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「オウムを知らない若者たち」にどう伝えるべきなのか?

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麻原ら死刑執行の前日、サリン事件の映像作品を制作したゼミの学生を取材する新聞記者

今となっては絶妙すぎるタイミングに空恐ろしくなる。

 死刑執行の前の日の夕刻、「彼」は私の大学にやってきた。

 地下鉄サリン事件で夫を失った高橋シズヱさんを取材してドキュメンタリーを制作し、比較的評判が良かったゼミの教え子の女子3人に話を聞きたいのだという。彼は新聞社の社会部の記者だ。電話がかかってきたのは3、4日前だったと記憶している。3人がちょうどゼミの授業で揃うタイミングの木曜日に大学に来てもらったが、翌日の金曜日の午前中に死刑が執行されてしまったので、あまりのタイミングの合致に呆然とした。

その取材の成果は今日(7日)の夕刊の記事になった。

オウム事件 学生が遺族ドキュメンタリー 「背景」教訓に(毎日新聞)

(前略)

上智大3年、津田真由子さん(20)は昨年夏、地下鉄サリン事件の遺族、高橋シズヱさん(71)のドキュメンタリーを制作した。津田さんは「私たちにとっては前の世紀の事件。テレビで見た『変な歌を歌う宗教』ぐらいにしか意識していなくて、最初は事件が非現実的に思えた」と制作当初の思いを振り返る。

 制作は、同級生の栗原海柚(みゆ)さん(21)、向島桜さん(20)と取り組んだ。オウム事件について、栗原さんは「教科書に載っている昔の事件」、向島さんも「架空の出来事のように感じる学生は多いはず」と印象を語る。テロといえば、中東など海外の出来事と感じてしまうという。

出典:毎日新聞デジタル

 たまたま、3人の学生が制作したドキュメンタリーが映像コンクールに入賞するなどして評判になったことやこの記者ならずとも、安倍政権が「平成」が終わる前にオウムの死刑囚を処刑して次の元号まで禍根を遺したくない意向だとする「推論」を元に記者たちが動き始めていて、この3人は学生としては珍しいほどマスコミ取材を集中的に受けることになった。

 ところが、地下鉄サリン事件遺族の会代表世話人・高橋シズヱさんが3人にはかなり心を開いてくれてせっかく長期間、独自に取材を続けていたにもかかわらず、マスコミ各社が「今の若者」というだけの視点でこの3人を取材対象にしていく様子を見ていると、今のジャーナリズムの「頼りなさ」が浮かび上がってきた。3人は「今どきの若者」にしては比較的しっかりした学生たちとはいえるが、なぜ彼女らがいつも取材の対象になるのか。同じような質問ばかり。他に「若者」はいないのか。他の切り口はないのか、と考えてしまう。

 この毎日新聞の記事を見てみよう。

(中略)

 取材を通じて、3人は事件の恐ろしさとともに、若い世代の危うさを感じたという。理由の一つと考えるのが、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の普及だ。

 津田さんは言う。「私たちはツイッターなどで常に友達とつながろうとしているが、そのつながりは強くはなくて、関係が切れたり、トラブルが起きたりする。そうした問題が起きると孤立感は深くなる」。向島さんも「人生に空虚感を抱える学生は多い。カルト団体でも、自分を受け入れてくれると思えば、入ってしまう子はいるだろう」と想像する。

 「事件でたくさんの被害者が出たことをこれからも忘れてはいけない」。3人は口をそろえた。

出典:毎日新聞デジタル

 字数の制限もあったのだろう。

 論旨が必ずしも明快とは言いがたく、何を伝えようとした記事なのか焦点が定まらない。

 (たぶん)この記事が伝えようとしていることはオウム事件の頃と比べても若者同士のつながりはもっと希薄な時代になっていてSNSによるつながりに依存する傾向が強まっている。そんな中で空虚感や孤立感を抱えやすくなっている。だから、オウム事件の頃以上に「今」という時代はずっと危険でもっと真剣に対策を考えないと大変なのだ、ということを言いたかった記事なのだと思う。

 そういう問題意識があるなら、もっとコンパクトにそう言えばよかったと思う。そうならなかったのは私の学生たちがあまりそうした問題意識が強くなかったせいかもしれない。彼女たち指導している身としては、「期待はずれ」のコメントしか言葉に出来なったようで申し訳ない。

だが……よく考えれば、この記者に限ったことではない。他の社の記者も同様なのだ。

「地下鉄サリン事件から23年の集い」を手伝う学生たち

 今年3月17日、地下鉄サリン事件被害者の会代表世話人である高橋シズヱさんが取り仕切る形で、「地下鉄サリン事件から23年の集い」という集会が東京都内で開かれた。

 その会場で高橋さんは、自身が撮影対象になった水島ゼミ生による「今日もあなたと一緒に。」という短いドキュメンタリー作品を冒頭で上映したのだ。日頃、オウム事件について、(今回の死刑執行のような)節目が来るたびに険しい顔をして「被害者遺族を代表して」テレビの画面に登場する高橋シズヱさん。

 でも、それ以外の「普通の主婦」や「妻」としての顔も持っている、という当たり前のことを3人の学生は気がついて作品にした。女子学生らが撮った瑞々しい映像や彼女らがつむいだナレーションの言葉とともに素直に表現されていたのが、このドキュメンタリーだ。いくつかのコンクールで賞を受けていて、たとえばTBSが主催する第19回「デジコン6」にも入賞して映像が公開されているのでURLを貼りつけておく。「JAPAN Live Action!」という賞なので以下のURLをコピー&ペーストして視聴してほしい。

http://www.tbs.co.jp/digicon/19th/winning/regional.html

高橋シズヱさんがマスコミ各社が集まる集会で学生の映像作品を上映したせいもあるのだろう。

 3人に対して取材攻勢が始まっていく。作品の一部が使われる形で3人のインタビューが編集されて、NHKの「ニュース7」(3月17日)や「ニュースウォッチ9」(3月20日)の特集として放送された。同じ局でありながら、学生のインタビューは別々に取材の申し込みが行われ、対応に追われたほか、新聞社の取材も3月17日の集会当日だけでなく、その前や後にも行われ、記事になった。

[画像をブログで見る]

 だが、どれもニュースとしてはまったくと言っていいほど、「同じ目線」なのだ。

 「オウム事件の後に生まれた世代の若者がオウムの事件についてどう考えるのか」だ。3人が質問されるのを傍らで聞いていると、どの記者も同じような質問を繰り返していた。

[画像をブログで見る]

3人は、読売新聞でも正月明けの1月3日の社会面で比較的大きな記事で取り上げられた

読売新聞による取材風景(2017年12月)

見出しは大見出しが

悲劇 私も伝える


中見出しが

地下鉄サリン 遺族の苦悩撮る


作品の中身に触れつつ、最後はドキュメンタリーを制作した学生たちが「高橋さんと語り合った若者として、同世代、若い人に伝える責任がある」と意気込んでいるという内容で締めくくられる。

 いや、3人が無責任な若者たちだなどと言いたいのではない。むしろその逆といっていい。

 3人の声や作品を伝えるマスコミの無責任さや安易さが私には気になる。

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