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決断しないことがもたらす危機。

今年に入って、大規模な海賊版サイトの摘発があったことを契機に、悪質なサイトへの「サイトブロッキング」をめぐる議論が一気に盛り上がっている。

遂に、政府も知的財産戦略本部にタスクフォースを立ち上げ、法制化に向けた議論を開始するようなのだが・・・。

「漫画などの海賊版を無断掲載するサイトがインターネット上で横行している問題で、政府の知的財産戦略本部(本部長・安倍晋三首相)の有識者会議が22日、法規制の検討に着手した。

海外ではサイトへの接続を遮断(ブロッキング)する法律やルールがあるが、日本にはない。

著作権侵害を防ぐための対策作りでは一致したが、ブロッキングに向けた法整備については出席者から慎重な意見も出た。」(日本経済新聞2018年6月23日付朝刊・第7面)

座長には、中村伊知哉教授、村井純教授というビッグネームを並べ、「知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員会 インターネット上の海賊版対策に関する検討会議(タスクフォース)」という長いタイトルの会議体を作って気合いを見せているものの、著作権法の専門家から、憲法学者、民事訴訟法学者、そしてプロバイダー業界の利益代表から消費者団体の関係者まで、20名もの委員でテーブルを囲んでどこまで建設的な議論ができるのか・・・*1。

そう簡単に話がまとまるとは思えない。

自分は、そもそもの話として、「悪質な海賊版サイト」への対策を議論する際に、「表現の自由」という憲法上極めて高度な価値を有する人権を反射的に論点として掲げるのはあまりにナイーブに過ぎると思っているし、そういう戦術を取ることが、かえって人権の価値を貶めるリスクにも目を向けるべきではないかと思っている。

世界中のどこを見回しても、「第三者が創作した著作物のデッドコピーを営利目的で公表する自由」とか「そこにアクセスする自由」を享受することが、オリジナルの著作物を創作した者の利益に常に優越する、とカテゴリカルに認めるような国は存在しない。

もちろん、サイトブロッキングという手法や、ブロッキングの対象となる範囲、判断基準といったテクニカルな話については、当然議論もあるところだが、多くの国では、「表現の自由」や「通信の秘密」といった原理原則を超えて悪質サイトへの直接的なアクセス制限を許容している、という実態もある。

現在、サイトブロッキングに反対の声を上げている業界や実務家の中には、「法律」で決まるならそれに従う、というスタンスの方もそれなりにいるのだろう。

だが、憲法上の価値の侵害を恐れる人々が、国家の権力作用である「立法」にアクセス可否の判断を委ねる、というのは本来おかしな話なわけで、特に、日本のように条文の一言一句に過度に律儀で、解釈によって危ない橋を渡ることに極めて慎重な文化が染みついている国で、「法律」によってサイトブロッキングという手法を導入することには、個人的にかなりの不安を抱いている。

「著作権侵害」という概念の曖昧さゆえに、本来規制対象とすべきではない風刺の利いたパロディサイト等にまでサイトブロッキングの魔の手が及ぶリスクはないのか、条文をこねくり回すだけでそういった過剰規制を防ぐことができるのか等々、考えれば考えるほど悩ましい。

本来であれば、こういった「悪質な海賊版サイト」への対応は、プロバイダー業者の自主的な措置に委ねる方が、理に叶った落ち着きどころを見つけられるはず。また、プロバイダー業者と海賊版サイト運営者、ユーザーとの関係は、あくまで私人間の関係に過ぎないから、憲法上の人権条項が直接適用されるリスクも極めて低い*2。

それにもかかわらず、なぜプロバイダー事業者は、一部の会社を除いて自らアクセス遮断の是非を判断せずにいるのか?

この種の議論が出るたびに、プロバイダー事業者サイドから繰り返される単調な主張を眺めていると、自らが当事者となって権利者と、違法サイト運営者、一般ユーザーとの調整を行う面倒くささを回避するための方便として、憲法解釈論の衣をかぶった“建前論”を並べているだけではないか、とうがった見方をしてみたくもなるわけで・・・。

何も権利者の言いなりになる必要はない。政府が「緊急対策」を打ちだしたからといってそれに唯々諾々と従う必要もない。

真に表現の価値を重んじるのであれば、憲法上の人権保障という観点も踏まえてもなお、看過できないほど創作者の利益が害されている場合に限ってアクセスを遮断する、という客観的な利益衡量に基づく(常識にかなった)判断をすることがプロバイダーに求められる役割であり、それを自ら行ってこそ、通信事業者としての独立性も担保される。

そのような所為を回避して、事実上国家に判断を丸投げするのは、自分で自分の首を絞める行為に他ならないと思うのであるが・・・。

これからの議論がどう転ぶにしても、今直面している問題が、これまでプロ責法に守られ、自らリスクを負うことを極力回避してきたプロバイダーのあり方を考え直すきっかけになることは避けられないし、そうなってこそ議論する意味がある、自分はそう信じている。

*1:構成員についてはhttps://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2018/kaizoku/dai1/siryou1-1.pdf参照。

*2電気通信事業法上の規定に関しては、若干の改正が必要になってくる可能性もあるが、既存の規制の例外を作るだけだから、一からルールを設けようとするよりは負担も少ない。

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