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日本企業がアマゾンに対抗できる"3条件"

■「ネットとリアルの融合」が理想的な形で具現化

2017年秋、ニューヨーク。私は書店「アマゾン・ブックス」やアマゾン傘下のスーパーマーケット「ホールフーズ」を視察した。

アマゾン・ブックスではすべての本の表紙を正面に向ける「面陳」をしている。書棚もユニークで、「ネットで評価が高い」「ニューヨーク地域で売れている」「3日で読める」などの切り口で本を並べていた。

一般的な書店の陳列方法である「背差し」に比べて、店舗で持てる在庫は減る。しかしアマゾンにとって、在庫は物流センターにあればよい。Eコマースのサイト上には、幅広い種類の在庫を揃える一方で、リアル店舗には売れ筋商品や手に取りたくなる商品を置くことで、魅力的な空間をつくる。そこには、私が長年目指していた「ネットとリアルの融合」が理想的な形で具現化していた。

■リアルからネットに進出するほうが早い

さかのぼること同年8月、アマゾンは「アメリカでもっともヘルシーな食料品店」と呼ばれる高級スーパー・ホールフーズを買収している。これもネットとリアルの融合を象徴する出来事だった。近年、営業利益と既存店売上高が減少していたホールフーズだったが、活気が戻り、同年8月末に来店客数は前年同期比25%も増加。さらにアマゾンは18年2月、ホールフーズが扱う生鮮食品を含めた商品の販売を、プライム会員向けのネットスーパーで開始した。当初は4都市だが、年内に提供地域を拡大する計画だ。

私は1999年にソフトバンクグループのヤフーの傘下で、書籍のネット販売を手掛ける「イー・ショッピング・ブックス(現・セブンネットショッピング)」を起業した。アマゾンは、ほぼ同時期の2000年に日本に進出している。アマゾンのビジネスは当初、書籍販売が中心であったため、当時からライバルとして動向を注視していた。

その後、徐々に業容を拡大し、家電なども扱うようになっていったアマゾンの動向を見るうち、こう考えるようになった。

「ネットとリアルを融合させ、店舗と連携する形でビジネスをしないとアマゾンには勝てない」

さらに「ネットからリアルに進出するより、リアルからネットに進出するほうが早い。リアル店舗を多く持っている企業のほうが強いはずだ」と判断して、ソフトバンクグループからセブン&アイグループへと資本移動した。今振り返ると、前者の読みは正しかったが、後者の読みは間違っていたと言わざるをえない。

■米トイザらスが破綻に追い込まれた理由

セブン&アイに移ってからネットとリアルの融合に取り組んだ10年は、困難を伴うものだった。リアル店舗がネット並みに在庫を持つためには、大変な構造改革が必要になる。また、リアル店舗にはこれまで長い期間培ってきた業務フローがあるため、これを変えようとすると大きな反発が生じる。融合はなかなか進まなかった。

一方、アマゾンはネットからスタートしてリアルの融合へと取り組んでいった。ネットの世界は制約が少なく、在庫さえあれば一定のコンセプトに基づいて、リアル店舗を比較的自由に展開できる。そしてネットを主体にして、リアル店舗はそこへ引き込むひとつの導線になればいいのだ。

これとは逆に、リアル店舗が主体という発想を転換できずに失敗したのが、米トイザらスだった。当初、アマゾンで唯一の玩具販売業者として、Eコマースに出店。後に独自のオンラインショップを開始したが、「店舗で売っているものと同じ商品をネットでも売ればよい」という考えを捨てられなかった。結果、品揃えも増えず、アマゾンに在庫などで大きく水を開けられ、最後は破綻に追い込まれてしまった。

■アマゾンには「客単価×客数」の発想がない

アマゾンにあって他の企業にはない強さとは何だろうか。いくつもある中で、最近感じる大きな強みは2つある。

ひとつは、「プラットフォームを自前で構築していること」。

たとえば自社業務のために擁していた膨大な数のサーバーの一部を貸し出し、クラウド事業を始める。今やアマゾンのクラウドサービス、AWSの世界的シェアは30%以上だ。物流も自前なので、配送システムを提供するサービスも行える。自前の事業をつきつめて、そこから新しいものを生み出す姿勢が徹底している。これも社員の半数以上をITエンジニアが占め、思いついたアイデアを素早く具現化できるからだろう。

