記事

アニメ化中止は「表現の自由」案件ではない

2/2

まず「各個人の表現の自由」というものは、国や行政が介入しないことによって保証される。個人の日記帳に何を書こうと自由だし、インターネットにどんな文章をアップロードするのも、どんな動画をアップロードするのも自由である。

しかし現実には、インターネットにアップロードした表現物が削除される場合がある。それはそのサービスを提供している業者の規約に触れる場合である。こうした場合の削除は、最初に述べたように国や行政が関与するものではなく、こうした削除もサービス提供者の自由である。

最近、youtubeの規約に反するヘイトスピーチを行っている動画を通報し、チャンネル自体を閉鎖させる祭りがネットの一部で流行っており、これに反発して「表現の自由を守れ!」と主張するものもいるが、そうした主張のほうがむしろサービス提供者の「必要な管理を行う権限」を脅かす、他者の自由を尊重しない主張であると言える。

一方で、サービスを提供するような側であったり、自分自身でメディアを持っていれば、その表現を押し止めるものは少ない。 例えば昨年問題になった、コンビニでの栄養サプリなどで知られるDHCの制作プロダクションであるDHCテレビジョンが製作、提供する「ニュース女子」は、かつて東京MXテレビの放送枠を購入して放送されていいた。

しかし、沖縄の基地問題に関する報道に対して批判が集まり、BPO放送倫理検証委員会により「重大な放送倫理違反があった」と公表され、MXテレビはニュース女子の放送を終了した。

だからといってDHCテレビがニュース女子の放送を諦めたわけではない。DHCテレビはMXテレビ以外の局の放送枠を買い取ったり、またyoutubeなどを通したネット配信をおこなうことで、今もなおニュース女子の放送を継続している。

また、今回の騒動で「過去のヘイトスピーチを問題にするなら、百田尚樹の作品はいいのか!」と言われることも多いが、これについても百田尚樹氏というベストセラー作家と、実績がないとは言わないが、一介のラノベ作家。ヘイトの問題があったとして、百田尚樹氏ならビジネス上の利益を考えて擁護しても、ラノベ作家は擁護しても儲からないから必要はないと考えるのはビジネスである以上、仕方のない考え方だろう。

他にも、宗教団体が自分たちの教義をアニメ映画にして町中の映画館で上映することもあるが、これも結局お金があればこそ実現できるのである。

確かに「表現の自由」は法的に守られている。我々はどのような表現をすることも自由だ。しかしその表現を文章にして売ったり、アニメ化して放送したり、たくさん宣伝をしてベストセラーにしたり、タレントや文化人をたくさん集めて論じさせたりすること、すなわち「表現をリッチにして、多くの人に見せていくこと」に関しては、どうしたって多くのビジネスが関わるのだから「お金の問題」が関係してくるのだ。

すなわち、すべての人に表現の自由は認められるが、その表現を喧伝する能力は、そのへんの個人よりも、権力を持ったお金もちや有名人の方が強い。さらにはそうした個人よりも会社や組織が強く、そして一番強いのは国家であるという、ごくごく平凡な結論に至るしか無いのである。

昨今、表現の自由を考える上で、これを「権力の管理監視からの自由」ではなく「自分たちが好き勝手にできる自由」であると勘違いしている人が増えているのではないか。そんな疑念を覚えるようになった。

実際、今回の「お金の問題」において、表現の自由を主張している人たちの中には、その一方でニュース女子で報じられる内容や、百田氏の言動には喝采を送っている人も多いと感じられる。

しかし、そのいずれもが「お金でメディアに露出すること」という同じラインの話であり、製作委員会が降りてアニメが放送できなくなることも、お金や権力のある誰かが商売上の損得を考えずに特定の思想を流し続けるのも、お金の問題であり、まったく同じ意味合いなのである。片方を批判してもう片方には快哉を叫ぶという考え方は成り立たないのである。

では、お金の問題をも含めて、表現の自由を守るためにはどうしたらいいか。

必要なのは決して「お金を持つ側が、お金を持たない側を守るべきだ」などという道徳論ではない。そのような「権力や富を持つものに対して良心や道徳心を求める考え方」は、長い歴史の中で散々裏切られてきた。権力者は聖人ではなく、一介の人間に過ぎない。人間に権力を与えながら、その権力を行使するなと押し止めるのは、犬に「待て!」を命令するよりも遥かに困難だろう。

結局は現実的に、お金やメディアを持つ側や国家権力そのものによる表現の介入に対して、一定の法的規制を加えることでしか、表現の自由は十分に守れないのである。

しかしながら、それは一方で本来の意味での「権力からの管理監視を禁止する」ための表現の自由を損じ得る考え方でもある。youtubeでヘイト動画が削除されるのは、もちろん欧米諸国での反ヘイトの潮流があってのことではある。また日本でも2016年にヘイトスピーチ解消法が施行され、サービス業者の規約に影響を与えている。そうした意味で、業者の管理の自由自体が、100%教科書通りの表現の自由に即したものではないということも、また事実だ。

私達は現実の中に生きていて、100%の理想は実現しない。表現の自由もそうであり、どこかしらに妥協が必要になる。誰かの表現の自由を守るためには、同時に誰かの表現の自由を制限する必要があるといえる。その調整に絶えず腐心をすることが「表現の自由を守ること」であり、誰のどんな表現でも批判してはならないかのような、安直な表現の自由論は、結果として金を持った権力者や国家権力側の表現のみが表舞台にはびこる結果となるだろう。

*1:TVアニメ「二度目の人生を異世界で」公式サイト(「二度目の人生を異世界で」製作委員会)http://nidomeno-jinsei.com/
*2:HJノベルス『二度目の人生を異世界で』に関しまして(ホビージャパン)http://hobbyjapan.co.jp/book_notices/index.php?id=157
*3:【お詫び】私の過去のいくつかのツイートにつきまして、多くの方に非常に不快な思いをさせてしまう、不適切な表現がありましたことを深くお詫び申し上げます。(まいん Twitter)
*4:アニメ「二度目の人生を異世界で」、主要の声優が一斉に降板 原作者がヘイトスピーチについて謝罪の直後(ねとらぼ)http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1806/06/news076.html
*5:漫画家・クジラックス先生、警察の「申し入れ」報道についてあらためて説明 「前例ができたと思ってほしくない」(ねとらぼ)http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1706/15/news163.html
*6:小学館 - 「コロコロ」販売中止 外務省の対応に批判も(BLOGOS)http://blogos.com/news/shogakukan/
*7:「二度目の人生を異世界で」出荷停止、出版社は「脅迫などは把握していない」とネットの噂否定(キャリコネニュース BLOGOS)http://blogos.com/article/302695/

あわせて読みたい

「人権」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    「韓国に学べ」となぜ報じないか

    水島宏明

  2. 2

    瞳から家バレ 襲われたアイドル

    阿曽山大噴火

  3. 3

    リーマン当時と違う業界別壊滅度

    Chikirin

  4. 4

    都からの移動者 厳しい対応必要

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  5. 5

    緊急事態の効果示したテレ朝番組

    水島宏明

  6. 6

    家賃支払いが不安な人への支援策

    中川寛子

  7. 7

    専門家組織がたばこ生産停止要請

    ロイター

  8. 8

    30万円給付に与党からも不満続出

    藤田孝典

  9. 9

    買い溜めで混乱 姿を消す食品は

    BLOGOS編集部

  10. 10

    緊急事態宣言は安倍政権の大博打

    企業法務戦士(id:FJneo1994)

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。