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ロボット研究を通じて私は"人間とは何か?"を常に考えている - 「賢人論。」第66回石黒浩氏(前編)

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ロボットを研究することで、「人間とは何か?」という問いに挑み続けている石黒浩教授(大阪大学基礎工学研究科、ATR客員所長)。これまで、自分にそっくりのアンドロイド(人間酷似型ロボット)である「ジェミノイド™ HI-1」をはじめ、マツコ・デラックスや桂米朝、夏目漱石の姿をしたアンドロイドなど、さまざまな研究開発活動を行ってきた中で見えてきた人間像とは一体どのようなものなのか?これまで開発してきたアンドロイドの研究テーマをふり返ってもらうとともに、その可能性について語ってもらった。

取材・文/ボブ内藤 撮影/岡屋佳郎

“人間そっくり”のロボットを“人間らしく”みせるのは容易ではない

みんなの介護 ロボット研究にはさまざまなアプローチがあると思いますが、石黒さんのようにロボットの「見かけ」に着目する方は珍しいのではないですか?

石黒 でも、見かけってすごく大事でしょ。そう思いませんか?そのことを強く意識したのは、大阪大学基礎工学部の助手を経て、京都大学工学研究科の助教授に招かれて間もなくの頃でした。

当時の上司である石田亨教授の「論文ばかり書いてないで、世の中を変えるような研究をしてください」という言葉に触発されて、人間とのコミュニケーション機能を持ち、日常生活の場で働くロボットを開発することを決意したんです。それが、日常活動型ロボット「ロボビー」でした。

デザインは、人間にそっくりではなく、頭部にそれが目だと想像できるカメラが2つ付いているくらいのシンプルなものでした。ところが、改良の段階でそのデザインを変更すると、研究者や学生たちの中に怒る人がいたんです。「なんで変えたんですか」とか、「前のほうがよかった」と文句を言われ、多くの人がロボットの見かけに強いこだわりを抱いていたことを知って、これを真面目に研究しようと思ったわけです。

みんなの介護 ロボットの「見かけ」の研究をするために、人間そっくりのアンドロイドの開発から始めたのは、なぜでしょう?

石黒 実際、考えられる研究の方法は人間型アンドロイドのほかにもありました。それは、非常に単純なデザインのロボットを作り、徐々に人間に近づけていくという方法です。ただ、この方法の欠点は、人間に近づけていく段階で何体のロボットを作れば良いのかわからないということ。そのような先の見えない方法を選ぶより、最初から人間にそっくりなロボット、すなわちアンドロイドを作り、そこから徐々に人間らしさに不必要な部分を削ぎ落としていくという方法を選びました。

そうした意図のもと、2000年に最初に作ったのが、当時4歳だった娘をモデルにした「リプリーR1」でした。

みんなの介護 その結果、何がわかりましたか?

石黒 人間にそっくりなロボットを作ったところで、それを「人間らしく」見せるのは難しいということです。

というのも、東京工業大学の森政弘名誉教授が1970年に指摘した「不気味の谷」という現象があって、「リプリーR1」がまさにそれだったからです。

人間には見かけや動き、声などの特徴に「人とはこういうものだ」と頭の中で認識しているモデルがあって、そこから少しでも外れるとゾンビを見たかのような不気味さを感じてしまうのです。「リプリーR1」の場合、顔の表情を動かしたりするための機構を頭部に搭載していましたが、製作費がそれほどなかったため、胴体は動きませんでした。そのため、首を動かすたびに体が震え、まるで死体が動いているかのように見えてしまったんですね。

ロボットに対する印象を表す“不気味の谷”とは?

みんなの介護 「不気味の谷」は、どうしたら克服できるのでしょう。

石黒 森名誉教授は、ロボットのデザインをさらに人間に近づけていくと、ある段階で見た目の印象の好感度は急上昇することも指摘しています。急降下した好感度が急上昇するから「谷」のようなグラフを描くわけです。

そこで、「リプリーR1」の性能をさらに上げて作ったのが「リプリーQ1 expo」です。モデルを成人女性に変えてサイズを大きくし、息をするのに伴って動く肩や目の動き、首や腕の動きも再現するようにしました。

男性ではなく女性にしたのは、そのほうが受け入れられる余地が大きいからです。男性の場合、生身の人間でも小さな子どもなどは怖がるケースもあるでしょう。その点、女性は年齢や性別を問わず、見た目の印象が良いのです。

みんなの介護 「リプリーQ1 expo」はその名の通り、2005年の愛知万博(愛・地球博)で披露され、モデルがNHKアナウンサーの藤井彩子さんだったこともあって世間の注目を集めました。

石黒 藤井彩子さんにモデルをお願いしたのは、毎日テレビに出ていて多くの人に顔が知られている方なので、アンドロイドに会った人がテレビの印象と比較しやすいと考えたからです。それから、自分のコピーが自分と離れた場所で常に誰かから見られていると感じる精神的負担にも、プロのアナウンサーである藤井さんには耐性があるのではないかとも考えました。

実際、藤井さんの見かけを使用するのは万博の期間のみで、終了後はモデルが誰かわからないように「リプリーQ2」として顔を作り替えました。

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