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  • 橘玲
  • 2018年06月15日 17:19

新刊『朝日ぎらい』のあとがきを公開します

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6月13日発売の新刊『朝日ぎらい』の「あとがき」を、出版社の許可を得て掲載します。

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お気づきの方も多いと思うが、『朝日ぎらい』のタイトルは井上章一さんのベストセラー『京都ぎらい』から拝借した。この“パロディ”を快諾していただいたばかりか、大いに面白がってくださった井上さんにまずは感謝したい。

本書を最後までお読みいただいた方はおわかりだと思うが、私の政治的立場は「リベラル」だ。「普遍的人権」という近代の虚構を最大限尊重し、いわれなき差別のない自由な社会が理想だと思っている。

「リバタニア」のなかでは日本では数少ない「リバタリアン部族」に属し、日本は重層的な身分制社会だとして、その根幹にある日本的雇用を批判してきた。「差別」に反対するのはリベラルとしては当然で、奴隷制やアパルトヘイトの廃止を求めるのと同じだ。

社会政策はゲーム理論やビッグデータを駆使して「証拠に基づいて」決定し、功利主義的に社会を最適設計すればいいと考えており、シリコンバレーの「サイバーリバタリアン(右派)」に近い。「国家は国民が幸福になるための道具だ」と思っているから、右翼・保守派(ナショナリスト)とはまったく話が合わないだろう。

だがそれ以上に、日本で「リベラル」を自称するひととはそりが合わない。それは彼らの主張が間違っているからであり、そのきれいごとがうさん臭いからでもある。│少なくとも私は、自分のうさん臭さを自覚している。

安倍政権を批判するひとは「アベノミクスの失敗で格差が拡大した」というが、内閣府の国民生活に関する世論調査では「現在の生活に満足」との回答が73.9%(18~29歳は79.5%)と過去最高になった(2017年)。そのうえ完全失業率は2.5%と過去最低水準で、有効求人倍率は1.58倍と80年代のバブル最盛期を超えた(2018年2月)。さらに2018年春に卒業した大学生の就職率が過去最高の98.0%になり、大卒のほぼ全員が就職できる「全就職」時代になった。

もちろんこれには人口減にともなう人手不足などさまざまな要因があり、アベノミクスの金融緩和の成果だと一概にいうことはできないものの(これは将来の検証に任せるほかないだろう)、国民の7割以上が生活に満足している事実を無視するのは公平とはいえない。――ただし、現在の生活に8割が満足している若者も、その半数以上(53.3%)が「今後の収入や資産の見通しについて」悩みや不安を感じている。

安倍一強の状況がつづくなか、政権批判の論理はおうおうにして「国民(有権者)はだまされている」というものになる。だまされるのはバカだからで、そのことを指摘するのは自分たちエリートの責務だ――。いうまでもなくこの度し難い傲慢さが、リベラルが嫌われる(正当な)理由になっている。

本文でも述べたが、「リベラル化」する世界では、保守派は「リベラルのくせにリベラルではない」というダブルスタンダードを攻撃するようになる。それに対抗するには、自らが徹底的にリベラルになるほかはない。

「女性が輝く社会」を目指す安倍政権は、「2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度にする」との目標を掲げたが、リベラルな新聞社では女性差別はないのだから、役員や管理職などの男女の比率は半々になっているはずだ。だとすれば、「なぜ3割なのか。目標は5割を目指すべきだ」と社説に書けるだろう。

同じく安倍首相は、「同一労働同一賃金を実現し、非正規という言葉をこの国から一掃する」と施政方針演説で宣言したが、リベラルな新聞社には「正規/非正規」などという身分差別はなく、とうのむかしに同一労働同一賃金を実現しているはずだ。だったらなぜ、「立憲主義を踏みにじる」首相にこんな当たり前のことを先にいわれるのか。――日本で働き方改革がいっこうに進まないのは、「正社員」の既得権を守ることだけを目的としている労働組合が頑強に反対し、「差別」を容認しているからだ。

「親会社/子会社」は日本における身分の典型で、個人が平等な人権をもつ社会では、親会社からの出向というだけで、同じ仕事をしているにもかかわらず子会社のプロパー社員と待遇がちがう、などということが許されるわけがない。リベラルな新聞社はこんな悪弊とは無縁のはずだから、日本社会にはびこるこの差別を徹底的に批判すべきだ。

新卒一括採用は年齢差別そのもので、日本の法律でも違法だが厚労省が適用除外にしている。当然、リベラルな新聞社はひとを年齢で差別などしないのだから、「同期」とか「○期先輩(後輩)」などという軍隊か体育会のような言葉は死語になっているはずだ。

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