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皇位継承問題を考える(9.相手をおとしめる残念な主張はやめよう)

さて、前々回 は国家観・天皇観という側面から、前回 は実務的な側面から、女系天皇の賛成論と反対論の強みと弱みを分析してきました。

 その私なりの結論は、女系天皇も旧皇族復帰も、それぞれのしっかりした国家観・天皇観に基づくものであり、また、どちらも実務的な障害は少ないというものです。

 つまり、女系天皇か旧皇族復帰かは「どっちを選んでも不都合はないけど、どっちが好み?」という問題だということです。

 したがって、論争は「自分の意見がいかに多くの人の好みに近いか」を争う前向きなものであるべきで、「相手の意見がいかに不都合であるか」を争う後ろ向きなものであってはいけないと思います。

 しかし、政治の場で、論壇上で、ネット上で繰り広げられている論争を見ると、相手の意見が不都合であることを主張するものが目立つように感じて、残念です。

 今回はそのような、私が見かけた残念な主張を並べてみます。

 伝統でも男女平等でもY染色体でも愛子さま命でもGHQの押し付けでも憲法好きでも、自説の根拠を語る前向きな主張なら何でもありだと思いますが、相手をおとしめる残念な主張だけはやめてほしいと願って。

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↑「GHQ」のイメージ画像

1.女系天皇反対派の残念な主張
(1)女系天皇は天皇制廃止に向けた陰謀
 
 女系天皇の容認は、天皇の権威を低下させ、天皇制廃止への道筋をつけようとする陰謀だという主張。

 いや、女系天皇が生まれた後、あなた方が権威を低下させるような主張をするのが原因では?
 仮に反対派が矛を収めて女系天皇を認めたとして、女系天皇がただ女系天皇であるというだけで、本当に権威が落ちるんでしょうか。

 百歩譲って、天皇の権威が低下し、天皇制廃止に近づくリスクがあるとしましょう。
 それなら逆に、旧皇族復帰にだって、権威が低下するリスクはあるし、男系男子が断絶するリスクもあるし、男系男子にこだわって旧皇族に皇位が移行した後に女系を容認したらなおさら正統性への疑問が生じるリスクがあるでしょう。

 陰謀論は何にでも簡単に作ることができます。風が吹けば桶屋だって儲かります。
 伝統に反すると権威が低下すると言いたいなら、低下すると決めつけて陰謀論でおとしめるのはなく、なぜ権威が低下するのか、その根拠を論じるべきだと思います。

(2)女系天皇は女系・男系ごちゃまぜの「雑系」
 「男系」が父-父-父……とたどっていくように、「女系」と言うなら母-母-母……とたどるルールにすべき、母-父-父-母……のように無原則にたどるなら、「女系」ではなく「雑系」と呼ぶべきだという主張。

 いや、単に親から子へと直系優先でたどるというだけですが、それが何か?
 「女系」と呼ぶのがおかしいと言うなら、「直系優先」でもいいし、「案A」でもいいし、「ホンダラパー」でも「スチャラカホー」でも、ネーミングは何でもいいですが。

 ネーミングは記号でしかなくて、論ずるべきは内容です。
 母-父-父-母……とたどるという内容に問題があると言うなら、そう言えばいい。

 「雑」なんて漢字を使って、ネーミングで悪い印象を与えようとするのはムダな努力

(3)女系天皇は法隆寺をコンクリートで建て替えるのと同じ
 こういう主張を見かけたことがあります。

 女系自体が悪いのではない。たとえば世界最古の木造建築である法隆寺を鉄筋コンクリートで建て替えてしまったら、それはもう法隆寺ではない。鉄筋の寺院があっても構わないが、法隆寺にそれはふさわしくない。同様に、諸外国に女系の王家があるのは構わないが、日本の天皇家にはふさわしくない。

 おお、なかなかよくできた例示ですね。
 「男系継承が日本の天皇家の本質である」という、一方の価値観をわかりやすく表現できていると思います。

 なので、男系継承の天皇を木造の法隆寺に例える例示そのものは、残念な主張だとは思いません。
 その主張をする人が、「男系継承は日本の天皇家の本質ではない」という、もう一方の価値観を表現する例示の存在も認めるならば。

 例示というものは、「この意見はこういう考え方に基づく」ということをわかりやすく示すものにすぎません。
 違う意見が存在するならば、その意見が基づく考え方をわかりやすく示す例示もまた、必ず存在します。

 法隆寺の例示はよくできていますが、この例示を盾に、女系天皇は鉄筋コンクリート製の法隆寺だと決めつけて否定するのは、残念な主張だと思います。

(4)まとめ
 3つをまとめると、いずれも、女系天皇に根拠なくダメそうに見えるレッテルを貼ろうとするものですね。
 陰謀論、ネーミング、例示でレッテルを貼るのは、いかにもお行儀が悪く見えるので、正直、やめた方が説得力があっていいと思うんですけど……。

