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- 2012年02月01日 10:49
【荻上チキインタビュー 第2回】ネットメディアと政治論議(1) 津田大介×荻上チキ
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■Twitterは「世論」を生み出すか?
荻上 新しいメディアを作るというのは、今、社会に存在している課題を解決するための一つの方策だと思います。現状に何も不満を抱いていないなら、メディアを立ち上げる必要などないはずです。津田さんが新しい政治メディアを立ち上げるというのなら、そもそも現在の日本の政治メディア、既存メディアに対して抱いている違和感や苛立ちは一体何なのか、そして何をすることで問題解決を図ろうとしているのかを、本日は伺いに参りました。
ぶっちゃけた話をすれば、津田さんがツイッターで「政治メディアをやる!」とよく書いているのだけれど、どういうのをやるのかがまだ詳述されてなかったので、焦れったくなって、直接聞きに来た、というわけです(笑)。まず、そもそも、「政治メディア」をつくろうと思ったいきさつを教えていただけますか。
津田 新しい政治メディアをつくりたいと考え始めたのは、おそらく政権交代が起きる前ぐらいからです。その頃からネットと政治の関係がよく語られるようになりました。そのときはまだ、ネット世論とリアル世論の乖離が激しいなと思いつつも、ソーシャルメディアが普及していく中で、徐々にその乖離は近くなっていくんだろうなと考えていました。そんなときに、民主党の藤末健三さんがTwitterを使った選挙活動を行うと宣言して騒動になりました。
藤末さんがやった戦略はなるほどと思ったんですね。藤末さんは、マニュフェスト違反だと述べる民主党に対してTwitter上であがった非難を全部紙に印刷して党の執行部に持っていき、今、世論からこんなふうに叩かれているということを示しました。記者会見をオープンにしたほうがいいと交渉して、少しずつ開示していったんですね。
それを見たときに、これは風向きが変わるんじゃないかと思いました。プリントアウトして持っていくというのはすごくアナログな手法なんだけれども、束を見せられるとやっぱりインパクトがある。官僚がよくやる手法ですね。ただ、世論といってもあくまでも括弧がきの「世論」です。それでも「2ちゃんねる」みたいなものとは違って、IDに紐づいた、それなりにちゃんとした人たちの意見がこれだけあるということを示しました。
荻上 偏りながらも、「国民の声です」っていえるものではある。実際の輿論であるかはともかく、「世論」として受け止められうる、使いうる、ということがわかったということですね。
津田 そうですね。こんなふうにソーシャルメディアがそれなりに聞くべきような「世論」の上澄みをつくって、それを政治家や官僚にぶつけることで、状況が少しずつ動いていくんじゃないかなという可能性を感じたのが、政治メディアを立ち上げたいと思ったひとつのきっかけではありますね。
荻上 ネットの有効活用の形を、もっと具体的につくれないかと考えつづけてきたと。
■審議会に参加する
津田 ぼくが政治政策に強く興味を持ったのは2006年に審議会議員になったことがきっかけです。著作権という小さな分野ではあるけれども、審議会で政策決定に参加した経験が大きかった。法律が変わるものの一端の責任を担わされ、政策が決まっていくプロセスを実際に見ました。そのときに思った問題点のひとつが、議論するメンバーの偏りです。研究職、利害関係者は呼んでいるけど一般消費者の意見は主婦連とぼくだけで、もう少し多様な人を呼べないだろうかと。それを官僚の人に伝えても、「消費者代表を呼べといっても誰を呼べばいいのかわからない」で終ってしまう。
荻上 一般消費者の人といっても、普通の通行人とか呼んできてもしょうがない。まっとうな議論ができる人なのかどうかがわからないですから。ただ、「お眼鏡にかなった人」しか声がかからないわけで、「声」を届ける入り口はどうしても狭くなるわけです。
津田 そうですね。そこで、ぼくは2007年に「MIAU」(インターネットユーザー協会)という団体をつくりました。政策にコミットするということを、まずは審議会に参加できる団体をつくることからスタートした。今は、審議会のヒアリング(意見聴取)に呼ばれるぐらいにはなりましたが、決定権を持つ専門委員として声がかかるわけじゃない。おそらくそれは、上の人から呼ばれるような仕組みになっているからなんですね。社会的な立場や年齢が上の人のあとに、ようやく30代が参加できるようになっている。
荻上 専門家枠は上から順という印象がありますね。「文化人枠」「有名人枠」だったら若手も入るんですけどね。乙武洋匡さんや湯浅誠さん、駒崎弘樹さんといった方々は審議会などにも参加した著名な方ではありますが、駒崎さんにしても「すごい浮いてた」といっていました。
津田 そう、それではなかなか厳しい。政策に対してもっと一般の人たちが考えてコミットできる機会を増やしたいと思ったんですね。パブリックコメント(意見公募)以外で何ができるかを考えると、もしかしたらひとつはTwitterだし、Twitterよりも一段上のメディアをつくる必要があるんじゃないかと。
2009年に『Twitter社会論』(洋泉社)を出し、それから2年間は、ソーシャルメディアの解説者としていろいろなところから呼ばれる機会が多くなり、ずっと忙しいままでした。忙しくなったがゆえに今がバブルであるなとも感じてた。自分自身が次のフェーズに行かなければいけないし、政策をもっとわかりやすく伝えるメディアがあったほうがいいんじゃないかと本気で考え始めたんですね。
荻上 あえて「ツイッターの伝道師」のように振る舞うことで、政治状況を変えやすくすべくコミットしていた面もあったと。
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昨年9月に有料メールマガジン『津田大介の「メディアの現場」』を始め、その収益をもとに、今年新たな「政治メディア」を立ち上げようとしているジャーナリストの津田大介さん(38)。政局報道中心の既存メディアに対し、政策をベースにしたネットならではの新しい情報発信のモデルを提示しようとしている。Twitterやニコニコ動画などの、ソーシャルメディアを通じて渦巻く有象無象の政治論議は果たして日本を変えるのか。「ネットメディアと政治」の新たな可能性について、荻上チキと語った。(構成/宮崎直子・シノドス編集部)
■Twitterは「世論」を生み出すか?
