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想定外シナリオと危機管理−東電会見の失敗と教訓

東京の久保利英明先生からお手紙をいただきまして、「いつもブログを拝見しております。また、先生のNBLの論文を拝読し、参考になればと思い、一冊謹呈申し上げます」とのことで、久保利先生の新刊書を頂戴いたしました(どうもありがとうございます。

想定外シナリオと危機管理−東電会見の失敗と教訓(久保利英明著 1,400円税別 商事法務)

ただ、久保利先生には申し訳ないのですが、実は発刊と同時に一冊自費で購入しておりまして(当然といえば当然)、すでに読み終えたところでありました。NBLの論文を書き終えたころに、商事法務さんのメールマガジンを読み、久保利先生の新刊書が「東電問題」を扱われたものであることを知り、ドキドキしながら読み進めていたものであります。総会指導業務の合間をぬってしたためられた、とのこと。

ビジネス・ロー・ノートの川井信之先生から「凡庸な弁護士」と言われそうなので(笑)、ブログではご紹介しなかったのですが、実は私もNBL7月1日号にて「原発事故にみる東電の安全体制整備義務−有事の情報開示から考える」と題する論稿を発表させていただきました。私の論稿の次ページに、この久保利先生の新刊書が大きく広報されておりましたので、当ブログにお越しの方は、すでにお読みになった方も多いかもしれません。NBLでは、原賠法に詳しい森田章教授(同志社大学法科大学院教授)の論稿と共に掲載いただいたことをたいへん光栄に感じておりますが、私は(勝手な推測ですが)、東京の企業法務で著名な弁護士の方々は、おそらく東電もしくはメインバンク(みずほ)と何らかの関係があるため、東電を批評する論文は書きにくいのだろう、だから私のところにお鉢が回ってきたのだろう・・・と推測しておりました。

ところが、ところが。。。企業法務の第一人者でいらっしゃる久保利先生の「東電批判」はなかなかスゴイ。もちろんJA中央の代理人として、東電経営者とすでに賠償交渉をされている立場だから・・・という面もあるかもしれませんが、「ここまでハッキリ言うてええのん?」と思わせるほど、東電本体および同社役員個人の法的責任論について深く切り込んでおられます。先に本書を拝読していたら、私の論稿も、もう少し腰の引けていない(笑)論調になったかも(^^;。いや、おそらくこの違いは、やはり企業法務とりわけコンプライアンスや内部統制について実務で体得したものの違い(そこから来る自信)に起因するところが多いものと思いました。また、議員定数訴訟のスタンスと同様、国民の視点から東電を分析する、ということに力点が置かれているのが特徴的であります。

私の論稿と同様、本書でも、東電問題を扱うにあたり、リスク管理(リスクマネジメント)と危機管理(クライシスマネジメント)を分けて検討されており、原発事故発生前の安全対策、そして原発事故直後の危機回避の是非についての検討は、東電問題を超えて、危機に遭遇した企業の危機管理の在り方を再考させるものであります。私も本件を検討するにあたり、ダスキン事件判決は重要なモノサシになるものとして引用しておりますが、本書でも同様に情報開示のタイミングを含め、危機管理と役員の責任論を考える判断指針として掲げられております。リスク管理の面においては、「想定外」ではなく「想定しようとしなかったにすぎない」として、善管注意義務違反の有無についても明言されており、またクライシスマネジメントの面においては、やはり情報開示の失敗を検証され、「メキシコ湾で原油流出事故を起こした英国のBPと同様に、世界中の裁判所で世界中起こされる訴訟に対応せざるをえないだろう」とバッサリ。「マスメディアの失敗」は、昨今の「九電やらせメール」へのマスコミ対応などにも通じるところがあり、コンプライアンス問題を考えるうえでも参考になります。

本書を最後まで読み、ふと思ったことがございます。これだけ東電および東電の役員批判を痛烈に展開されているにもかかわらず、どうも「東電憎し」という印象が伝わってきません。著者は、これまでの電力会社の果たしてきた役割をご存じであるがゆえに、東電に完全に見切りをつけたわけではなく、むしろ東電の尻を叩いているのではないか?日本を支えてきた数々の経営者を輩出してきた名門企業だからこそ、荒治療を施してでも、名門復活のための体制整備が必要だと考えておられるのではないか、と思われます。マスコミでは「東電の甘い体質」「不適切な情報開示」という言葉が抽象的に使われており、その具体的な内容については語られていないことが多いのでありますが、本書においては何が体質として問題なのか、情報開示のどこが不適切なのかが(長年のご経験から)具体的に書かれており、だからこそ将来に向かっての改善策に説得力があります。

競争相手に負ければ倒産、という厳しい業界であれば、企業にとってコンプライアンス重視ということも身にしみるわけですが、これまで公企業は「不祥事が発生しても、頭を下げれば一件落着」という理解があったのではないでしょうか。おそらく電力会社にも、そのような企業風土が根強く残っているものと思われます。しかし、そうではない、ということを今回の痛ましい震災が証明したのでありまして、東電ですら、継続企業の前提について注記が付され、コンプライアンス違反によって存亡の危機に陥ること、そしていったん失った信頼を回復することは容易ではないことを東電に学んでほしい、だからこそ著者は国民の側に立って、本書を世に著したのではないでしょうか。

JR福知山線事故も、公企業にとって厳しい事件ではありましたが、解体の危機に至るものではありませんでした。しかし今回の事故については、賠償関連法の改正動向にもよりますが、本当に危機を招来しました。原発事故収束にはまだまだ気が遠くなりそうな時間を要するものではありますが、東電問題は国民の視点によるコンプライアンス経営を考えるうえで、今後も避けては通れないことを本書をもって再認識いたしました。

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