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病状や余命まで推測される!?巨大IT企業が狙う生体情報 広告やネット通販ビジネスを飛躍的に進歩させる「声」 - 加谷珪一 (経済評論家)

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 フェイスブックの利用者データが不正に流用された事件をきっかけに、大手IT企業による情報収集の是非があらためて議論の的となっている。フェイスブック問題については、最高経営責任者(CEO)のマーク・ザッカーバーグ氏が議会証言に立ち、正式に謝罪を表明したことで、とりあえず落ち着きを見せているが、IT企業による利用者情報の取得がなくなったわけではなく、各社はさらに詳細なデータを確保しようと技術開発を進めている。


(DPA/JIJI)

 ネット企業が近年、もっとも力を入れているのが、利用者と音声でやり取りすることができるAI(人工知能)スピーカーである。米グーグルが提供している「グーグルホーム」と米アマゾンが提供している「アマゾンエコー」は、米国を中心に4000万台も普及しており、すでに生活の一部となりつつある。2017年の後半からは、日本語に対応したサービスもスタートしており、徐々にではあるが、日本でもAIスピーカーを利用する人が増えている。

 AIスピーカーは、話しかけると質問に答えてくれたり、音楽をかけてくれるというものだが、アマゾンエコーの場合には、声だけでショッピングすることもできる。また両製品に対応した家電も増えてきており、照明のオンオフなどを声で操作できる。AIスピーカーは、家庭内の執事のようなサービスと考えればよいだろう。

 両社がAIスピーカーの事業に力を入れるのは、自社サービスを利用してもらう頻度をさらに上げたいからだが、それだけが理由ではない。利用者の「声」という生体情報が入手できると、IT企業は途方もない利益を得られる可能性があり、各社はそのビジネスチャンスを狙っているのだ。

 グーグルやアマゾン、フェイスブックといった先端的IT企業が、従来型企業とは比較にならない水準の収益を実現できているのは、AIを使って利用者の属性を徹底的に分析しているからである。

 グーグルとフェイスブックの収益源は広告だが、ネット上の利用者の動きを分析すれば、利用者がどのような人物なのか、かなりの部分まで特定できる。グーグルの場合、どのキーワードを検索したのか、フェイスブックならどのコンテンツを閲覧し、「いいね」のボタンを押したのかという情報を解析することで、利用者の趣味嗜好(しこう)や性格を分析できる。特にフェイスブックの「いいね」がもたらす情報の濃密さは多くの人の想像をはるかに超える。

 閲覧したコンテンツとの関係性を分析すれば、人種や支持政党、宗教はかなりの精度で特定できるという。喫煙や飲酒の習慣、婚姻の有無、さらにはその人の性的指向もかなりの確率で分かってしまう。重要なのは、これらの情報が、直接的なデータとして得られたものではないことである。飲酒に関するページに「いいね」を押していなくても、別の商品や映画の好みなどからこうした傾向が分析できるのだ。

 アマゾンは、過去の購入履歴から利用者の属性を探っている。どんな本を読み、どのようなドラマを閲覧し、日常的に何を買っているが分かれば、ほぼすべてが丸裸になってしまう。


(写真提供・START TODAY CO., LTD.) 写真を拡大

 だが、こうした分析手法を駆使しても、IT事業者が握れない情報がある。それは個人のリアルタイムな感情や体調など、身体に関するものである。利用者が今、機嫌が良いのか悪いのか、体調が良いのか悪いのかといった情報が得られれば、広告やネット通販のビジネスは飛躍的に進歩する。この部分でカギを握るのが「声」の情報であり、そうであればこそ、グーグルやアマゾンはAIスピーカーの開発に血道を上げているのだ。

 では、ネットの検索履歴や購買履歴に加え、声や表情などの生体情報を得ることができた場合、IT企業はどのようなサービスを展開し、消費者にはどういった影響が及ぶのだろうか。

 IT企業が生体情報を分析できるようになると、サービス事業者はより高度な推奨(リコメンド)機能を実現できる。気分が沈んでいる時なら、それを解消してくれるような食品やコンテンツ、グッズなどが紹介されるだろう。場合によっては、AIスピーカーが「もし気分が憂鬱(ゆううつ)なら、こんなドラマはいかがですか」などと話しかけてくるかもしれない。部屋でパーティをしていることが分かれば、スマホにはピザの割引プランが表示されるはずだ。

 声の情報をより細かく分析すれば、体調についてもかなりの部分まで把握できる。スマホのアプリなどを使って、体温や心拍といった生体情報を収集し、健康管理ができるサービスはすでに存在しているが、健康に気を使っている人でなければ、わざわざこうしたサービスは利用しない。

 だが、AIスピーカーが利用者の体調をある程度、把握していれば、体調が悪そうなところを見計らって、こうした健康管理サービスの利用を促すこともできる。妊娠や出産といった変化は、購買履歴からでもかなり特定できるといわれているが、ここに声の情報が加われば確実である。

 生体情報をIT企業に握られてしまうことについては、当然のことながらデメリットもある。もっとも大きいのは医療情報との結びつきだろう。

 日本でも一部の医薬品はネットで購入することが可能であり、サプリやその他の商品情報と組み合わせることで、本人が抱える疾患についてある程度までなら、特定できる。ここに声の情報が加わると、その精度はかなり上がるはずだ。

 医療技術がこれだけ発達した現代でも、有能な臨床医は、患者と向き合った時の所見を重視している。ここで得られる情報の中には、声や表情といった抽象的な情報も含まれているのだが、逆に言えば、声や表情は極めて重要な医療情報ということにもなる。つまり、これまでは医師しか得ることができなかった医療情報をIT事業者が収集できるということを意味する。

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