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- 2012年01月27日 10:47
「中退」を切り口に大学教育改革をおこす 山本繁(NPO法人NEWVERY代表理事)
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「若者たちが未来に希望を持てる社会」を実現するために、高等教育イノベーションとクリエイティブ産業振興に取り組んでいるNPO法人NEWVERY代表の山本繁さん(33)。若者をフリーターやニートといった社会的弱者に転落させないために、今何が必要なのか。全国の大学や地域においてさまざまな若者支援事業を試みる山本さんに、その活動内容についてお話を伺った。(シノドス編集部・宮崎直子)
■若者たちを社会的弱者へ転落させないために
――今、なぜ若者支援が必要なのでしょうか。
総務省が昨年末に発表した労働力調査によると、現在若年層の完全失業率は約9%、日本全体では5%程度になります。2020年には日本の失業率は全体で9%、若年層では20%近くになるだろうと予測されています。今よりも就職率が悪化しているという将来を見据えると、取り組むべきことはたくさんあるのです。
若者は大きく5つに分類できます。「リーダー層」「(目標のある)フリーター」「(仕方なくなった)フリーター」「ニート・ひきこもり」「その他大勢」。この中の「(仕方なくなった)フリーター」「ニート・ひきこもり」に対して、そうなるのを未然に防ぐために取り組んでいるのが「日本中退予防研究所」http://www.stoptheneet.jp/ です。彼らの約3割は高校・大学・短大・専門学校の「中退経験者」。つまり、中退を未然に防ぐことでニートにしないようにしようというのが目的です。
いかに若い人たちが社会的弱者に転落するのを未然に防ぐか。そういう問題意識を持ってずっとやってきました。昨今の経済不況と就職難の中では、以前は放っておいても自立できた「その他大勢」の若者たちも、かなりグレーゾーンに呑み込まれてきています。その人たちに対しても対策が必要だろうということで、昨年の11月から豊島区との共同事業で「おとな大学」http://www.otonadaigaku.com/ を実施しています。「(目標のある)フリーター」に対しては「トキワ荘プロジェクト」http://tokiwasou.dreamblog.jp/ で漫画家育成支援を、「リーダー層」に対してはインターンシップを受け入れるなど、包括的に活動を展開しています。
■若者が大人になっていく場所
――「おとな大学」ではどういう取り組みが行われているのでしょうか。
人が生きていく上でもっとも大切なことは「働くこと」と「愛すること」です。かつて精神科医のフロイトは、「大人になるとは?」という問いに対して、この2つのことをあげました。大人とは、働いて自分の生計を立てることができる人であり、他人と愛情や友情関係を築くことができる人であると解釈した。つまり、人は経済的に自立し社会の中で自分の役割を見つけ、それに参画しなければいけないし、一方でどんなに経済的、社会的に成功していても、他人と愛情や友情関係を築けなければ、孤独のままに死ぬということです。
この非常に大きなテーマを「おとな大学」では追求しています。20~30代前半の大学生や社会人を対象に、「起業」や「コミュニケーション」をテーマにしたゼミ、学生限定の「異学種交流会」などを開いて、学びや経験を共有し若者が交流できる場を提供しています。ここでわたしが参加者に一番伝えたいのは「選択肢は多様にある」ということです。大手の企業に入ることだけがいいわけではない。中小企業やNPOで働くこともできれば、小さく起業するという生き方もある。若者が将来のキャリアプランニングをしていく上で必要な情報を「おとな大学」で提供しています。
NEWVERY http://www.newvery.jp/ は2002年にボランティア団体としてスタートし、2008年から豊島区に事務所をおいています。NPOとして地域に何か貢献したいという思いが強くありました。そうした中、豊島区から若者支援を生涯学習の一環でやりたいとの提案があり、この10年間で積んできたノウハウを生かして事業を進めています。
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「おとな大学」自分で仕事を創るゼミの様子
