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米国評価学会セミナーで垣間見た民主主義の衰え

1. 全米評価学会夏季セミナー2018に出席して

アトランタで開催された全米評価学会夏季セミナー2018に参加した。全米評価学会とは、政策や教育、非営利活動などの評価の研究者および実践者の学会で、会員数7300である。同学会は夏季セミナーを主催しているが、評価に従事する研究者やコンサルタントなど500人以上が集まってくる。

私は、1998年から参加しているが、初代学会会長のパットン教授、最も代表的な教材を記したリプセイ教授など、評価論の基礎を築いた人々の講義を受講し、感銘を受けたことは記憶に新しい。ここで配布された教材は丁寧に作られたもので、体系だった情報が不足する当時、非常に有益だった。そして、最も血肉になったのは、評価作業を始める前に多様なステイクホルダーの存在と彼らの異なる視点や考えを理解することが肝要であること、作業の要所要所で、合意形成のポイントがあるということだった。

ところが、今年のセミナーは、いつになく質の低下を感じた。中には、よく考えられた講義もあったが、落胆するものが目立った。講師が講義をせず、助手に任せてしまったり、配布資料も浅薄なものが目立った。受講者もおとなしかった。以前だったら、少しでも雑な講義をすると黙っていなかった。こうした緊張感が講義の質を押し上げているようにみえた。

なぜ、変質してしまったのだろうか。

2. アメリカ政策評価の原点~ケネディの「政策に科学を」

アメリカの政策評価の歴史は、ケネディ大統領の時代に遡る。公民権運動の時代にあって、ケネディは黒人の権利を認め、白人と同様の教育、福祉サービスを約束した。これにより、多額の連邦政府予算を福祉と教育分野に投じることになった。さらに、ケネディは「政策に科学を」と、投じた予算の成果を検証するための調査を命じたのである。これこそが、政策評価の始まりであった。

ここで注目すべきは「政策に科学を」である。ケネディの大統領就任演説を読むと、この言葉が単に政策効果の客観的測定を意味するものではないことがわかる。演説には「科学の恐怖ではなく科学の素晴らしさを呼び覚ますために、互いに力を合わせ、宇宙を探索し、砂漠を征服し、病気を根絶し、深海を開発し、芸術とビジネスを奨励しよう」と記されている。つまり、第二次世界大戦の反省を踏まえ、科学を社会課題の解決のために活用すべきだと述べているのである。しかも、「互いに力を合わせ」と国民の参加を求めている。その呼びかけは、演説の終わりでも、「国があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたが国のために何ができるかを考えようではありませんか」と繰り返されている。

「政策に科学を」には、政策が社会課題の解決になっていることを科学的に検証し、見える化することで、政策決定者のみならず国民の判断材料を提供するという政策評価の基本的役割が込められている。つまり、政策評価に期待されたのは、政策立案と執行をより民主的に実施するための民主主義のインフラなのである。

2. なぜ、セミナーの質が低下したのか

なぜ、全米評価学会のセミナーの質が下がったのだろうか。おそらく、政策評価に対する社会的要請が減ったか、あるいは変質したからではないか。そして、なぜ、社会的要請が減ったかといえば、為政者がさほど必要性を感じていないからだ。民主的でない体制下では、為政者(トップ)が政策を決め、国民との合意形成にさほど時間を投じない。政策効果の検証のために評価を行うことがあっても、国民との合意形成のためではない。それどころか、為政者の中には、評価など不要で、自らの経験とカンで十分だという者もいる。こうした状況下では、民主主義のインフラとしての評価は機能しないし、必要とされない。

3. ゆらぐ民主主義、ゆらぐ評価のバックボーン

20年にわたり出席してきたセミナーだが、今回は明らかに異なる兆候を感じた。繰り返しこの違和感について考えていたが、その原因はより深いところにあると確信させたのは、隣席したセミナー参加者との会話だった。たまたまW杯のことが話題になり、ドイツ-メキシコ戦で多くのアメリカ人がメキシコを応援したことを話した。その際、私が「トランプを除いてね」と言うと、触れないでくれと言わんばかりに、会話が止まってしまった。多くの知識層にとっては恥ずかしい大統領のようだが、堂々と批判するファイティングポーズを示すわけでもない。言いようのない脱力感を感じた。アメリカの民主主義がゆらぐ中、政策評価もバックボーンを失い、民主主義のインフラとして機能しにくくなっている現状を知識層はどのように感じているのだろうか。そして、この問題は決して他国のことではない。

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