 それとも、実はこういうのけっこう説得力があるんでしょうか。う~ん、そうかも。

2.女系天皇賛成派の残念な主張
 女系天皇反対派の残念な主張が、お行儀が悪い一方で、強烈なインパクトがあり特定の層に火のように強い訴求力があるのに対し、女系天皇賛成派の残念な主張はその逆。

 お行儀はいいけれどずるくて、目立たないけれど不特定多数に水のようにさりげなく広がる浸透力があります。

 「皇室典範に関する有識者会議」の報告書 を読んで感じるのは、国家観・天皇観みたいな大きな論争は避け、実務的な議論で女系天皇に着地させようという逃げの姿勢

 そのような姿勢は、報告書の「はじめに」で、「現行憲法を前提として検討することとし」と、議論の枠を縛っているところに典型的に表れています。
 さらに、「まず、現行の皇位継承に関する制度の趣旨やその背景となっている歴史上の事実について、十分に認識を深めることに力を注いだ」と、さりげなく、歴史や伝統を背景に追いやり、現行の皇位継承制度を前面に押し出しています。

 その後も、さりげなく目立たぬように、歴史や伝統、それに支えられる旧皇族復帰論をさも存在しないかのように無視し、淡々と現行憲法と現行皇室典範の延長線上から、女系天皇がいかに妥当かを論じていきます。
 反対派が女系天皇を無視せず、積極的に否定しようとしているのと好対照です。

 そういうさりげなさが女系天皇賛成派の残念な主張の特徴なので、これといって目立ったダメな主張はありません。
 ので、その残念さを具体例つきでうまく紹介できません。う~ん、実にずるい。

 それでも何とか、「皇室典範に関する有識者会議」の報告書から、特徴的な1文を引用しておきます。

 国民が、象徴としての天皇に期待するものは、自然な血統に加え、皇位とともに伝えられてきた古来の伝統や、現行憲法下の60年近くの間に築かれてきた象徴天皇としての在り方を含め、皇室の文化や皇族としての心構えが確実に受け継がれていくことであろう。このような観点から皇位継承資格者の在り方を考えた場合、今日、重要な意味を持つのは、男女の別や男系・女系の別ではなく、むしろ、皇族として生まれたことや皇室の中で成長されたことであると考えられる。

3.まとめ
(1)レッテル貼りや逃げはやめて、がっぷり四つに組むべし
 反対派が女系天皇にレッテルを貼っておとしめる攻撃に出たり、賛成派が旧皇族復帰論を存在しないかのように扱いたくなるのも、わからないではありません。

 世論調査の結果を見てもわかるとおり、論争の現状は女系天皇賛成派が有利。
 不利な反対派はリスクを負ってでもネガティブキャンペーンを張るしかないし、有利な賛成派は正面激突を避けて逃げ切ればいい。そう考えたくなるのはわかります。

 しかし、そこはお互いに一歩譲って、反対派はレッテル貼りをやめ、賛成派は旧皇族復帰という選択肢もあることを無視せず認めるべきなんじゃないでしょうか。
 お互いに相手方の選択肢にも正当性があることを認め合い、国家観・天皇観といった論争でがっぷり四つに組む姿を見せることが大切だと思います。

(2)女系天皇への賛成派と反対派の主張に足りないもの
 がっぷり四つに組むに当たり、女系天皇への賛成派にも反対派にも、主張が足りていない部分があると思うので、指摘しておきます。

 まず賛成派は、女系天皇は旧皇族復帰に比べ伝統に外れていることを認め、しかし、そのような家父長制的な家制度や男女の権利の格差のなごりを残す伝統は、戦後の諸改革、旧皇族の皇籍離脱とともに捨て去ったのだと堂々と主張すべきだと思います。

 かなり論争を呼びそうな主張ではありますが、やはりここにこそ、旧皇族復帰より女系天皇を優先する考え方の根源があるのだと思います。

 次に反対派は、「男系継承は長く続く伝統」の一点張りでなく、今の時代において男系継承を行うことの実質的な価値を、伝統に頼らず白紙から説明すべきだと思います。

 ここを煎じつめれば、家庭や社会における男女の役割の違いという観点から説明するしかなくなるはずです。
 男女の役割にはこういう違いがあり、それは今後も守り続けていくべきもので、それを天皇に象徴させるのだと堂々と主張し、世に問えばいいと思います。

 伝統という要塞にたてこもっていたら、決して国民の過半数の賛同は得られず、判定負けするのは目に見えています。

(3)おわりに
 最後に、相手をおとしめる残念な主張をしている方に聞きたいことがあります。

 あなたの支持するのが旧皇族復帰と女系天皇のどちらであっても、数十%の確率で負ける可能性があります。
 負けたとき、どうするつもりですか?  レッテルを貼ったり無視したりしてきた制度であっても、国民がそれを選択した暁には祝福する用意はありますか?
 それとも、こんなのは間違ってると言い続けて、天皇制への国民の理解と支持を落とし続けるつもりですか?

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