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有働由美子が驚いた「池上彰の質問力」聞きにくいことを聞くには

有働由美子が驚いた「池上彰の質問力」聞きにくいことを聞くには

 元NHKのフリージャーナリスト・池上彰が「質問力」の磨き方を指南する。

 自分が知らないこと、知りたいこと、不確かなことなどを知るためには、本を読んだり、ネットで調べたり、いくつか手段があるでしょうが、一番いいのはその専門家に聞きに行くことです。会社で言えば、その道のベテランに話を聞くのです。

 私のような仕事では、いかに「いい質問」をするかが大事です。秘密にしておきたいことを、扉をこじ開けるようにして、聞き出さなくてはなりません。その気にならなければ、人はその秘密を明かしてくれません。

 具体的に、「聞きにくいこと」を聞いた例を挙げましょう。

 NHKの朝番組の「あさイチ」に出演したときのこと。「聞きにくい質問をするにはどうしたらいいか」を実演することになりました。

 当時の司会は有働由美子さんに井ノ原快彦さん(イノッチ)です。

「では、有働さんに聞きにくい質問をしましょう」と、斜め45度の位置に陣取ります。井ノ原君にはちょっとどいてもらって、有働さんと私が斜めになるように座ります。制限時間は2分間です。

 まず軽いジャブを。

「ねえ、有働さん、NHKアナウンサーらしくないとか、マスカラがぽろりと落ちたとか、脇汗が話題になったりとか、なかなか大変でしょ?」と聞きます。

「ええ、いろいろ言われて大変なんですよ」と有働さん。本人に同情的な語りかけで、警戒心を解いた上で、核心に迫りました。

「紅白歌合戦の司会を外れたとき、どんな気持ちでしたか?」

 ネットでは、この質問が話題になったと言います。看板中の看板番組である紅白歌合戦の司会から外れた人に、しかもNHKの番組の中で、当事者の思いをずけずけと聞いた、というわけです。

 私のNHK時代の同期であるアナウンサーの大塚範一氏が、NHK時代にやはり紅白歌合戦の司会ができなかったことを、一番悔しかったと語っているように、NHKのアナウンサーにとって、あの番組は特別なものなのです。

 それで、彼女はなんと答えたか。

「ほっとしました」

 紅白歌合戦の準備はそれはそれは大変なのだそうです。実はあのとき、彼女は総合司会である武田真一アナのバックアップに回り、彼をずっと助けていたそうです。

 想定外の質問をすることで、こんな思いがけない話が出てくるわけです。選から外れて有働さんは家で寂しく見ていたにちがいないと、一般の視聴者は思いがちです。ところが意外にも、実は裏方に徹していたという話ですから、「おお、有働由美子すごいじゃないか」となります。

 これは、聞きにくい質問をしたからこそ、「実は……」という話が出てきたのです。もし踏み込まなかったら、この “ちょっといい話” は、誰にも知られることはなかったでしょう。

 番組への出演依頼があったときに、「インタビュー方法を実演してください」との注文があったので、この質問を用意しました。

 有働由美子さんに何でも聞いてください、となれば、視聴者が聞きたい質問になるのは決まっています。基本的にインタビュアーは、視聴者や読者が聞きたいこと、知りたいことを聞くわけです。質問を聞いて、「そうそう、その質問を聞いてほしかった」と思える内容にすることが必要です。

 そうは言っても、視聴者、読者の希望であっても、聞いてはいけないことがあります。どうして独身なのかとか、これまで噂になった男性についてはどうなのとか、そういう質問は私はしません。インタビューの品位が落ちるからです。もちろんこれは、私はしない、というだけのことですが。

 有働さんは、紅白では裏方に徹したエピソードを紹介した上で、紅白出演がいかに大変なことであるかの同意を求めて、「ほんとうに大変なんだから、ねえ井ノ原さん」と隣に振りました。

 ここで追及の手を緩めてはいけません。私は、「ほら、答えにくい質問だと、ほかの人に振るんですよ」と突っ込みます。
これには彼女、虚を衝かれたらしく、「ああっ!」と言って突っ伏しました。ほっとしたと言いながら、どこかに悔しい思いがあることも、視聴者にはこの様子で分かります。

 聞きにくい質問をする際は、あなたを貶めるために聞いているのではありません。あなたのことを親身に思いながら、視聴者の思いを代弁しているんです、と「リスペクト光線」を放つのです。それはきっと有動さんにも届いていただろうと思います。

 以上、池上彰氏の近刊『知の越境法 「質問力」を磨く』(光文社新書)を元に構成しました。現状を脱し、新天地に飛び込む「越境」の効用と実践法を説きます。

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