを信じちゃってましたね。

【田原】体調を崩して病気になったらうつ病の診断を受けて、会社を辞めて引きこもるようになった。そしてその後、自分が発達障害だと知る。僕は発達障害のことをよく知らないのですが、どういうものなんですか。

【安田】いまメガネをかけてる人は、メガネがない時代だったら視覚障害。つまり社会に合わせられない何かがあることを「障害」と言います。発達障害も同じで、たとえばみんなと同じ服や靴を選べないこともあれば、人の話を聞けなかったり、ジーッと座っていられないなど、現代社会において、まわりとうまくやっていくことが難しいという特徴があります。

【田原】それで、安田さんはどれくらい引きこもってたの?

【安田】1年くらいですね。

【田原】それから人を教える仕事に就こうと考えた。どうして?

【安田】何かしないと食っていけなかったので、とにかく働こうと思いました。ただ、サラリーマンになったらまた同じことを繰り返すだけなので、おそらく無理。僕がかろうじて持っていたスキルと言えば、英語を使えることと、勉強ゼロの状態からやり直して大学に合格したことくらい。それらを活かして自分で何かやるなら、塾しかないと考えました。

【田原】ただ、普通の学習塾ではなく、引きこもりや中退者など、学校教育から零れ落ちた人を立ち直らせて大学合格を目指す塾にした。どうしてそんな塾をやろうと思ったのですか。

【安田】もともと勉強ができる人を東大や早慶に入れる塾は世の中にたくさんあって、魅力を感じませんでした。また、そうやって誰かを合格させてもほかの人が落ちるわけで、ゼロサムゲームみたいなものに参加するのも何か違う。やりたいのは、本当に困っている人を助けること。僕は十代のころ進学塾に行ったもののまわりについていけず、バカにされた経験があります。そういう思いをしないでいい塾をつくるのは社会的に正しいことだし、ニーズもあるんじゃないかと考えました。

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