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「安倍の懐刀」たちが埋め込んだ内閣人事局という時限爆弾

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安倍政権で生まれた内閣人事局 時事通信フォト

 事務次官を頂点とするピラミッド組織に身を置く官僚にとって、“出世レース”は最大の関心事である。かつて各省庁が握っていた人事権限を官邸に一極集中させ、官僚をコントロールする―安倍政権で生まれた内閣人事局は、だからこそ官邸一強の象徴とされる。果たしてこの組織は、官僚にどのような変化をもたらしたのだろうか。ノンフィクション作家・森功氏がレポートする。(文中敬称略)

* * *
 人間に関する事柄。人間社会に現れる事件──。

 広辞苑で「人事」を引くと、第一項にそう記されている。自然界に起きる現象に対し、人間が何らかの意図をもっておこなう出来事すべてを指しているのだろう。大辞林には、人間の力でできる事柄、ともある。

 その根源的な意味から転じ、会社や団体の組織において、個人の地位や身分を決める。それもまた、人事である。人は誰しも、組織の中で人事に最大の関心や不安を抱き、ときに自らの人生を左右する人事権者に媚びへつらう。

 安倍一強の政府で起きている現象が、まさにそれだと感じるのは、私だけではないだろう。言うまでもなく中央省庁の幹部人事を一手に握っているのが、第二次安倍政権下で発足した内閣人事局である。霞が関の官僚たちは、あたかも内閣人事局の前にひざまずき、財務省は、背任の嫌疑がかけられることも厭わず、公文書の改ざんに走った。

 首相官邸の力の源になってきたといわれて久しい内閣人事局。その実、どのようにしてできたのか、そこすらあまり伝えられていない。

◆生殺与奪を握る

「今の安倍政権で起きていることは、1997年の橋本龍太郎内閣時代の行革にすべての源流があります」

 そう指摘するのは、昨年2月以降、旧民主党で森友学園問題を追及してきた福島伸享である。経産省(旧・通産省)出身の福島は後に内閣官房参事官補佐まで務め、官邸と官僚のあり様について身をもって知る人物だ。

「もとはといえば、旧通産省の大臣官房にあった政策実施体制審議室なる怪しげな部署に、橋本行革チームのメンバーが集められたのが始まりでした。そこに1980年代に入省した通産省選りすぐりの役人が集まっていて、私はその中でいちばんの若手で、末席に座っていました。チームリーダーが今の岡山県美作市長の萩原誠司さんで1980年入省、その下に1982年入省の今井尚哉さん、1984年入省の柳瀬唯夫(現・経産省審議官)さんもいました。

 将来、省を背負って立つ企画官や課長補佐クラスが集まるその部屋で濃密な時間を過ごしました。省益優先の縦割り行政打破という旗を掲げ、役所の仕事をやるのは省務官僚、国の仕事をするのが国務官僚だと呼んで、一元化して人事を決めていく仕組みを練っていきました」

 目下、首相の筆頭政務秘書官である今井や加計学園担当の首相秘書官になった柳瀬など、奇しくも第二次安倍政権の布陣が顔を揃える。当時は首相の政務秘書官だった通産省出身の江田憲司が中心となり、官邸の体制づくりを進めていったという。まさに内閣人事局構想の原点がここにある。

 ちなみに企画官とは課長と課長補佐のあいだの室長級で、最も忙しく業務をこなすポジションだ。現在、当の内閣人事局の企画官を務める辻恭介はこう振り返った。

「たしかに内閣人事局の発想は古く、橋本行革時代に閣議人事検討会議ができてからのものです。当時は局長クラス以上と大使などが人事の対象でした。が、局長だけだと局長になる人を(内閣が)見ていないことになる。それで内閣人事局では範囲をもう少し広げようと、部長級以上を一元管理の対象にしたのです。

 以前の計画にプラスアルファされ、広く人事の一元化を図る目的から計画された。内閣人事局は総務省の中にあった人事行政部門の人事局と組織管理部門の行政管理局を内閣官房に移管し、私は総務省当時の人事局にいたので、その頃からの流れがよくわかります」

 橋本行革の中で、官邸主導の官僚人事の枠組みをつくっていったという。まだ内閣人事局という名称こそなかったが、実際、1997年12月3日に発表された橋本政権当時の行政改革会議最終報告にも、計画が書かれている。

〈1.内閣官房は、内閣総理大臣により直接選ばれた(政治的任用)スタッフによって基本的に運営されるべきものである。その際、行政の内外から優れた人材を登用し、処遇するための人事ルールを確立するとともに、各省庁からの派遣・出向についても、派遣・出向元の固定化や各省の定例的人事への依存を排除する必要がある〉

