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決算黒いのは七難かくす・・・・・粉飾決算(経営者不正)への誘惑

私が監査役を務める会社も1Q決算報告が終了し、第一回の監査報告会(会計監査人と監査役との意見交換会)も終わりましたが、ここ数年、当社は開示されているとおりの業績不振が続いていたこともあり、これまでになかったほどの「ホンネの意見交換会」が続いております。毎回、社外監査役としていろいろなことを考えさせられます。

今の時代、あまり慣用句として使うのは適切ではありませんので恐縮ですが、「色の白いのは七難隠す」といいますが、「決算黒いのは七難隠す」であります。1円でも黒字が出ていれば監査法人との折衝は楽です。

しかし(とりわけ業績が悪いために)赤字となると、継続企業の前提に疑義が生じる事象に関して一気に監査法人のチェックが厳しくなります。中期経営計画の進捗状況、銀行の融資状況に関する変動の有無、決算・財務報告プロセスへのチェック等。また当然のことながら繰延税金資産の取り崩し、固定資産の減損、子会社株式の評価、資産除去債務等、会社側の将来見積もりにも厳しい目が向けられます。

監査法人の品質管理に行政当局の厳しいチェックが入るようになったからだと思いますが、それぞれの審査のために必要な資料も細かく要求される、もちろん業績が悪化しているところであるにもかかわらず、こういった複雑なチェックが要求されるために監査法人から求められる報酬金額も当然に増えるわけであります。

つまり監査法人と会社との関係は、黒字が出ていればハッピー、1円でも赤字となれば「職業的懐疑心」との闘いとなるわけです。頭ではわかっていたつもりでも、いざ自分がそういった会社の監査役を務めておりますと、いやいや、本当に身に沁みます。

当社では絶対にありませんが、こうやって厳しい折衝のなかで感じるのは経営陣の関与する粉飾決算への動機づけです。やはり経営者は粉飾決算をしたいと思うのは当たり前であります。最近のようにフェアーバリューや将来見積もりを必要とする勘定項目が増えているなかで、悪気がなくても数字をよく見せよう、との意欲がない経営者などいないのではないでしょうか

利益さえ出ていれば、上述のとおり監査法人との関係はハッピーであり、経営計画の内容にも、その実現可能性にも、子会社の事業にも他人から余計な口出しはされないのであり、また会計監査人との折衝も基本的には経理担当者に任せておけばよい。監査法人の現場担当者も、法人内部の契約審査部や監査審査部の人たちに細かいツッコミを入れられずにOKサインが出るわけで、後ろ向きの仕事をしないで済むわけです。

これだけ赤と黒では大違いなわけですから、少々無理してでも赤を黒に変えておこう、という気持ちになるのはむしろ経営者としては当然ではないかと。継続企業の前提さえ崩れなければ、複式簿記の世界ですから「あとで必ず利益が出るから、そのときに帳尻を合わせておけば済むし」で終わり。経営者は将来展望に自信を持っていますから、何も悪いことをしているという意識はないのです。

「なぜ監査法人、監査役は長年粉飾を見逃したのか」と非難されますが、こういった構造があるからではないかと。1円でも利益が出ていればみんなハッピーであり、思考が停止する、「おかしい」といえば「お前はあほか」と言われる。むしろ誠実に赤字決算を出せば、みんなが身構えて、「おかしい」と言われても不思議ではない雰囲気となる。株主からはセグメント毎の業績を指摘されて、(決算書には出てこない無形資産がいっぱい詰まっているにもかかわらず)赤字を垂れ流しているセグメントの切り離しを要求される。それなら毎年粉飾を重ねてでも利益が出ているようにして、みんなハッピーな状況のなかで経営を続ける方を選びたくなるのはあたりまえであります。

「それでは株主や投資家をだましていることになるではないか?」との反論が考えられますが、いえいえ、それは後出しじゃんけんの発想であり、経営陣は後でかならず粉飾は利益で消せると考えているのですから、むしろ株主や投資家のためにも今は粉飾で切り抜けようという意識の方が強いはずです。現にこれまでも粉飾決算によって凌いで、あとで利益が出て、結局何も問題にならなかった企業は山ほどあるはずです。

また利益が出ているから、監査法人や監査役が何もリスク感覚がなくなっているかというと、そうではありません。利益が出ている会社であるからこそ、今度は会計処理方針等が正しいかどうかに資源を集中するわけでして。でも会計処理の原因となっている会計事象が存在するのかどうか、というところまでは疑わないのであります。(監査役がそこを疑うということは、会社の存在自体を否定することになるため、ほとんど困難かと)会計不正の調査でむずかしいのは、このように不正発見には「時間軸」の意識が必要だからであります。

不正の兆候に気づくためには、会社がどのような局面になると、どのようなリスクが高くなり、そのために誰のモニタリングが期待できるのか、タイムリーな判断が要求されるからであります。つまり、監査法人も監査役も粉飾を見逃してはいけないという意識で仕事をしているけれども、(利益発生という結果から逆算して)「見つけやすい粉飾の発見」に注力しているわけでして、「何もしていない」のとは理由が違うのであります。

※業績が好調だけど、内部統制には重要な欠陥(開示すべき重要な不備)がある、といった内部統制報告書が出てくればおもしろいなあと思います。この会社は儲かってはいるけれども、間違った財務諸表を公表して投資家に迷惑をかけるおそれがある内部統制です、といった評価結果を自ら公表する会社があるならば、本当に誠実だなと思います。まあ、これはほとんど難しいかもしれませんが。。。

モニタリングする側からみると、子会社や特定事業部における会計不正についても同様の傾向があるかと推測いたします。子会社経営者や事業部長が社内で評判が高ければ高いほど、その会計処理のチェックまではできても、会計事象の存否までは調べることができない。たとえば利益を出している子会社のトップに「それはスルー取引ですか?循環取引ですか?」とは聞けない。

そんな愛社精神のない監査役には誰も口をきいてくれないでしょう。たとえ監査役といえども、利益追求のために同じ方向を向いていないとわかれば、相手は警戒して真実の情報を流してはくれないのであります。また監査役の心構えとしても誰も最初から、自社では循環取引が行われているなどとは夢にも思っていないのであります。その結果、粉飾は長年発覚せず、取引先の破たんによって表面化するまでわからない、というのが実際のところではないかと。

内部統制のチェック・・・、これは不正の予防に関わるものであり、監査役としても従事しやすい作業かと思います。しかし不正を見つけ出す作業は上述のとおりむずかしい。ただそれでも監査役は不正をみつけなければならない。唯一の方法は、利益追求のために経営陣と同じ方向を向きながらも、何もお膳立てされていない「生のビジネス情報」が飛び交うなかから、法律や会計、あるいは社内ルールや企業倫理綱領に関わる事象を抽出し、そこから異常な兆候を見つけ出すことだと思います。

「経営者をはじめ、会社はどんなに誠実な顔をしていても、粉飾決算を当然にやってしまうし、また悪いとも思わないものである」ということを十分に認識したうえでなければ、私は監査役が不正を発見することはむずかしいのではないか・・・・と最近は考えたりしております。

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