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税務署員は実地調査で"愛人の有無"を聞く

写真=iStock.com/stevanovicigor

税務署の人事は毎年7月に一新され、新たな事務年度が始まる。そこで7月から新たに税務調査に向けた準備が始まることが多い。

会社などの法人だけでなく、個人の場合でも、悪質な申告漏れは「実地調査」で指摘され、なかでも相続税の場合、税務署の職員が自宅をたずね、財産をチェックする。その結果、8割以上で申告誤りが指摘されているという。

何をどうやって調べるのか。昨年まで東京国税局の職員だった小林義崇氏が解説する――。

■主な申告漏れ財産は「預貯金」「土地」「有価証券」

相続税の調査に関する最新情報は、国税庁のウェブサイトにある発表資料で確認できる。

昨年11月発表の「平成28事務年度における相続税の調査の状況について」によると、相続税の実地調査件数は1万2116件であり、そのうち申告漏れなどの非違(ひい)があったのは9930件。つまり、実地調査を受けたケースのうち、82%に何らかの非違があったということだ。

国税庁の発表では、申告漏れのあった相続財産(総額3233億円)の内訳も発表されており、「現金・預貯金等」の1070億円が最も多く、「有価証券」の535億円、「土地」の383億円と続く。その他は具体的に示されていないが、生命保険金や死亡退職金などと推測される。

いずれにせよ、相当な財産の申告漏れが、実地調査により把握されていることが分かるだろう。

なお、ここでいう「実地調査」とは、相続人や関係人のところに税務職員が直接出向いて聞き取り調査を行うような調査を指し、相続税の場合は一般的に9月頃から本格化する。その他に、簡単な計算誤りについて電話連絡で是正を求めるような調査もあるが、今回は、「実地調査」を取り上げて解説する。

■相続税の実地調査は、誰が、どこで立ち会うのか

相続税の法定申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日から10カ月以内である。この法定申告期限から1年以上たってから実地調査が行われるのが一般的だ。つまり、被相続人が亡くなってから2年程度たってから初めて実地調査が行われることになる。

実地調査の対象になるのは、税務署による審査の結果、申告に誤りがあると“想定される”場合であり、相続税を申告したすべての人に実地調査がなされるわけではない。

対象に選ばれると、まずは、税務署の職員から、申告書の作成を委任した税理士や相続人に連絡がなされ、実地調査を行う場所や日時を決めることになる。

実地調査を行う場所は、被相続人が生前住んでいた自宅で行われるのが一般的だ。実地調査の目的のひとつに、被相続人が生前管理していた財産をチェックするというものがあるからである。そのため、調査の立ち会いは、被相続人と生前同居していた親族が対応するケースが多い。

なお、税務調査に立ち会うことができるのは、課税の対象となる本人か、委任した税理士に限られる。相続税の場合は相続人であれば課税の対象者となるため、希望すれば相続人全員で実地調査に立ち会うこともできる一方、相続人でなければ、親族であっても調査に立ち会うことは許されない。

■「趣味は何か?」プライベートに踏み込む調査

相続税の実地調査は、午前中に相続人からの聞き取りからスタートし、その後通帳などをチェックする「現物調査」が行われるのが通常の流れだ。たいていは1日で終わるが、チェックする資料などが多ければ数日かけて行われることもある。

最初に行われる聞き取り調査では、被相続人の生い立ちや家族関係、趣味など、プライバシーに踏み込んだことを聞かれることも少なくない。もちろん、これは興味本位ではなく、相続税の調査においては欠かせないポイントだからだ。

所得税などと違い、相続税は被相続人が亡くなった時点の“財産”に対して課せられるものである。そのため、「どのようにして財産を築いたのか」という観点から調査が行われ、プライバシーに関わることにも踏み込まざるを得ない。

たとえば、被相続人に愛人がいたという情報を把握すれば、相続財産の一部がその愛人に流れているのではないかという疑義が生じる。また、お金のかかる趣味があったのであれば、申告した相続財産が少ない理由になるかもしれない。

このように、さまざまな情報が相続税の判断につながる可能性があるため、相続人から聞き取る内容は多岐にわたる。

こうした聞き取り調査の内容に、特に重要な証言があった場合、「質問応答記録書」といった文書を税務職員が作成することになる。質問応答記録書は、税務職員と相続人との口頭のやりとりを文書に残し、双方が文面を確認したうえで署名押印するものであり、その後の税務処分の根拠として扱われる。