■「中退」を切り口に大学教育改革に挑む
――日本の高等教育が置かれている状況を教えてください。
PISA(OECD生徒の学習到達度調査)によれば、日本の15歳児の問題解決能力は世界でもトップクラスですが、大学になると、同じくOECDの調査でワースト1、2位まで下がります。日本の大学のレベルはそれぐらい低評価です。日本の大学を卒業しても国際的にはまったく信用されないし、大学を出るのがこんなに簡単な国は日本ぐらいです。
日本の高等教育はアメリカやヨーロッパに比べて30~40年遅れているといわれています。日本の高等教育分野の研究者が国際的な学会に行って誰と話が合うかというと、ブラジルやタイの研究者で、アメリカの研究者とは全然話が合わないというのです。つまり、タイやブラジルと日本の教育の状況が似ていて課題が同じなんですね。アメリカはとっくにそんな課題は乗り越えているんです。国際的に見ても日本は大学改革が求められていて、それをいかに実現するかというのがぼくたちが今一番腐心しているテーマです。フリーターやニートを生み出す「中退者」を減らすことを通じて、高等教育機関の「教育力」と「問題解決能力」を高めることが目的です。
――高等教育を中退することでうまれるリスクとは。
文部科学省はデータを公表しないので正確な値はわかりませんが、大学・短大・専門学校の中退者は合わせて年間11万人以上と推測されています。そして、そのうちの約6割はずっとフリーターか無職のままでいます。その数、年間66,000人と考えると、10年で66万人、20年で132万人。現時点でフリーターの数は200万人、ニートは64万人いるといわれていますので、ものすごいシェアを占めているんですね。
「中退」は高等教育機関にとって3つのデメリットがあります。1つは評判の著しい低下です。日本の私立大学では、年間約3%の学生が中退するといわれています。たとえばある大学に1万人の学生がいると、毎年300人が辞めるわけです。10年間で3000人、20年間で6000人。東京ではイメージしにくいかもしれませんが、地方都市でそれぐらいの中退者が出ると大学の評判は地に堕ちます。
2つ目はキャッシュフローの悪化です。私立大学で1年生が一人辞めると大学は300万円の機会損失をします。2~4年生時の授業料が得られなくなるからです。年間100人が辞めると3億円もの不利益を被ることになります。
3つ目は、組織のモラルハザードです。教育機関で働いている人たちは、誰も学校を辞めていく学生の後ろ姿を見ることを望んではいません。教育熱心な職員ほど胸をいためることになります。年間200人も300人も退学者が出るという現象がつづくと、それが当たり前になってだんだん感覚が麻痺してくるんですね。そうすると、組織のモラルが壊れていき、ガバナンス上問題が生じてきます。
そして、中退した者は一生履歴書にその経歴が残ります。新卒ですら就職が難しい中で、中退した学生を積極的にとろうという企業はありません。
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中退予防勉強会の様子
――中退の原因と、予防対策について教えてください。
学生の中退の原因は次の3つに類型化可能です。
(1)学生と、大学が提供している教育内容・教育方法とのミスマッチ
(2)個々の学生が抱えている事情・課題
(3)キャリア不安・将来不安と大学卒業価値の低下
つまり、授業がつまらない・わからない、勉強する意欲がわかない、大学で勉強していることが将来の役に立つのかわからない、友達ができない、先生と合わない、人間関係のトラブルが発生したといったことです。これらが全体の80%を占めます。その他に、経済的困窮(5~10%)、精神疾患・障害(5~10%)、妊娠・結婚(1%)などがあります。中退者に接してインタビューを行い、調査・分析した結果を『中退白書2010 高等教育機関からの中退
』『中退予防戦略』などの本にまとめています。また、全国の大学でコンサルティングやセミナーを行って、ノウハウや成功事例を波及させるようにつとめています。
中退者を減らす対策として、今大学では「初年次教育」にもっとも力を入れています。1年生に特化した学生たちの教育機関への定着と、その教育機関でどう過ごし、成長するのかという意識づけを行います。また、大学教員の能力開発(Faculty Development)が、文科省から義務化されるなど、多種多様な取り組みが各大学で行われています。大学の諸活動にマーケティングを応用するための機関調査(Institutional Research)に対する関心も高まっています。
