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介護の未来は、"新しい人間主義"以外にあり得ないと確信しています。結局、人薬にまさるものはありません。 - 「賢人論。」第65回斎藤環氏(後編)

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全国のひきこもり家族から相談を受け付けている斎藤環氏はこれまで、精神科医として、臨床の現場で精神疾患を抱える多くの患者と向き合ってきた。人が人を看護する、人が人を介護する、これらはいったいどういうことなのか。現在の介護業界が抱える問題を、ベテラン精神科医はどのように見ているのだろう。

取材・文/盛田栄一 撮影/公家勇人

介護をロボットに任せ過ぎると、される側の精神が荒廃してしまう恐れがある

みんなの介護 「ひきこもり」と「介護」の問題は、構図が似ています。前者は、ひきこもった子どもを親がどう支えていくかがポイント。後者は、介護が必要になった親を子どもがどう支えていくかがポイント。支える人・支えられる人の関係は真逆ですが、家族間のサポートが重要である点に変わりありません。ひきこもり問題の専門家である斎藤さんから、介護の問題解決につながるヒントを教えていただければ幸いです。

斎藤 先ほど、引きこもり支援は文化であると述べましたが、介護もまた、文化の一つとして考えるべきだと思います。今、私が注目しているのは、介護や看護など、人が人を支援する業界で「新しい人間主義」というべきものが台頭してきていること。「新しい人間主義」は、たとえば次の4つの「手法/思想」に象徴される動きです。

まず、介護業界における「ユマニチュード」。これはご存じの通り、フランスのイブ・ジネストさんらが開発した、対人接触の際のメソッドのこと。「目と目が合ったら2秒以内に話しかける」など、個人の尊厳を徹底的に重視した150の手法で構成されていて、認知症ケアの現場で圧倒的な成果を上げています。

精神医療の分野で注目されているのが、「オープン・ダイアローグ」というケアの手法(であり思想)です。これは、精神障害を持つ人に対してその関係者ごと治療に参加してもらい、治療チームとの対話を重ねながら関係性の修復をはかるというやり方。統合失調症やうつ病にも有効であると言われています。私がいま、最も啓発活動に力を入れている分野でもあります。

みんなの介護 やはりどちらも”人間”中心のアプローチなのですね。残り2つについても教えていただけますか?

斎藤 薬物依存症の現場では、「ハーム・リダクション」という考え方が話題になっています。これは、薬物依存の人に対して、「薬をやめますか、人間やめますか」と突き放すのではなく、「できれば薬を止めてほしいけど、たとえ止められなくても支援しますよ」と、相手に歩み寄る手法ですね。具体的にいえば、「ヘロインの常用はさすがに認められないけど、もう少し毒性の低いメサドンに置き換えるなど、薬物依存を命に別状のないレベルにとどめていきましょう」という手法です。

そしてホームレス支援では、「ハウジングファースト」といって、ホームレスの人にまず住居を提供しようという運動が広がりつつあります。これまでのホームレス支援では、手始めにフードスタンプを配布するなど、ホームレスの人が段階的に社会復帰できる仕組みを模索していました。ところが、実は最初から思い切って住む家を提供してあげたほうが、社会復帰率が高まることがわかってきたのです。

みんなの介護 これらを総じて説明する特徴とはどのようなものなのでしょう。

斎藤 これらの新たな手法/思想に共通しているのは、その中心に、常に人間がいること。それも、人間の現前性、身体性、言語を重視するという点が特徴的で、ちょっと古いタイプのヒューマニズムに通じるものがあります。

ただし、この新しい人間主義がかつてのヒューマニズムと決定的に違うのは、科学的なエビデンスを持っていること。かつてのヒューマニズムのように哲学や思想の文脈で正当性をアピールするよりも、「実際に人が関わったほうがこんなにも成果を上げている」と具体的にエビデンスを提示するわけです。そのため、一時的に”ポストヒューマン”的な意味で「人間離れ」が起きていた私たちの社会も、「人が関わることの重要性」を再評価せざるを得なくなってきました。

みんなの介護 ICTやAIなどの技術革新によって、社会の効率化や省力化が加速する一方、新たな別の動きが出てきたわけですね。

斎藤 その通りです。AIやロボット技術がどんなに進化したとしても、介護の未来は新しい人間主義の方向以外あり得ない。そう私は確信しています。

もちろん、介護の現場におけるロボットの有用性は否定しません。ヘルパーさんの負担を軽減し、介護をアシストしてくれるロボットの活用は大賛成。ただし、全面的な代替は不可能で、AIやロボットにできることには限界があります。それをしっかり見極めた上で、ロボットを活用すべきでしょう。

例えば、介護のほとんどをロボットに任せてしまうと、介護される側の精神が荒廃してしまう恐れがあります。省力化したつもりが、かえって手間が増えてしまうという、よくあるパラドックスが起こりそうですね。人として言葉を交わし、人として相手に敬意を払うこと。介護の現場では、やはり人にしかできないことの方が圧倒的に多いのです。一見手間がかかりそうなユマニチュードも、結果的には患者さんの自立度を高めるかたちで、介護者の負担を軽減しています。結局、人薬(ひとぐすり)にまさるものはありません。そのあたりは、実際に現場で働いている人たちのほうが実感なさっているのではないでしょうか。

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