荻上 新しいメディアを作るというのは、今、社会に存在している課題を解決するための一つの方策だと思います。現状に何も不満を抱いていないなら、メディアを立ち上げる必要などないはずです。津田さんが新しい政治メディアを立ち上げるというのなら、そもそも現在の日本の政治メディア、既存メディアに対して抱いている違和感や苛立ちは一体何なのか、そして何をすることで問題解決を図ろうとしているのかを、本日は伺いに参りました。
ぶっちゃけた話をすれば、津田さんがツイッターで「政治メディアをやる!」とよく書いているのだけれど、どういうのをやるのかがまだ詳述されてなかったので、焦れったくなって、直接聞きに来た、というわけです(笑)。まず、そもそも、「政治メディア」をつくろうと思ったいきさつを教えていただけますか。
津田 新しい政治メディアをつくりたいと考え始めたのは、おそらく政権交代が起きる前ぐらいからです。その頃からネットと政治の関係がよく語られるようになりました。そのときはまだ、ネット世論とリアル世論の乖離が激しいなと思いつつも、ソーシャルメディアが普及していく中で、徐々にその乖離は近くなっていくんだろうなと考えていました。そんなときに、民主党の藤末健三さんがTwitterを使った選挙活動を行うと宣言して騒動になりました。
藤末さんがやった戦略はなるほどと思ったんですね。藤末さんは、マニュフェスト違反だと述べる民主党に対してTwitter上であがった非難を全部紙に印刷して党の執行部に持っていき、今、世論からこんなふうに叩かれているということを示しました。記者会見をオープンにしたほうがいいと交渉して、少しずつ開示していったんですね。
それを見たときに、これは風向きが変わるんじゃないかと思いました。プリントアウトして持っていくというのはすごくアナログな手法なんだけれども、束を見せられるとやっぱりインパクトがある。官僚がよくやる手法ですね。ただ、世論といってもあくまでも括弧がきの「世論」です。それでも「2ちゃんねる」みたいなものとは違って、IDに紐づいた、それなりにちゃんとした人たちの意見がこれだけあるということを示しました。
荻上 偏りながらも、「国民の声です」っていえるものではある。実際の輿論であるかはともかく、「世論」として受け止められうる、使いうる、ということがわかったということですね。
津田 そうですね。こんなふうにソーシャルメディアがそれなりに聞くべきような「世論」の上澄みをつくって、それを政治家や官僚にぶつけることで、状況が少しずつ動いていくんじゃないかなという可能性を感じたのが、政治メディアを立ち上げたいと思ったひとつのきっかけではありますね。
荻上 ネットの有効活用の形を、もっと具体的につくれないかと考えつづけてきたと。
■審議会に参加する
津田 ぼくが政治政策に強く興味を持ったのは2006年に審議会議員になったことがきっかけです。著作権という小さな分野ではあるけれども、審議会で政策決定に参加した経験が大きかった。法律が変わるものの一端の責任を担わされ、政策が決まっていくプロセスを実際に見ました。そのときに思った問題点のひとつが、議論するメンバーの偏りです。研究職、利害関係者は呼んでいるけど一般消費者の意見は主婦連とぼくだけで、もう少し多様な人を呼べないだろうかと。それを官僚の人に伝えても、「消費者代表を呼べといっても誰を呼べばいいのかわからない」で終ってしまう。
荻上 一般消費者の人といっても、普通の通行人とか呼んできてもしょうがない。まっとうな議論ができる人なのかどうかがわからないですから。ただ、「お眼鏡にかなった人」しか声がかからないわけで、「声」を届ける入り口はどうしても狭くなるわけです。
津田 そうですね。そこで、ぼくは2007年に「MIAU」(インターネットユーザー協会)という団体をつくりました。政策にコミットするということを、まずは審議会に参加できる団体をつくることからスタートした。今は、審議会のヒアリング(意見聴取)に呼ばれるぐらいにはなりましたが、決定権を持つ専門委員として声がかかるわけじゃない。おそらくそれは、上の人から呼ばれるような仕組みになっているからなんですね。社会的な立場や年齢が上の人のあとに、ようやく30代が参加できるようになっている。
荻上 専門家枠は上から順という印象がありますね。「文化人枠」「有名人枠」だったら若手も入るんですけどね。乙武洋匡さんや湯浅誠さん、駒崎弘樹さんといった方々は審議会などにも参加した著名な方ではありますが、駒崎さんにしても「すごい浮いてた」といっていました。
津田 そう、それではなかなか厳しい。政策に対してもっと一般の人たちが考えてコミットできる機会を増やしたいと思ったんですね。パブリックコメント(意見公募)以外で何ができるかを考えると、もしかしたらひとつはTwitterだし、Twitterよりも一段上のメディアをつくる必要があるんじゃないかと。
2009年に『Twitter社会論』(洋泉社)を出し、それから2年間は、ソーシャルメディアの解説者としていろいろなところから呼ばれる機会が多くなり、ずっと忙しいままでした。忙しくなったがゆえに今がバブルであるなとも感じてた。自分自身が次のフェーズに行かなければいけないし、政策をもっとわかりやすく伝えるメディアがあったほうがいいんじゃないかと本気で考え始めたんですね。
荻上 あえて「ツイッターの伝道師」のように振る舞うことで、政治状況を変えやすくすべくコミットしていた面もあったと。
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