「若者たちが未来に希望を持てる社会」を実現するために、高等教育イノベーションとクリエイティブ産業振興に取り組んでいるNPO法人NEWVERY代表の山本繁さん(33)。若者をフリーターやニートといった社会的弱者に転落させないために、今何が必要なのか。全国の大学や地域においてさまざまな若者支援事業を試みる山本さんに、その活動内容についてお話を伺った。(シノドス編集部・宮崎直子)
■若者たちを社会的弱者へ転落させないために
――今、なぜ若者支援が必要なのでしょうか。
総務省が昨年末に発表した労働力調査によると、現在若年層の完全失業率は約9%、日本全体では5%程度になります。2020年には日本の失業率は全体で9%、若年層では20%近くになるだろうと予測されています。今よりも就職率が悪化しているという将来を見据えると、取り組むべきことはたくさんあるのです。
若者は大きく5つに分類できます。「リーダー層」「(目標のある)フリーター」「(仕方なくなった)フリーター」「ニート・ひきこもり」「その他大勢」。この中の「(仕方なくなった)フリーター」「ニート・ひきこもり」に対して、そうなるのを未然に防ぐために取り組んでいるのが「日本中退予防研究所」http://www.stoptheneet.jp/ です。彼らの約3割は高校・大学・短大・専門学校の「中退経験者」。つまり、中退を未然に防ぐことでニートにしないようにしようというのが目的です。
いかに若い人たちが社会的弱者に転落するのを未然に防ぐか。そういう問題意識を持ってずっとやってきました。昨今の経済不況と就職難の中では、以前は放っておいても自立できた「その他大勢」の若者たちも、かなりグレーゾーンに呑み込まれてきています。その人たちに対しても対策が必要だろうということで、昨年の11月から豊島区との共同事業で「おとな大学」http://www.otonadaigaku.com/ を実施しています。「(目標のある)フリーター」に対しては「トキワ荘プロジェクト」http://tokiwasou.dreamblog.jp/ で漫画家育成支援を、「リーダー層」に対してはインターンシップを受け入れるなど、包括的に活動を展開しています。
■若者が大人になっていく場所
――「おとな大学」ではどういう取り組みが行われているのでしょうか。
人が生きていく上でもっとも大切なことは「働くこと」と「愛すること」です。かつて精神科医のフロイトは、「大人になるとは?」という問いに対して、この2つのことをあげました。大人とは、働いて自分の生計を立てることができる人であり、他人と愛情や友情関係を築くことができる人であると解釈した。つまり、人は経済的に自立し社会の中で自分の役割を見つけ、それに参画しなければいけないし、一方でどんなに経済的、社会的に成功していても、他人と愛情や友情関係を築けなければ、孤独のままに死ぬということです。
この非常に大きなテーマを「おとな大学」では追求しています。20~30代前半の大学生や社会人を対象に、「起業」や「コミュニケーション」をテーマにしたゼミ、学生限定の「異学種交流会」などを開いて、学びや経験を共有し若者が交流できる場を提供しています。ここでわたしが参加者に一番伝えたいのは「選択肢は多様にある」ということです。大手の企業に入ることだけがいいわけではない。中小企業やNPOで働くこともできれば、小さく起業するという生き方もある。若者が将来のキャリアプランニングをしていく上で必要な情報を「おとな大学」で提供しています。
NEWVERY http://www.newvery.jp/ は2002年にボランティア団体としてスタートし、2008年から豊島区に事務所をおいています。NPOとして地域に何か貢献したいという思いが強くありました。そうした中、豊島区から若者支援を生涯学習の一環でやりたいとの提案があり、この10年間で積んできたノウハウを生かして事業を進めています。
リンク先を見る
「おとな大学」自分で仕事を創るゼミの様子
■「中退」を切り口に大学教育改革に挑む
――日本の高等教育が置かれている状況を教えてください。
