記事

「働き方改革」を仕切り直そう! なぜ「働かせ方改革」になってしまったのか

2/2

 負担感を少しでも軽減する施策が、教育の無償化や保育の充実などである。子育てにかかる負担を親個人に押しつけるのでなく、できるだけ社会として負担しようという発想だ。そして、労働市場において子育て中であることが状況的不利にならないように、子育て中の労働者にも無理のない働き方を、社会全体の働き方のスタンダードにしてしまおうというのが「働き方改革」の目的であるといえる。

 子育て中の労働者でも無理なく働ける制度を充実させたところで、子育て中でない労働者が何の制約もなく24時間働けてしまうのであれば、子育て中の労働者の状況的不利は相対的に解消されず、「子育て」が「キャリア形成上のリスク」と認識される構図は変わらない。だから社会全体として、長時間労働文化を解消し、子育て中の労働者にも無理のない働き方を世の中のスタンダードにする必要があるのだ。

 「働き方改革とかいって、もっと働きたいひとが働きづらくなるのはおかしい」という言説を巷ではよく聞くが、まだまだ働けるひとの働き方までも制約しなければいけないのは、少子化解消という目的から導かれる手段なのである。個人のパフォーマンスよりも社会全体を一つのチームとして考えた場合のパフォーマンスを向上するために、働き方のペースを揃えましょうという発想といえる。

これからは、社会の変え方を変えなければいけない

 以上が、現在の労働力の増加、そして未来の労働力の確保という二つの側面から見た「働き方改革」の意義である。これらを踏まえて、1日何時間外で働いて、1日何時間家事や育児に費やして、1日何時間遊んで、1日何時間休むのかを、社会として議論し、それを実現する方法を模索するというのが「働き方改革」に求められていた段取りであったはずだ。結果的には、二つの側面からアプローチした新しい働き方は、「子育てしながら無理なく働ける」という意味で同一になるはずだ。「働き方改革」とは、ただ漠然とできるだけ残業を減らすとかできるだけ業務効率化を図るとか、そういう話ではなかったはずなのだ。

 しかし現実に「働き方改革実現会議」で時間をかけて議論されたのは、労働基準法の残業規定の抜け道「36協定」をどうするかであり、過労死を防ぐという意味での残業規制をかけるかどうするかという次元の話になってしまった。「ワークライフバランス」の「ライフ」が、「生活」ではなく「命」の意味にすり替わった。子育てしながら無理なく働ける社会の実現とはほど遠い。その意味で、当初の「働き方改革」の目的からは大幅にずれた結論にたどり着いたといえる。

 それでも「青天井」と呼ばれた残業規制に歯止めがかけられたのであれば、「小さな前進」ということもできた。しかし結局作成された働き方改革関連法案にはこれと矛盾する「裁量労働制の拡大」や「高度プロフェッショナル制度」も抱き合わせにされていた。これらは言ってしまえば、一定の条件を満たす労働者を残業規制対象から除外するという制度である。せっかく36協定の抜け道を塞いだのに、別の抜け道をつくってしまうことになる。「働き方改革実現会議」での議論は何だったのかという話である。

 こうして「働き方改革」という言葉だけが一人歩きを始め、当初本来の目的は忘れ去られ、労働力強化や業務効率化など、企業側・雇用者側に都合の良い論理で語られるようになってしまった。いつの間にか、「働き方改革」が「働かせ方改革」になってしまったのだ。いや「改革」ですらない。「改革」や「革命」という言葉には、既得権者の力を弱めるニュアンスがある。しかし今回の「働き方改革」は、昭和型のビジネスモデルの延命措置にすら見える。

 今回の法案では、おそらく「改革」と呼べるほどの変化は起こらないだろう。「働き方改革」の仕切り直しが必要だ。その際の視点として、以下の二点を挙げたい。

(1)「何を変えるか」よりも「何を目指すか」の議論を

(2)子育ては未来の社会をつくる、公共事業であるという認識を広める

 (2)については前述の通りである。以下、(1)について補足する。

 国連が採択した「SDGs」というものがある。日本語では「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と表現されるもので、「貧困の解消」「ジェンダー平等の達成」「持続可能なエネルギーの確保」「平和維持」などの人類共通の「目標」が掲げられている。

 国や地域や文化的背景の違いによって、人類の置かれている立場はさまざまである。そこで、画一的に「世界をこう変えていこう」というのではなく、まずは「目標」のみを共有し、それぞれの立場でそれぞれにできることをやっていこうという呼びかけの意味がある。

 画一的な正解が存在しない多様性の時代において、トップダウンで一律に何かを変えるのは難しい。それならばまずはビジョンのみを共有し、具体的な解決策については各々の主体的判断に委ねようという方法論だ。

 「一億総活躍社会」とそこから派生した「働き方改革」も、多様性が前提にあるのなら、一律で法律や制度を変えることにこだわるのではなく、労働者の主体性を起点として、社会としてのビジョンの共有に時間とエネルギーを割くべきだったのではないだろうか。逆に言えば、それをしなかったから、「働かせ方改革」になってしまったのではないだろうか。

 多様な人々が同じビジョンに向かって少しずつ主体的な変化を始めることで、結果的に社会がじわじわと変わる。そのような変化のモデルをイメージしたほうが、実は確実に世の中は変わるような気がする。急がば回れである。これからの時代においては、社会の変え方も変えなければいけないのかもしれない。

あわせて読みたい

「働き方改革」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    感染者減少の理由が若者の深夜の繁華街の人流減少というのなら、その他の行動制限は外してください

    中村ゆきつぐ

    09月26日 08:14

  2. 2

    共産主義・マルクス主義信奉を志位和夫委員長が改めて表明した心意気や良し。野党共闘はやはり「大異小同」だ

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    09月26日 08:41

  3. 3

    新型iPhone13シリーズが発売 AppleがLightningにこだわる理由

    S-MAX

    09月26日 14:36

  4. 4

    コロナがもたらした「甘えの構造」

    ヒロ

    09月26日 13:06

  5. 5

    官僚も経済界も「河野太郎首相だけは勘弁してくれ」と口を揃えるワケ

    PRESIDENT Online

    09月25日 14:37

  6. 6

    自民党総裁選をめぐる様々な立場からのネット番組 極端な内容に苦言

    石破茂

    09月25日 16:07

  7. 7

    韓国で出版された「慰安婦被害者はいない」とする著作

    諌山裕

    09月25日 09:34

  8. 8

    3時間のランチのために6時間かけて出かける理由

    内藤忍

    09月25日 11:26

  9. 9

    バブルは必ずはじける 中国不動産業者の破綻にみる危うさ 日本でも不労所得に高額課税を実現しよう

    猪野 亨

    09月25日 12:02

  10. 10

    生かしても地獄、潰しても地獄…中国・習近平が抱える「不動産問題」の深刻さ

    PRESIDENT Online

    09月26日 09:40

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。