※本稿は、ダグ・スティーブンス・著、斎藤栄一郎・訳『小売再生 リアル店舗はメディアになる』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■FB上の「ファン」数が“水増し”されて見えるカラクリ
大手の小売業者やブランドがソーシャルマーケティングにかける意気込みは結構なのだが、計算上の明らかな不備を見逃しているようだ。桁外れの記録やユーザー数にはビジネス系のメディアが思わず飛びつくものだが、事はそう単純ではない。潜在的な投資効果がどの程度あるのか本当に理解するには、いくつか注意しておくべき「ただし書き」がある。
ところが、マーケティング担当者のなかで、それを知っている人や、知っていても積極的に認めようとする人はまずいないようだ。それが原因で問題が発生していることに、メルボルン・ビジネススクール助教授のマーク・リットソンも怒り心頭だ。

リットソンの見事なプレゼンテーションがユーチューブで公開されているのでぜひご覧いただきたいのだが、そのなかでリットソンは、うわべだけ取り繕っていることが多いソーシャルメディアマーケティング関連のデータを詳しく吟味している。
典型的な例を挙げよう。リットソンが着目したのは、オーストラリアの小売業者ウールワースが取り組んでいるソーシャルメディア活用のマーケティング活動だ。同社はブランドとしてフェイスブック上で72万1000の「いいね!」を集めていて、一見すると、立派な数字のように思える。だが、ここで実態をもう少し詳しく掘り下げておく必要があるとリットソンは指摘する。
フェイスブック上で72万1000ものファンを集めたというが、これは、ウールワースに「いいね!」を押したことのあるフェイスブックユーザーの数である。現時点で同ブランドを使っているユーザー数でも、同ブランドに熱を上げているユーザー数でもないのだ。リットソンが言うように、任意の週にフェイスブック上でウールワースに関心を示した「現役ファン」の数を見ると、わずか8500人にとどまる。あの大風呂敷を広げた数字のほんの1.1%にすぎないのだ。
■「いいね!」をしてくれる人と来店してくれる人とどちらが大事?
何よりも理解に苦しむのは、ウールワースが専任のソーシャルメディアチームを使いながら接触できたのは8500人のフェイスブックユーザーにとどまった一方、実店舗には「2100万人が来店」していた。つまり、同ブランドがフェイスブック上で(結構な予算を費やして)顧客全体の0.0004%を追いかけている最中に、2100万人の本物の人間が顧客として店舗に足を運んでいたわけだ。だったら、本当に足を運んでくれた2100万人をとことん喜ばせることに予算を使ったほうがましなのではないか。
こうした惨憺たる状況はフェイスブック上で「いいね!」を探し求めているほとんどの消費者向けブランドに共通して当てはまる。リットソンに言わせれば、これはブランド側がソーシャルメディアにおいて、彼らには「存在価値がない」事実を認識できていない。「間違った使われ方をしている。ソーシャルメディアは人々のものであって、ブランドのものではない」と前出のリットン教授は言う。
ツイッターで上位100のユーザーアカウントを眺めてみればわかるが、小売業者や消費者向けブランドは1つたりとも入っていない。むしろメディアネットワークや有名人がずらりと名を連ねている。
ソーシャルメディアでのマーケティングの実質的な価値が問われたのは、なにもこれが初めてではないだろう。フォレスター・リサーチのバイスプレジデントでプリンシパル・アナリストのネート・エリオットは先ごろ、ブランド各社に向けて次のような助言をしている。
『そこにコミュニティはない。「フェイスブック上にコミュニティを築く」という考え方があるようだが、フェイスブック上で息の長いコミュニティづくりに成功したブランドをいまだかつて見たことがない。おそらくは何らかの話題がきっかけで1週間ほど人々が集まってくるかもしれないが、会話の流れが生まれることはない。アーカイブとしてまとめられることもない。有意義なコミュニティは形成されない。投稿にたくさんの「いいね!」がついたり、コメントやシェアの対象になったページがいくつもあったとしても、それはコミュニティではない。
フェイスブック上にコミュニティを築くという考え方をしたり、ページを管理する人々をコミュニティマネージャーと呼んだりしているが、それはいつも夢物語に終わる。コミュニティが本気で欲しいなら、自らコミュニティを築く必要がある。つまり、自らが所有する場でブランド色のあるコミュニティを作るほかないのだ』
■動画広告は、目に入っただけで「見た」とカウントされていた
ならば、徹底的にターゲットを絞った広告活動なら確かな効果が得られるのだろうか。リットソンによれば、それも難しいらしい。その理由は、フェイスブックで成果を上げている広告の「インプレッション」なるものと大いに関係がある。たとえば、フェイスブック上ですごい動画広告を制作・掲載する場合を考えてみたい。フェイスブック上の動画表示エリアのうち、ほんの数ミリだけでも利用者の目に入っただけで、実際にはコンテンツ自体を視聴しなかったとしても、フェイスブックは閲覧したと判断して広告主に料金を請求する。
話はそれだけで収まらない。フェイスブック上にある動画のおよそ85%は音声が消音の状態で再生されていて、音声を耳にしている利用者は15%にとどまっている。現在、フェイスブック側でもこの問題の対応に動いているということだが、それでもバカらしいことに、音声オフでも動画がたった3秒再生されるだけで、1回視聴されたとカウントして、広告主は広告料金を払わされるのだ。