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いじめ「抗議の自殺」は徹底的に無意味だ

いじめの被害者は、ときに「抗議の自殺」を考えることがある。だが、探偵として数多くのいじめを調査してきた阿部泰尚氏は「学校現場では『死んでしまった子』より『生きている子』の人権が優先される。『抗議の自殺』は徹底的に無意味だ。絶対に死んではいけない」という。阿部氏がかかわった男子高校生の事例を紹介しよう――。


写真=iStock.com/fstop95

■死んでも相手は「思い知らされ」たりしない

いじめ被害者が自殺を考えるケースはとても多い。その動機として、「自分のつらさ・苦しさをいじめる側に思い知らせてやりたい」、あるいは「いじめの事実を広く社会に知らせたい」というものをしばしば目にする。

だが、過去の膨大ないじめ調査の経験から言わせてもらえば、そうした期待がかなうことはまずない。もしそんな動機で自殺を考えている子供がいたら、「まったく無意味だからやめておきなさい」と言い切れる。なぜか。学校や関係各所にとって、死んでしまった児童・生徒は、もはや「保護すべき対象」ではないからだ。

ある男子高校生のケースを見てみよう。A君(仮名)は高校1年生のとき、地方から東京に引っ越してきた。少し言葉のなまりがあり、本人はそのことを気にしていた。転居前の学校では友だちが多く、ユーモアもある明るい子だったが、東京で入学した公立高校では、からかわれるからと口数を少なめにしていた。ところが周りの男子たちは、そのなまりを言わせようと、いろいろとちょっかいをかけてくる。

高校生にもなれば半分大人のようなものだから、A君も表面的にはそれほど苦しいそぶりは見せないし、「バカにすんなよ」といった感じで軽く返していたのだろう。ただ本人にとっては強いストレスになっていて、ツイッターやLINEで「今、学校に行くのがつらい」ともらしていた。

誰に何をされてつらいのかという具体的な記述はなかったが、同級生たちへの聞き取り調査では、やはり言葉のことで相当に絡まれていた様子だった。本人はそんなことに邪魔されずに学校生活を送りたかったが、どうしても気持ちがそちらに引きずられてしまう。

それと並行して、A君は部活でもトラブルを抱えていた。その部ではLINEを連絡手段として使っていたのだが、一部の部員がふざけてスタンプをものすごい頻度で投稿し合っており、そのたびにスマホがマナーモードにしていてもブーブー鳴って、うるさくて仕方がない。大事な連絡もあるからオフにするわけにもいかず、たまりかねたA君が抗議すると、ふざけていた側の生徒たちが逆ギレして、LINEでもリアルでも言い合いになってしまった。

それを境に、A君は部活では持ち回りのはずの「記録係」を押し付けられ、自分のやりたい活動をさせてもらえなくなった。クラスでも水泳の授業で、泳ぎが苦手なのに無理やりクラス対抗リレーに出され、「お前のせいで負けた」と責められて、やせ型の体格のことまでバカにされた。

■第三者委員会の調査も及び腰

ただA君自身は、生前に「いじめがあった」とは言っていなかった。遺書も残していない。そのため教育委員会は、A君の事例についていじめという認定をしていないのだ。私が本稿でこれまで示した情報は、部活のLINEの件を除けば彼らもすべて手にしている。にもかかわらず、彼らの出した結論は「いじめはなかった」というものだった。

周辺状況から見れば明らかにいじめの存在が強く疑われるのに、なぜこういう結論が出てくるのか。その理由は、A君をからかっていた生徒たちに対する、第三者委員会の聞き取り調査の報告書を見れば見えてくる。

報告書には生徒たちが、Aくんに方言の口癖を言わせようとして何度も絡んだという事実が記されているが、「なぜ彼らは繰り返しそんなことをしたのか」「Aくんはその時どういう反応を示したのか」といった、いじめかどうかを判断する上で重要なポイントが記されていない。

調査員が、よくいえば「からかった側の生徒たちの行動を善意に解釈しようとしている」、悪く言えば「この案件をいじめにしたくないと考えていて、いじめ認定につながらないような質問しかしていない」のだ。

A君の保護者は当然この結論に反発しており、事案の再調査を求めている。だが、再調査を行うかどうかは新たな事実が出てくるかどうかによる、というのが現在の役所の姿勢だ。A君が生きていてくれれば確認できることはたくさんあるのだが、Aくんがいなくなり、時間もたった今となっては、「新たな事実」を提示するのは難しい。

その一方で、Aくんが通っていた高校の保護者やOBからは、「(名門といわれる)うちの高校でいじめなどあるはずがない」「将来のある子たちを犯罪者にする気か」と、A君の保護者や教育委員会に対して、抗議や圧力をかけてくる。

私はこれまでに、被害者が死んでしまったいじめ事案を何度も調査しているが、たいていはこのように「死人に口なし」という展開になる。遺書を書いても、そのほとんどは表に出ない。加害者は「いじめはしていない」と言い張るし、その親も必死でわが子を守る。

学校と教育委員会は必ず隠蔽に走る。調査報告書の写しを保護者が情報公開請求しても、「黒塗り」だらけの書類しか出てこない。報道機関も、警察や検察、弁護士なども、死んでしまった子の人権には関心を示さず、生きている子たちの人権を守ろうとする。

■部活のLINEの奇妙な書き込み

Aくんが死んだ直後、部活のLINEで奇妙な書き込みが流れた。クワガタのおもちゃが出てきたから、(A君のあだ名)という名前をつけよう、というのだ。「そうしたら何をしても死なないから」。それに対して、ふざけるな、という部員も一人もいなかった。同じ部活の仲間がおもちゃ扱いされ、尊厳を踏みにじられて、最後には死んでしまっても、誰もなんとも思っていないのだ。

私はこのLINEの書き込みの写しを役所に持っていった。「この情報をどこで手に入れたか」とずいぶん尋ねられたが、再調査につながる「新たな事実」と認められるかどうか、先方の担当者は明確に答えなかった。被害者の「生の声」がなければ、私たちの戦いはこんなにも不利なのだ。

死んだら死に損。今いじめに苦しんでいるすべての子どもたちに、このことだけは覚えておいてほしいと思う。

*本コラムへのご意見、取り上げて欲しいテーマ、ユースガーディアンに相談したい事例等ありましたら、下記URLにぜひお寄せください(ご相談へのお返事については、お時間をいただく場合があります)。https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeeAI2nGm9-UKz9XTN_ngXmvjkWHA5ErugiIOg_1yHd9jlmUg/viewform?usp=sf_link

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阿部泰尚(あべ・ひろたか)
NPO法人ユース・ガーディアン代表理事
1977年、東京都生まれ。東海大学卒業。T.I.U.総合探偵社代表。日本メンタルヘルス協会公認カウンセラー。教員免許あり(社会科)。2004年、探偵として初めて子供の「いじめ調査」を受件し、解決に導く。以後5000人以上の相談を受け、重大な問題があり、関係各所が動きが取れない状態であった330件(2015年12月現在)に上るいじめ案件を手がけ収束・解決に導き、今も精力的に「いじめ問題」に取り組む。著書に『いじめと探偵』(幻冬舎新書)など。

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(特定非営利活動法人ユース・ガーディアン代表理事、T.I.U.総合探偵社代表 阿部 泰尚 写真=iStock.com)

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