記事

日本人が持っている「シンガポールの教育」への誤解

1/2

国際学力テストで1位を総なめにするシンガポール

米朝会談で国際都市として注目を浴びるシンガポール。税制や子育て環境としても移住する世界の富裕層も多い。

国際NGO(非政府組織)のSave the Childrenが5月末に発表したレポート(https://www.savethechildren.org/content/dam/global/reports/2018-end-of-childhood-report.pdf)で、子どもが育つのに適した環境を指標化した結果、シンガポールとスロベニアが1位に選ばれている。5歳以下の死亡率、発達障害、学校に通っていない子どもの割合、子ども労働、早婚、若い時の出産、紛争で住みかを追われた国民の数、子ども殺人の割合の8項目について175カ国を調査した結果で、日本は19位。

シンガポールは15歳向けの国際横断学力テストPISAでも各科目で1位を総なめにしている。金融大手HSBCが毎年実施している調査では、外国人駐在員の駐在先に対する評価が最も高い国として2017年度まで3年連続で1位を獲得。欧米や日本からも子どもの教育環境などを理由に移住する富裕層がいるなど、「シンガポールの世界一の教育」の評判は止まらない。

しかし、実際にシンガポールで子育てをしはじめると、まずシンガポールの教育について過去の自分含めて多くの日本人が誤解していることに気づく。シンガポールにいる人には一目瞭然なのだが、まず外から見て「シンガポールの教育」と言うとき、そこには2種類の教育がある。「シンガポール人が通うローカルの教育」「シンガポールにあるインターナショナルな教育」だ。この2つは全く通う層が異なっており、分けて論じないといけない。

シンガポール人が通う競争の激しいローカル校

まず、「シンガポール人が通うローカルの教育」について。PISAの順位に寄与している公立の子どもたちが通うのはこちらだ。シンガポールは小学校卒業時に受ける試験でその後進学するコースが決まり、ひいては大学に行けるか、日本で言う高専のような「ポリテク」に行くか、が振り分けられていくので非常に競争が激しく、親は教育熱心である。街中には幼児向けの算数や中国語の塾などが散見されるほか、家庭教師も盛んだ。

こうした競争的な環境で試験の点数は高いものの、リスクをあまり取ろうとしない、イノベーション人材が育たない、若者に自信がないということなどが国内では課題として認識されている。政府も「創造性」を身に着けさせる方向に舵を切り、様々な方針を打ち出している。しかし、既存の競争に駆り立てられてすでに我が子に投資してきている親などの反発もあるといい、今後どこまで構造を変えられるかは不透明だ。

PISA2015の結果をOECDがまとめた資料によると、「クラスで1番になりたい」「試験の前に十分準備をしていても、まだ心配だ」といった質問に対して「あてはまる」と回答している生徒の割合は、シンガポールではOECD平均や日本に比べても高く、競争の激しさがうかがえる。また、学校におけるいじめも、日本と同様に問題になっている。

筆者作成

筆者作成

筆者作成

つまり、「シンガポール人が通うローカルの教育」は外からもてはやされるほどバラ色とは言えない状況である。これに加え、「シンガポールの教育が素晴らしいから」と外国人が教育移住をしてこの枠組みに入り込もうとするのは意外と難しい。

たとえば、小学校に入学する際は公立でもシンガポール人、永住権取得者が優先されるほか、シンガポール人の中でも家族が通っていたなどの「出身」がみられるため、そもそも「評判が良い学校」とされるところには入学すること自体が難しい。

仮に入れたとしても熾烈な状況が待っている。ローカル校に日本人が通う選択肢について、シンガポールに29年在住し、移住や教育の相談にも応じている Hirooka Family Office CEO 廣岡良博さんは「外国人でも永住権を持つ親にとっては子どもをローカル小学校に行かせるというのも選択肢。でも、日本から来ると言語の問題もあるが学習内容のレベルが1~2年遅れており、1年落として入るのは当たり前。それでもついていくのが大変なこともある。基本的には駐在家族などにはお勧めしない」と話す。

インターナショナル校の教育が「シンガポール教育」といえるのか

では「シンガポールにあるインターナショナルな教育」はどうか。治安の良さ、住み込みでメイドを雇うことができるなどとも相まって、オセアニアや欧米からもわざわざシンガポールで子育てをしたいと移ってくる人もいる。中国語が学べる環境も魅力的だ。

外国企業を誘致しているので、様々な国からの駐在員も多く、米系、英系、カナダ系、オーストラリア系、インド系…と様々なインター校が存在する。人気校はウェイティングリストがあり、なかなか入れないこともあるが、選抜がなく、受け入れのハードルが低い学校もある。

ただ、インター校で問題となるのは学費の高さだ。シンガポールはそもそも家賃が日本と比べても非常に高く、生活雑貨や食品など物価も高い。これに加えて、通常年間250~300万円程度の学費がかかる。

シンガポールの日本人家庭にインターナショナルスクールを紹介しているカルチャーコネクションの岡部優子代表は「通常企業駐在の場合、100万円弱の日本人学校の学費までは補助が出る場合が多い。それを超える部分については各家庭で負担している」と話す。

企業役員や投資家など富裕層が通わせているケースも多いようだ。子どもが2、3人いて高校までインター校で通わせようとしたときには、長期的なキャッシュフローが確保できる自信が必要になるだろう。

最近は年間15000シンガポールドル(円で120万円程度)のインターナショナルスクールも出てきており、選択肢は広がっているものの、企業駐在やかなりの富裕層が通わせていることを考えると、ある意味ではシンガポールの中でも非常に限られた層の人たちが通っているといえる。

人種や国籍は非常に多様ではあっても、こうしたインターナショナル校には基本的には公立に通うように義務付けられているシンガポール国民はいない。いわば国際都市としてのシンガポールに「あるだけ」で、これがシンガポールの教育と言えるのかは微妙だ。

あわせて読みたい

「シンガポール」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    賭け麻雀合法? 宗男氏声荒らげる

    BLOGOS しらべる部

  2. 2

    欧州で超過死亡 コロナ関連か

    ロイター

  3. 3

    裏に電通? 怪しいコロナ業務委託

    青山まさゆき

  4. 4

    役満狙った黒川氏 イカサマ失敗

    毒蝮三太夫

  5. 5

    黒川騒動で賭け麻雀モラル崩壊へ

    木曽崇

  6. 6

    安倍首相のサミット訪米に反対

    鈴木しんじ

  7. 7

    コロナで「おさわり」も禁止せよ

    幻冬舎plus

  8. 8

    テラハ問題を理解できぬ若者たち

    NEWSポストセブン

  9. 9

    新検事長は安倍政権の不正に迫れ

    天木直人

  10. 10

    月に30万円稼ぐパパ活女子の本音

    文春オンライン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。