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安易な歳費削減論の不思議

1月23日付朝日新聞社説「議員の歳費―2割削ってみせよ」より(太字は引用者による。以下同じ)。
民主党執行部は「身を切る改革」として、衆院の定数削減を優先させようとしている。

おかしな話である。

なぜ、同時に岡田副総理が唱えた議員歳費のカットもやらないのか。

野田首相も「公務員の給与を削減するときに、政治家の給料を削減しなくていいかというと、これはちょっと筋が通らない」と述べているのだ。

なのに、輿石幹事長は「政治家にも生活がある」と消極的だ。定数よりも、懐が直接痛む問題だけに、いやがる議員が多いのだろう。だが、そんな理屈は通らない。

民主党はおととしの参院選で歳費を日割りにし、委員長手当なども見直すことで議員の「経費」を2割削ると公約していた。日割りは実現し、1日でも在職すれば1カ月分の歳費を丸々もらえる制度はなくしたが、そのほかは手つかずだ。

ここですっぱりと「歳費」を2割削ってみせれば、わかりやすいではないか。

〔中略〕

国会議員の仕事に金がかかる実態は否定しない。しかし、時と場合をわきまえてほしい。

財政赤字にあえぐ政府は、国家公務員の給与を平均7.8%削る法案を出している。

国民に対しては、復興増税に加えて、消費増税もしようというのだ。こうした法律をつくる国会議員が率先して、歳費を削るのは当たり前ではないか。

〔後略〕

こうした主張を見るたびに不思議に思う。国会議員は所得税や消費税を負担しないのだろうか。

それならば理解できる。国民に負担を強いるのに、国会議員が身を切らないわけにはいかないということだから。

しかし、もちろんそんなことはない。国会議員もまた、所得税や消費税を負担する。一般の国民よりも所得が多く、支出も多いのであれば、彼らは一般の国民以上の「痛み」を負うことになる。増税法案を通すということは、それだけで国会議員にとっても金銭的には損なことであるはずだ。

それだけでは飽きたらず、歳費のカットにより、国会議員はさらなる「痛み」を負うのが「当たり前」だと、マスコミは説く。

しかし、国会議員は、封建時代の領主ではない。国会議員と国民は、収奪する者とされる者の関係にあるわけではない。

彼らは我々国民の代表である。そして、選挙に落ちればただの人でもある。それを、前近代の統治者と民衆のように語るのはおかしくないだろうか。

また、国家公務員の給与を削るというのに、国会議員の歳費がそのままではスジが通らないと言う。なるほどそれはそうだろう。しかし、国家公務員の給与の削減幅は7.8%なのに、何故国会議員の歳費は2割削減が「わかりやすい」のか。20日付朝日社説は、民主党の衆議院比例区80議席削減案を「乱暴だ」と評していたが、これもまた乱暴な話ではないだろうか。

当然の疑問だと思うのだが、こうした意見をみることはほとんどない。

スペインのある町が宝くじの1等をたまたま独占したという話をにした昨年12月28日付けの天声人語は、こう言っていた。
皆が財布の紐(ひも)を緩めれば、経済は回り始め、皆が少し幸せになる。古今東西の道理である▼景気が心配な大統領や首相は、当たりくじを配る代わりに、手を尽くして人々の懐を温めてはどうか。まさかとは思うが、国会議員がわが身も切らぬまま国民に負担増を求めるなど、愚の骨頂だろう

「皆」が財布の紐を緩めるようにすべきなのなら、「皆」の一部である国会議員に「わが身も切」れと説くのはおかしいのではないか。国会議員に支出を増やすよう義務づけよと説くのならともかく。

そう言う朝日は、「人々の懐を温め」る、財源のアテのないバラマキに賛成なのかと言えばさにあらず、それどころか消費税増税を進めよと説くのだから、不思議な話である。

それに、歳費の額は、単にそれ自体が問題なのではない。社会的評価の問題でもあろう。

社説は「国会議員の歳費は、月額129万4千円だ。賞与は年2回で、あわせて約550万円」だという。これは、彼らの職務内容に照らして、不当な高額なのだろうか。私には、とてもそうは思えない。自分の給与に照らして、不当に高いと思う者は、ではそれだけの額をもらえるのなら、自分に同じことができるのかどうか考えていただきたい。私はまっぴらごめんである。

社会的評価の高い職業には、それなりの報酬が備わって当然だろう。私は一国民として、これぐらいの歳費を分担して負担することに異論はない。

変にモチべーションを下げられたり、程度の低い人材が集まるようになっても困る。

その代わり、その職責はしっかり果たしていただきたいものだが。

朝日は(朝日に限らないだろうが)、近ごろ既成政党への不信感が募っている、昭和戦前期に通じる風潮がある、民主制の限界が感じられるといった主張を最近何度か掲載したはずだ。そして朝日としては、そうした動きに警鐘を鳴らしているつもりなのだろう。だったら、当の民主制の担い手を、もう少し大事にしてはどうだろうか。

こうした安易な歳費削減論は、要するに、上に立つ者に何かケチを付けたい、わしら下々の者には難しいことはよくわからんが、とにかく上の者にたくさん負担させられるのなら結構なことだというような、「お上意識」を助長するものでしかないだろう。

朝日の論法を敷衍すると、国会議員が歳費を削減しないのなら、国民は復興増税や消費増税に賛成しなくてもよいのだということになる。それによって困るのは、彼ら国会議員ではなく、我々国民であるにもかかわらず。それこそが、朝日がしばしば批判するポピュリズムではないだろうか。

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