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高齢化するひきこもり支援は文化です。地域の実情に根ざした、オリジナルでオーダーメイドのモデルを作るべき - 「賢人論。」第65回斎藤環氏(中編)

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1986年に筑波大学医学専門学群を卒業した斎藤環氏は、不登校児の研究で知られる故・稲村博助教授の研究室に入局し、診察という形で、後に「ひきこもり」と呼ばれることになる多くの青年たちと出会う。以来、斎藤氏にとって、ひきこもり研究は30年来のライフワークとなった。『「ひきこもり」救出マニュアル』(PHP研究所)、『ひきこもり文化論』(紀伊國屋書店)、『ひきこもりはなぜ「治る」のか?』(中央法規出版)など、多くのひきこもり関連書を発表してきた斎藤氏に、ひきこもりの最新事情と、その高齢化の問題を聞いた。

取材・文/盛田栄一 撮影/公家勇人

ひきこもりは、ダムに流入する砂と同じ。蓄積する一方なんです

みんなの介護 斎藤さんが『社会的ひきこもり』(PHP新書)を上梓し、「ひきこもり問題」を社会に提起したのは1998年。あれから20年が経ちました。厚生労働省の現在の定義によれば、「ひきこもり」は、「仕事や学校にゆかず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6ヵ月以上続けて自宅にひきこもっている状態」を指すのだとか。ひきこもりの最新事情は、どのようになっているでしょうか?

斎藤 2018年現在、ひきこもり人口は最低でも200万人はいるだろうと個人的には推計しています。1998年時点で100万人と推計していましたから、この20年間で倍増したと考えているわけです。ちなみに、2015年に実施された内閣府の調査では、引きこもりの推計人口をおよそ54万人としていますが、これは調査対象を子ども・若者(15〜39歳)に限っているため。実際には、ひきこもりは40歳以上も相当数存在していますから、こういう年齢制限には意味がありません。

みんなの介護 ひきこもりはなぜ、増え続けているのですか?

斎藤 人は、一度ひきこもってしまうと、ひきこもりの状態から容易には抜け出せないからです。ダムに流入する砂と同じで、流出量に比べて流入量が圧倒的に多いから蓄積していく一方なんですね。ひきこもりの平均年齢は年々上昇していて、1998年の最初の著書には21歳とありますが、2016年の私の調査では37歳と、16歳も上昇していました。それだけ、ひきこもり人口の年齢構成は中高年の方向へと拡大しています。この調査時点での、ひきこもり平均月数は155ヵ月(12年11ヵ月)。なお、ひきこもりの親の平均年齢は66歳でした。

みんなの介護 男女比はどうなっていますか?

斎藤 かつては、男性のほうが多いと考えられていました。というのも、わが国には未だに男尊女卑の傾向が強く、「社会に出て働かなければならない」というプレッシャーは、男性のほうが女性より受けやすいからです。

例えば、学校を出た子どもが働かずに家にいる場合でも、女性なら「家事手伝い」でとりつくろうことができますが、男性なら即「ニート」「ひきこもり」などと後ろ指を指されてしまいます。その分、男性のひきこもりのほうが、どうしても顕在化しやすいわけですね。とはいえ最近の知見では、女性にも顕在化しないひきこもりが相当数いることが判明しており、男女比はニートと同様、それほど変わらないことがわかってきました。

ひきこもりの人が100人いたら、社会復帰できるのは5人弱

みんなの介護 一度ひきこもりになってしまった人が、社会に復帰できる確率はどれくらいあるのでしょうか?

斎藤 社会復帰にはさまざまなパターンがあるし、追跡調査できないケースも多いので、正確なところはわかりません。精神科医として、ひきこもりを30年以上診断してきた私の経験則からごく大ざっぱに言えば、病院や行政窓口に家族が相談に来るケースが全体の50%。そのうち、ひきこもり本人も相談に訪れるケースが30%。本人の通院後、就業にまで結びつくケースはさらにその30%。つまり、社会復帰できる確率は0.5×0.3×0.3で、4.5%ほどでしょうか。ひきこもりの人が100人いたとして、治療によって社会復帰できるのは5人弱という計算になります。これはあくまでも1医療機関あたりの推計ですが。

みんなの介護 それにしても、なかなか厳しい数字ですね。

斎藤 とはいえ、地域ぐるみでひきこもり対策に取り組み、大きな成果を上げている自治体もあります。例えば、秋田県藤里町。町の社会福祉協議会が民生委員、自治会、PTAのネットワークを駆使して全町くまなく調査したところ、人口3,800人の小さな町ながら、113人のひきこもりが見つかりました。人口比で約3%。そこで、ひきこもりの人たちに丁寧なヒアリングを実施し、積極的に就労支援を行ったところ、113人のうち50人が家を出て、さらに36人が働き始めたとか。

みんなの介護 藤里町のひきこもり対策が成功した要因は何だったのでしょう?

斎藤 まず、一軒一軒をていねいに戸別訪問して、ひきこもっている本人と直接コンタクトが取れたこと。こうした戦略は、小さな町だから可能だったのかもしれません。また、町役場の協力を得て、働く人にきちんと最低賃金が支払える就労支援施設を開設できたこと。特に大きかったのが、菊池まゆみさんという天才的なリーダーに恵まれたことですね。藤里町社会福祉協議会の事務局長である彼女は、ひきこもり支援について、あえて普遍的なモデルを作らなかったのです。

例えば、厚生労働省などのお役所がひきこもり支援に乗り出す場合、どの地域でも流用できるような、普遍的な支援モデルを構築しがちです。まず最初に、ひきこもり専門の精神科医1名、臨床心理士3名、精神保健福祉士3名などといった中心メンバーを選出し、そこに職員と予算をこれだけ付けて…などという風に、どうしても形から入ってしまうんですね。

みんなの介護 一般的な企業においてもよくみられるアプローチですね。

斎藤 はい。しかし、そんなステレオタイプの組織が、すべての地域の実情に即しているとは限りません。菊池さんがユニークだったのは、そういった「型」にハマらなかったこと。精神科医、臨床心理士、精神保健福祉士といった専門家は1人も入れずに、社会福祉協議会のスタッフを中心に支援の組織を作りました。

アプローチも天才的です。ひきこもり支援を始める場合、通常は実態を把握するところからスタートさせます。例えば、「あなたのお宅にひきこもりの人は何人いますか?」といったアンケート用紙を各家庭に配布するなど。ところが、菊池さんは、まずニーズの把握から始めました。「今度、こういう就労支援窓口を作りますが、利用したい人は何人いますか?」と、各家庭に尋ねたのです。「ひきこもり」という文言は一切使わずに。この逆転の発想は、お見事というほかありません。

みんなの介護 菊池さんは、どこにでも通用する普遍モデルではなく、まさに「藤里モデル」を作ったわけですね。

斎藤 私は、ひきこもり支援は「文化」であると考えています。どんな地域にも通用する普遍的なモデルが存在するわけではなくて、その地域の事情や実情に根ざした、独自のモデルが存在するはず。そんな、オリジナルでオーダーメイドのモデルを作るべきです。型にとらわれているとスピード感が出てこないし、自分たちで作っていくという熱意も生まれません。ひきこもり支援にしろ、高齢者支援にしろ、これから何らかの支援に取り組む場合は、その地域の文化を活かす方向で考えてほしいですね。

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