■“ガサ入れ”は、あくまでも同意のもとで

次に、「現物調査」について説明する。

現物調査では、通帳や保険証書など、相続税の申告をする元となった資料をチェックしていくこととなる。通常の実地調査では、現物調査はあくまでも相続人の同意のもとで行われるため、勝手に引き出しを開けられたりすることはない(裁判所の許可を得て行われる強制調査の場合を除く)。

現物調査の際、財産に関連するものだけでなく、その“保管場所”を見せるように求められることがある。相続税の調査の主な目的は、申告書に“計上されていない”財産を発見することだからである。

このため、「被相続人の日記を見せてほしい」「クローゼットの引き出しの中を見せてほしい」といった要望が税務職員から出る可能性もある。

なお、現物調査は同意がなければできないことから、「これは見せられない」と断ることもできる。しかし、むやみに調査に非協力的だと、「何かを隠しているのでは」といった心象を持たれ、さらなる調査が行われる可能性があることは考慮しておきたい。

■家族の通帳までチェックされる理由

現物調査でチェックされるポイントは複数あるが、特に税務職員が注視するのが「預貯金」だ。国税庁の発表資料でも示されたように、預貯金の申告漏れは非常に多い。

税務職員がチェックするのは被相続人名義の通帳に限らない。時には家族名義の通帳であっても提示を求められることがある。というのも、かつては銀行などの口座を仮名や家族の名前で作ることもできたため、名義は違っても実質的には被相続人の財産というケースがあり得るからだ。

また、被相続人から、生前に相続人へ預金が移っている場合も、やはり問題になりかねない。相続税には、被相続人の死亡前3年以内に贈与をされた財産は相続税の計算に含めるというルールがあるからだ。

こうしたチェックがなされることから、被相続人の預金から生前に大きな出金がある場合は、そのお金がどこに流れたかをきちんと説明できるようにしておくといいだろう。

なお、実地調査の際に、たとえば被相続人の財産に関する資料を意図的に隠していたような場合、後々問題となることがある。税務職員は、金融機関や証券会社などに照会し、取引の状況を調べることができるため、時間をかければ、隠された相続財産であっても発見することができるからだ。

そうした調査の結果、意図的に相続財産を隠して少なく申告していたと認められるような場合、追徴税としてもっとも重い「重加算税」が課せられる可能性もあるため、下手に財産を隠すのは禁物だ。

■調査が終わると、申告と納税をやり直す

相続人への実地調査を経て、税務職員がその他に必要な調査や検討を終えると、「調査結果のお知らせ」が交付または送付される。もちろん、当初の申告に誤りがなかったとの結論が示されることもあるが、冒頭で説明したように8割以上は何らかの誤りがあるため、本来の税額がここで示される。

申告に誤りがあった場合、申告のやり直しとして「修正申告書」の提出を求められるが、これは、あくまでも自主的なものだ。ただし、修正申告書の提出に応じなければ、「更正処分」がなされ、強制的に納税義務が課されることになる。

修正申告を提出し、または更正処分を受けると、次に必要なのは「納税」だ。

本来納めるべきだった税額に不足する金額はもちろん、非違の内容によって課される「加算税」や「延滞税」といった追徴税も納めなくてはならない。これらの納税が済めば、基本的には相続税に関する手続きはひととおり終わることになる。

なお、更正処分や追徴税など、税務署等による処分に不服がある場合は、税務署長等に対して「再調査の請求」を行うか、国税不服審判所長に対して「審査請求」を行うことにより、処分の適否を争うこともできる。

いずれにせよ、相続税は少なくない税負担が生じるため、さらに追徴税を課されないよう、あらかじめ正しく申告しておきたいところだ。

小林義崇(こばやし・よしたか)
フリーライター
1981年福岡県生まれ。西南学院大学商学部卒。2004年に東京国税局の国税専門官として採用。以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事する。2014年に上阪徹氏による「ブックライター塾」第1期を受講したことを機に、ライターを目指すことに。2017年7月、東京国税局を辞職し、フリーライターに。

(フリーライター 小林 義崇 写真=iStock.com)

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