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米朝関係の行方 カギ握る米政府内主導権争い

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首脳会談に臨む北朝鮮金正恩委員長と米トランプ大統領 2018年6月12日出典:facebook White House

島田洋一(福井県立大学教授)

【まとめ】

・6月12日米朝首脳会談の合意文書は曖昧かつ無原則。

・米対北朝鮮政策は政府内部の主導権争いの行方に掛かっている。

・北朝鮮体制転換目指すボルトン派と「平和共存」目指す国務省派が対立。

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=40425でお読みください。】

6月12日の米朝首脳会談で、北朝鮮の暴虐な独裁者を立派な一国のリーダーであるかの如く遇し、曖昧かつ無原則な合意文書に署名したトランプ米大統領を、宮家邦彦氏が「交渉の達人ではなく、興行の達人だった」と評していた。うまい言い方だと思う。もっとも事態はまだ進行中である。制裁も解除されていない。

かねてボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が、繰り返し北朝鮮に騙される国務省の生え抜き外交エリートらを、ある興行師の「カモは毎分生まれる」(There’s a sucker born every minute.)という言葉を引いて批判してきた。

あれほど「従来の大統領と違って自分は騙されない」と豪語してきたトランプがなぜ危うい首脳間合意に踏み込んだのか。しかも今回はボルトンが補佐官として付いていたのである。

結局トランプが、国務省に取り込まれたポンペオ国務長官に仕切り役を委ねた結果という他ない。

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▲ボルトン大統領補佐官 出典:flickr photo byMichael Vadon

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▲写真 ポンペオ米国務長官 @シンガポール 2018年6月11日 出典:在日米国大使館

アメリカの対北朝鮮政策の行方は、北との対立点が何かということより、米政府内部の主導権争いの行方に掛かっている。単純化して言えば、北朝鮮の体制転換を目指すボルトン派と、妥協を重ねつつ「平和共存」を目指す国務省派のいずれにトランプ大統領が主導権を委ねるかである。

人権にもテロにも目をつぶったシンガポールにおけるトランプ外交に、野党民主党のみならず、共和党の有力議員からも強い疑問の声が上がっている。

例えば前回大統領選にも出たルビオ上院議員は、「金正恩の下での残虐行為に終局をもたらさないような『取引』は良い取引ではない」とトランプ式ディールをツイッターで批判している。

こうした与党内からの圧力も受け、トランプ大統領が、ポンペオ=国務省ラインに仕切らせたのは失敗だったと思い直し、ボルトン側に軌道修正する可能性は充分ある。シンガポールでの記者会見でもトランプは、今後の米朝協議をポンペオとボルトンに任せてあると、2人の名を同時に挙げていた。

そしてボルトン派の態勢固めも進んでいる。例えば私の10年来の知友フレッド・フライツが5月末、ボルトン氏の首席補佐官兼国家安全保障会議(NSC)事務局長に就任した。ホワイトハウスの中枢にあって政策調整に当たる要のポジションである。

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▲写真 フレッド・フライツ氏 出典:FredFleitz.com

フライツは、対北朝鮮、対イラン政策に関する優れた著書がある冷静なハードライナーで、約25年間のCIA生活を経て、ブッシュ(子)政権下の2001年、ボルトン国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)の首席補佐官に起用された。以来ボルトンを「マイ・ボス」と呼ぶ側近中の側近である。

私が「拉致被害者を救う会」副会長の立場でボルトンと最初に会ったのが2003年9月で、フライツはボルトンに紹介された。以来折に触れ意見交換している。フライツは日本人拉致問題に関して議会公聴会で公述人を務めたこともある。ボルトン、フライツの2人をホワイトハウス中枢に持つことは、日本にとって大きな資産と言えよう。

問題は、先に触れたように、ボルトン派と国務省派の主導権争いの帰趨である。北朝鮮側は、米朝首脳会談を「友好ショー」で終わらせ、その後の「実務者協議」で国務省を相手に一歩ごとに譲歩を獲得する戦略を描いていただろう。その第1段階は北の思惑通りに進んだ。

国務省についてはかねて、宿痾としての「顧客病」(clientitis)が指摘されている。交渉相手国の立場に寄り添い過ぎ、相手の代弁人と化してしまう体質を指す。かつてブッシュ政権末期に、ライス国務長官とともに戯画的なまでの対北譲歩を繰り返したクリストファー・ヒル国務次官補が「キム・ジョンヒル」と揶揄された例は記憶に新しい。現在国務省を統括するのはマイク・ポンペオ長官だが、第2のライスとならないか危惧される。

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▲写真 クリストファー・ヒル氏 2010年6月21日 出典:Chatham House

ボルトン派は、政権内に重要拠点を得たとは言え、構造的に劣勢である。議会民主党は一致して反ボルトン。共和党においてもボルトンは強硬すぎると批判する勢力が相当ある。ランド・ポール上院議員などは、昨年ボルトンが国務副長官候補に名前が挙がった際、「国務省に近付けてもいけない人物」と与党側ながら強い反対姿勢を示していた。

国際的にも、中国、韓国、ロシアはいずれも米国内での宥和派勝利を望んでおり、陰に陽に国務省を後押しする行為に出てくるだろう。

唯一ボルトン側と言えるのが日本の安倍政権だが、国務省は今後、「安倍も妥協路線支持に回った」との「情報」を盛んにトランプに入れていくはずである。米政府内でその認識が広がれば、ボルトン派は完全に孤立する。

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