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【映画感想】万引き家族

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治(リリー・フランキー)と息子の祥太(城桧吏)は万引きを終えた帰り道で、寒さに震えるじゅり(佐々木みゆ)を見掛け家に連れて帰る。見ず知らずの子供と帰ってきた夫に困惑する信代(安藤サクラ)は、傷だらけの彼女を見て世話をすることにする。信代の妹の亜紀(松岡茉優)を含めた一家は、初枝(樹木希林)の年金を頼りに生活していたが……。

gaga.ne.jp ※音が出ます!

2018年、映画館での17作目。
観客は僕も含めて50人くらいでした。

第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞したことでかなり注目されているのですが、僕はやや寝不足だった影響もあったのか、前半はけっこう眠気におそわれたりもしました。

ああ、また「いかにもリリー・フランキーが演じそうな役をやっている、リリー・フランキーさん」に加えて、今回は「いかにも樹木希林さんが……」「いかにも安藤サクラさんが……」ということで、演技合戦的な独特の緊張感を孕みながらも、「まあ、上手いよね、そりゃそうだ」と、やや醒めた気持ちで観ていたところもあったんですよね。
むしろ、2人の子役や松岡茉優さんの危うい感じのほうに惹かれるところがありました。
松岡さんけっこう露出もしているし、頑張ってるよねえ、とか。

これまでの多くの是枝作品と同じように、観終えて「うーん、これで『終わり』なのか……」と、大変モヤモヤしたまま映画館を出てきました。

この映画で描かれているのは、「世の中には正解なんてない、よりマシな選択をしながら生き延びていくしかない」という人たちと、「社会には『正解』が存在していて、それに従わない(従えない)人たちは異物であり、悪なのだ」という人たちの絶望的なまでのすれ違いではないかと僕は感じました。

それは警察や福祉課に相談するべきだ、とか、生きるためとはいえ、万引き、とくに子どもが万引きなんてするのは間違っている、というのは簡単なんですよ。
でも、彼らは「万引きするか、家で温かい布団にくるまって、コンビニで買ってきたご飯を食べるか」という選択を迫られているわけではなく、「万引きするか、食べるものがなくて飢えに苦しむか」という世界で生きている。
子どもたちだけでも保護してもらえばいいのに、と言いたくなるけれど、そういう「公的機関にアクセスする方法」を知らない人たちも、少なからずいるのです。


fujipon.hatenadiary.com

是枝監督は、「こういう家族や人間のつながり」の善悪ではなくて、「いまの日本にも、これと似たような生き方をしている家族がいる」ということを、まず知らしめたかったのではないかと思います。
そして、「善悪やどうするべきだったのかは観た人がそれぞれ考えてくれ」と、投げっぱなしにしているようにすらみえます。

この映画のなかには、女の子の「おねがいゆるして」という懇願など、あの目黒区の虐待事件を思い出さずにはいられない描写もたくさんあって、是枝監督は綿密な取材のもとにこの作品をつくりあげたのだな、と嘆息せずにはいられませんでした。
そして、あの目黒区の事件は、ひとつの典型例であり、まさに「氷山の一角」でしかないのだ、ということも理解したのです。

僕は正直、是枝監督の『そして父になる』や『三度目の殺人』って、「良い映画だとは思うけれど、ちょっと苦手」ではあったのです。
是枝監督は、僕からすると「弱者をイノセント(無垢)で情が厚く描き、経済力がある人を計算高く、情に乏しいとか家族に冷淡に描いている」ようにみえていたので。

『そして父になる』とかは、まさにその典型でした(すごく良い映画で、大好きなんですが)。

実際は、貧しいから助け合って生きている、とか、純粋で家族愛にあふれている、なんてことばかりではないですよ、お金がなければ少ないカネに対して諍いが起こるのは珍しくもない。

お金があれば幸せ、というわけではないのもわかるけれども。

しかしながら、この『万引き家族』では、「弱者や貧しい人たちは、強く生きているのと同時に、厚かましさや非常識さを武器にしている場合がある」ことを冷徹に描いているのです。

「それしか生きる手段がない」とはいえ、子どもに万引き(泥棒)をさせるべきではない。
そこには「子どもにやらせたほうがバレにくいし、見つかってもごまかしやすい」という計算がある。

ただし、子どもにだってプライドもあれば「生活が苦しいのなら、自分もみんなの役に立ちたい」という気持ちもある。

彼らをワイドショーで観る立場からすれば「非常識な小悪党たちが子どもを利用していた」と感じるだろうし、この映画で、彼らの視点からみると「彼らの置かれた立場や状況では、これが考えつくいちばんマシな生き方だったのだろうな」と考え込まずにいられなくなるのです。

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