 人事で霞が関の官僚たちの生殺与奪を握り、思い通りに動かす。平たくいえば、いわばときの権力者にとって、内閣人事局のような官邸機能の強化は悲願なのである。

 そのなかでも、とりわけ人事の一元管理に熱を入れたのが、第一次安倍政権といえる。行政改革担当大臣に就任した渡辺喜美が「内閣人事庁構想」をぶち上げ、官房長官の塩崎恭久とともに霞が関支配に血道をあげた。また福田康夫を挟んだあとの麻生太郎政権でも、行革担当大臣の甘利明が国家公務員法改正案(通称・甘利法案)を提出した。

 が、それも廃案になり、内閣人事局構想は実現しなかった。コロコロと政権が移り、民主党政権時代を経て15年以上も構想は動かなかった。

 そこには、やはりそれなりの問題があったというほかない。

◆680人を一元管理

 内閣人事局構想が実現に向けて進みだしたのは、2012年12月に安倍晋三が政権にカムバックし、稲田朋美を行革担当大臣に据えてからだ。稲田は翌2013年4月、唐突に内閣人事局構想を発表。「総理の意向」を背景に霞が関を説き伏せていった結果、2014年5月30日、初代国家公務員制度担当大臣に就任し、念願の内閣人事局をスタートさせる。先の内閣人事局企画官の辻が、組織構造についてこう説明してくれた。

「内閣人事局の人員はおよそ170人。従来の総務省人事局と行政管理局の中の組織管理部門を内閣官房に移管し、中央省庁の部長級以上の候補者680人が人事の対象になっています」

 行政管理局の組織管理部門とは、無駄な部局をなくしたり、新たな部局をつくったりする器づくりを担う部署のことだ。

「たとえば政府の部局は法令でその数が定められているので、新しい局をつくれば、その分減らす局が必要になる。それを検討するのが組織管理部門です。これまで新しくつくる局長の任命は各省の大臣が担うので、総務省では人選にはタッチしませんでした。一種のファイアーウォール(組織同士が介入できないようにする防火壁)が存在したのですが、それをなくし、内閣人事局でどちらも主導することにしたわけです」(同・辻)

 内閣人事局では、内閣の重要政策に対応するため、「適材」と「適所」を一元化して決める、と謳う。従来はその「適任者」選びを各省庁に任せ、総務省に「適所の器」をつくらせる役割分担により、恣意的な人事を避けてきた。が、新設された内閣人事局制度なら、首相の気に入った省庁の幹部のために新たな部局を創設し、その局長に抜擢することもできる。そこについて辻はこう反論する。

「反対意見があったのはたしかです。ただ、民間の会社だと、能力のある人のために部局をつくることは日常的におこなわれています。その意味からも、問題ないとされています」

◆政治的ブラックボックス

 中央省庁の幹部候補680人の配置を決めるプロセスは、まず各省庁に人事原案を提出させるところから始まる。それは従来の内閣と変わらない。問題はそのあとだ。

 たとえば財務省人事では、事務次官によるセクハラ問題で主計局長の岡本薫明の次官昇進原案が官邸の意向によって早々に見送られ、今も人事が迷走を極めている。また、その財務省の国有地払い下げを巡る大阪地検の捜査にも、後述する法務省人事における官邸の影が囁かれてきた。流行語にもなった「忖度」の意味するところは、官邸による恣意的な人事を恐れてきたからにほかならない。

 内閣人事局の任用プロセスでは、省庁から提出された人事原案に対し、「適格性審査」と「幹部候補者名簿の作成」を官房長官がおこない、そこから「任用候補者の選抜」、さらに「任免協議」という段階に移る。

 わけても官邸による影響力を行使できるのが、この「任用候補者の選抜」や「任免協議」だ。とくに「任免協議」に参加を許されるのは、首相と官房長官、官房副長官、それに各省庁の大臣で、事務方は排除される。首相の安倍はもとより、官房長官の菅義偉による霞が関人事が取り沙汰される所以だ。

「その前の適格審査などは、さすがに次官クラスの人で審査に通らない人はいませんので、そこで差し戻されることはない。だがそこから先の『任免協議』などで何が話し合われているのか、については、われわれ(事務方)の知る由はありません。協議のあと人事検討会議が同日に開かれ、閣議を経て人事が発表されるだけ。その前段階の『任免協議』は、いつおこなわれているのかさえ知りません」(内閣官房関係者)

 基本的に中央省庁の人事原案は、任命権者である各大臣が了承している。その原案が拒否されたり、差し戻されたりする場が、「任免協議」だ。つまり、ここが完全な政治的ブラックボックスになっているのである。

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