もうひとつが、「究極の顧客主義」に基づく発想である。

収益をとらえるとき、日本の一般的な小売業は「客単価×客数」で計算する。対して、アマゾンの持つ方程式は、「ライフタイムバリュー×アクティブユーザー数」だ。「顧客生涯価値」とも訳されるライフタイムバリューとは、1人の顧客が特定の企業と取引を始めてから終わりまでの期間にどれだけ利益をもたらすかを算出したものである。

アクティブユーザー数は、利用頻度の高いユーザーを指す。経営側の視点で顧客の数を増やそうとするのではなく、1人の顧客にアクティブユーザーになってもらい、ライフタイムバリューを高めるにはどうしたらいいかを考えて、戦略を打つ。あくまでも顧客目線が起点になる収益モデルなのだ。

レジなしコンビニ「アマゾン・ゴー」でも、一般企業との発想の差を感じた。日本のスーパーでも「セルフレジ」が増えているが、レジカウンターが無人で、客が自ら会計するシステムである。これはつまり、店舗側のオペレーションの負荷や人件費削減を目的としたものだ。

一方、「アマゾン・ゴー」が自動化を進める目的は、「客を待たせない」ことであり、会計作業自体をなくしている。出入り口のセンサーとネット決済を組み合わせることで、客が店を出るときに自動で支払いが済むようになっている。このような顧客起点の発想を持てる企業は、決して多くない。

■真っ向勝負を挑める、唯一の企業とは?

脅威のアマゾンに対して、対抗できる企業はあるのか。アメリカで言えば、最大のスーパーマーケットチェーンである、ウォルマートだろう。

エンジニアを多く抱えるアマゾンに対抗するため、有力なITスタートアップ企業の「ジェット・ドット・コム」を買収した。18年2月には、それまでの会社名「ウォルマート・ストアーズ」から「ストアーズ」を削除。ネット通販部門の拡大を印象づけることが狙いで、これまでの店舗中心のビジネスから脱却しようとする、強い覚悟を感じた。物流の自前化にも取り組んでおり、17年からは注文を受けた店舗の従業員が直接宅配する実験も始めた。ネットとリアルの融合の重要性に気づき、真っ向勝負を挑める唯一の企業と言えよう。

日本の場合はどうか。私が考えるアマゾンに対抗できる条件は、「商品力が強い企業」「自前でシステムを構築でき、状況の変化に対応できる企業」「過去を否定して、デジタル化に舵を切れるトップがいる企業」である。

これらの条件に当てはまる企業はユニクロを展開するファーストリテイリングを筆頭に、ニトリ、楽天、大創産業(ダイソー)などが思い浮かぶ。

■「第二の創業」をするぐらいの気概がいる

2大流通大手に目を向けると、セブン&アイは、イトーヨーカドーのネットスーパーという、独自のプラットフォームを構築するのが強みだ。しかし近年、アウトソーシング化を進めており、今後の自前体制に不安が残る。

イオンは18年2月、ソフトバンク、ヤフーと提携して、独自のネット通販事業の共同実施に向けた検討を進めると発表した。鍵を握るのは、プロジェクトを引っ張るリーダーの存在だろうか。

デジタルシフトを図るには、経営者本人にITの知識がなくても、責任者となるナンバーツーがいればいい。しかし改革を断行できる可能性が高いのは、失敗しないことで現在の地位を手に入れたサラリーマン社長よりも、創業社長のほうだろう。「第二の創業」をするぐらいの気概がなく、既存のビジネスの延長で臨んでしまう企業に、成功は待っていないはずだ。

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鈴木康弘(すずき・やすひろ)
デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長
1987年、富士通入社。96年、ソフトバンク入社、99年、イー・ショッピング・ブックス(現・セブンネットショッピング)設立。15年、セブン&アイHLDGS.取締役執行役員CIOを経て、17年、デジタルシフトウェーブ設立。SBIホールディングス社外役員兼任。著書『アマゾンエフェクト!』(小社刊)。

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(デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 鈴木 康弘 構成=吉田洋平 写真=EPA=時事、iStock.com)

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