PISA(OECD生徒の学習到達度調査)によれば、日本の15歳児の問題解決能力は世界でもトップクラスですが、大学になると、同じくOECDの調査でワースト1、2位まで下がります。日本の大学のレベルはそれぐらい低評価です。日本の大学を卒業しても国際的にはまったく信用されないし、大学を出るのがこんなに簡単な国は日本ぐらいです。
日本の高等教育はアメリカやヨーロッパに比べて30~40年遅れているといわれています。日本の高等教育分野の研究者が国際的な学会に行って誰と話が合うかというと、ブラジルやタイの研究者で、アメリカの研究者とは全然話が合わないというのです。つまり、タイやブラジルと日本の教育の状況が似ていて課題が同じなんですね。アメリカはとっくにそんな課題は乗り越えているんです。国際的に見ても日本は大学改革が求められていて、それをいかに実現するかというのがぼくたちが今一番腐心しているテーマです。フリーターやニートを生み出す「中退者」を減らすことを通じて、高等教育機関の「教育力」と「問題解決能力」を高めることが目的です。
――高等教育を中退することでうまれるリスクとは。
文部科学省はデータを公表しないので正確な値はわかりませんが、大学・短大・専門学校の中退者は合わせて年間11万人以上と推測されています。そして、そのうちの約6割はずっとフリーターか無職のままでいます。その数、年間66,000人と考えると、10年で66万人、20年で132万人。現時点でフリーターの数は200万人、ニートは64万人いるといわれていますので、ものすごいシェアを占めているんですね。
「中退」は高等教育機関にとって3つのデメリットがあります。1つは評判の著しい低下です。日本の私立大学では、年間約3%の学生が中退するといわれています。たとえばある大学に1万人の学生がいると、毎年300人が辞めるわけです。10年間で3000人、20年間で6000人。東京ではイメージしにくいかもしれませんが、地方都市でそれぐらいの中退者が出ると大学の評判は地に堕ちます。
2つ目はキャッシュフローの悪化です。私立大学で1年生が一人辞めると大学は300万円の機会損失をします。2~4年生時の授業料が得られなくなるからです。年間100人が辞めると3億円もの不利益を被ることになります。
3つ目は、組織のモラルハザードです。教育機関で働いている人たちは、誰も学校を辞めていく学生の後ろ姿を見ることを望んではいません。教育熱心な職員ほど胸をいためることになります。年間200人も300人も退学者が出るという現象がつづくと、それが当たり前になってだんだん感覚が麻痺してくるんですね。そうすると、組織のモラルが壊れていき、ガバナンス上問題が生じてきます。
そして、中退した者は一生履歴書にその経歴が残ります。新卒ですら就職が難しい中で、中退した学生を積極的にとろうという企業はありません。
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中退予防勉強会の様子
――中退の原因と、予防対策について教えてください。
学生の中退の原因は次の3つに類型化可能です。
(1)学生と、大学が提供している教育内容・教育方法とのミスマッチ
(2)個々の学生が抱えている事情・課題
(3)キャリア不安・将来不安と大学卒業価値の低下
つまり、授業がつまらない・わからない、勉強する意欲がわかない、大学で勉強していることが将来の役に立つのかわからない、友達ができない、先生と合わない、人間関係のトラブルが発生したといったことです。これらが全体の80%を占めます。その他に、経済的困窮(5~10%)、精神疾患・障害(5~10%)、妊娠・結婚(1%)などがあります。中退者に接してインタビューを行い、調査・分析した結果を『中退白書2010 高等教育機関からの中退
』『中退予防戦略』などの本にまとめています。また、全国の大学でコンサルティングやセミナーを行って、ノウハウや成功事例を波及させるようにつとめています。
中退者を減らす対策として、今大学では「初年次教育」にもっとも力を入れています。1年生に特化した学生たちの教育機関への定着と、その教育機関でどう過ごし、成長するのかという意識づけを行います。また、大学教員の能力開発(Faculty Development)が、文科省から義務化されるなど、多種多様な取り組みが各大学で行われています。大学の諸活動にマーケティングを応用するための機関調査(Institutional Research)に対する関心も高まっています。



