リニア中央新幹線は、大深度地下利用の認可を受けなければ、実現しない「夢の新幹線」です。
JR東海が3月、国交大臣に大深度地下利用を認めるよう申請し、それを受けて公聴会(国交省が意見を聞く)が開催されました。
奈須りえは、法の要件にかなっていないため、認めるべきではないと意見しました。
大深度地下法は、公共の利益のための事業であることを求めていますが、JR東海は営利企業で、株主利益という私益を追及する株式会社だからです。
公共の利益というのは、誰もが希望すれば受けられるといった簡単なものではなく、
・排除しない
・優遇しない
といった、公共性が求められます。
公聴会で私は、赤字でもやるのか聞きましたが、赤字でもやると答えませんでした。
私は、私益を追及する企業に、個人の財産(個人宅の地下)を公権力が使わせることを許してはならないと考えますが、仮に認めたとしても、儲けには限度があると思います。
政府は、リニアのために平成28年度1.5兆円、29年度1.5兆円、合わせて3兆円の財政投融資をしていますが、いま、本当にリニアの事業のために使われているのでしょうか。

JR東海の設備投資残高は、現在でも5000億円に届きませんし、もちろん平成28年から3兆円も増えていないのです。

現時点で何につかっているのか聞きましたが、JR東海は、財政投融資を受ける前の2010年の当時の経常利益や投資状況の推移を説明して、名古屋間の工事が終わった後、経営状況が悪化した時に使う計画だと言います。
ということは、3兆円は現時点でリニアの建設工事に使っていないのに、すでに3兆円の超低利の融資を国から受けているということになります。(利率は全期間固定の1・0%で、返済期限は2056年1月12日。)
リニア中央新幹線建設とは関係の無い、利殖に使われている疑惑も出てきます。そうなると、3兆円得たことで、株主に多大な利益を与えていることでしょう。
公共の利益のための事業と言いながら、株主の利益のために行う事業になっていないでしょうか。
以下、リニア中央新幹線の大深度地下利用を認めるべきではない理由についての意見公述です。
「中央新幹線品川―名古屋間建設工事」に関わる「大深度地下の使用」について認可を認めるべきではないという立場から公述させていただきます。
私は、大田区の区議会議員をしておりますので、大田区民の声を代表して意見を申し述べさせていただくとともに洗足池の近くに住む住民として発言させていただきます。
【住民に気づかせず、企業に地下利用させる大深度地下法】
リニア中央新幹線は、山梨県や長野県など中央アルプスの問題で、大都市の地下をリニアが走ることをご存じない方は、大勢います。
なぜリニアの問題が伝わらないのかという理由の一つが、この大深度地下法という法律なのだと思います。
地下の深いところは私権がおよばないようにして、事業者に使わせることができる法律だからです。
【見えてきた大深度地下利用の意図】
2000年7月の政府の広報「時の動き」に掲載されている「大深度地下法成立に伴う大深度地下利用」についての特集を読んで、あらためて、大深度地下法の問題点が理解できたと同時に、その意図が見えてきました。
【手間とお金と時間のかかる用地確保を簡略化した大深度地下法】
・高い土地も大深度地下法の地下利用なら無料
政府広報の大深度地下の特集では、当時の国土庁大都市圏整備局長板倉英則(いたくらひでのり)氏が、大深度地下法成立の背景や趣旨や意図について詳しく説明していますのでそこから引用します。
大深度地下法は、バブルのころに地価が異常に高騰して、地上部でのライフラインの用地確保が困難になったので、地下利用に注目したことから始まります。
・手間のかかる合意形成も、大深度地下利用で省略ところが、通常のインフラ整備における用地取得は、地権者との合意を前提として行われますが、それだと、一人一人の地権者を探し当て、特定して、個別に同意を得るのが前提で、土地一筆ごとの土地調書作成も義務付けられるので、非常に手間暇がかかるのだそうです。
・時間のかかる土地収用手続きも、大深度地下利用で省略
しかも、任意買収に応じてもらえなければ、土地収用の手続きをとらなければいけませんが、これも非常に時間がかかります。
そこで、「国民の権利保護に注意して」、円滑に利用するため=つまりは手っ取り早く地下利用できるためのルールを確立する必要があるということで、検討してできたのがこの大深度地下法なのだそうです。
大深度地下法は、インフラ整備の土地取引をスムーズに行わせるために、
憲法 第二十九条の
① 財産権は、これを侵してはならない。
② 財産権の内容は、公共の福祉に適合するように法律でこれを定める。
③ 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。
という原則のもと定められている、
民法第207条
・土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ
の土地の上下に及ぶ権利のうち、土地の下を私権がおよばないようにしています。
加えて、「土地収用法の事前補償の原則」を「事後に請求して初めて補償される」と変えてしまいました。
計画経路の真上に住んでいる方が、家の下をリニアが通ることをご存じないのも、法律が意図していたことだと知って、非常に驚きました。
・大深度地下法で、軽視される国民の権利保護
当時の国土庁の板倉氏は、「国民の権利保護に注意して」と言及していますが、「事前補償を請求されたら事後に」「私権が大深度に及ばない土地所有権」など非常に重大な憲法上の権利を法律で変えてしまっています。
今回のリニアの大深度地下利用について、国やJR東海、東京都および大田区はじめとした地元自治体は、どこまで「国民の権利保護」に注意したのでしょうか。
国民の権利保護は政府の公報の宣伝文句にすぎず、当初から守るつもりはなかったのでしょうか。
口約束にすぎなかった国民の権利保護
これについて、当時の国土庁の板倉局長は、
・土地収用法にもない説明会を前広に開催する、
・収用法や都市計画法にもあるが、一般公衆に対する公告・縦覧・利害関係者の意見書の提出、
・さらに必要に応じて公聴会(これが今日ですね。)
を開催ですから、これをみると、それなりの説明をしているように見えますし、説明会を前広に開催すれば、大深度地下使用の合意形成になるかのような印象です。
しかし、全幹法(全国新幹線鉄道整備法)の認可以降、JR東海は、計画経路上の住民に対して、説明をしてきませんでした。
きめの細かい周知を考えているというのも政府の公報宣伝だったということになります。
今日、こうしてここに集まって意見を述べるのは、計画経路周辺住民のうちのいったい何%、何人でしょうか。