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「遺伝子組み換え表示」の見直しで残された課題 毎年変わる食品の表示ルール - 石井孝明 (経済・環境ジャーナリスト)

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「遺伝子組み換えでない」。豆腐など大豆を原料とする食品の包装を見ると、目立つところにこんな文言が書かれている。消費者は「原料に遺伝子組み換え(GM)作物を使っていない」と思うはずだ。ところが、それが混じっているかもしれない。

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(出所)厚生労働省の資料などを基にウェッジ作成 写真を拡大

これは2001年に始まったGM作物の表示制度に基づく。大豆やトウモロコシなど8作物とそれらを主原料にする豆腐、納豆など33の加工食品が対象だ。現行制度では最大5%のGM原料が混じっていても「組み換えではない」と任意表示できる。

NPOバイテク情報普及会が17年秋に行った調査によると(対象数2000人)、「遺伝子組み換えでない」という表示に74%が「GM作物がまったく含まれていない」と思っており、複数回答で78%が「安全性が高い」というイメージを抱いていた。公的制度が消費者の誤解を招き、商品の安全性強調に使われている。

消費者庁は2013年に食品表示法が成立したことを受け、食品表示制度を見直している。その一環で消費者に誤解をもたらしかねないGM作物の表示問題に取り組んだ。そして有識者による「遺伝子組換え表示制度に関する検討会」が、今年3月に報告書をまとめた。内容は次のようなものだ。

▼GM作物の表示制度の対象は現行のまま。

▼「遺伝子組み換えでない」という表示が許されるのは不検出(ほぼゼロ)の場合に限る。

▼不検出から5%以下の混入には、食品事業者のこれまでの自主的取り組みを尊重しながら「できる限り遺伝子組み換え作物の混入を減らしています」などの分かりやすい表示を行政と関係者で今後考える。

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提言を参考に、内閣府消費者委員会での審議を経て内閣府令である食品表示基準が改正される。ただしこの報告書では、まだ細部が詰められていないところが多い。5%以下混入した場合の表示方法、検査やトレース(追跡)制度の見直しなどだ。また報告書は、GM作物は食品安全委員会の安全性の審査を経たもので安全性が確認されていることを強調し、消費者の不安を取り除くリスクコミュニケーションや、表示制度を周知する取り組みの必要性も指摘した。しかし、そうした啓蒙活動で「政府のできることは限られる。難しい課題だ」(同庁食品表示企画課)という。

広がる遺伝子組み換え作物
分別すると価格は1割超増

GM作物は遺伝子操作で植物の性質を変えるもので、日本では1996年に商品化された。特定の害虫が食べないなどの性質を与えることができ、収穫が増えて農家の作業の手間も減るために、世界で生産が拡大した。米国では大豆、トウモロコシの生産の9割以上がGM作物だ。一部の消費者に、こうした食物による健康被害の懸念はあるが、安全性が認められたものだけ流通している。

EUでは遺伝子組み換えの表示が免除されるのは混入率0・9%未満と、GM作物が商品化されたときに、厳格な分別が必要な制度をつくった。ただし、これには隠れた理由がある。EUは域内で穀物の自給率が高く、米国と農作物の市場開放をめぐり争い続けている。米国企業が開発したGM作物の表示制度を厳格にして非関税障壁にし、EU域内でそれを流通しづらくさせる意図もあったようだ。

日本は中国やメキシコなどと並ぶGM作物の大量輸入国だが、その大半は家畜の飼料や、植物油に使われている。日本は穀物を輸入に頼らざるを得ない。その状況と、消費者の不安に対応し、輸入商社や業界団体の食品産業センターが2001年から、米国、カナダの穀物生産者団体と協力し、非遺伝子組み換え(Non−GM)を選別する流通の仕組みを大豆とトウモロコシで自主的に作った。これが現行のGM作物の表示制度を支えている。

米国、カナダではGM作物が栽培の大半だ。刈り取り機器や運送用コンテナは同じものを使うため清掃しても混じることがある。またトウモロコシは風で受粉するためNon−GMがGMになることもある。消費者庁が16年に米国やカナダで行った調査では、Non−GMを分別流通した場合でも、大豆で0・3%、トウモロコシで4・1%混じっていた。現行制度が5%までの混入に「遺伝子組み換えでない」と表示することを認めたのはこのためだ。

仮に今回の制度変更に合わせて、完全に分別されたNon−GMを日本の食品産業が調達を始めたら、米国の農家はどのように動くのか。アメリカ穀物協会日本代表の浜本哲郎氏は「丁寧な分別をすれば、生産や流通過程で労力がかかる。日本のお客さまが完全に分別したNon−GM作物をほしいと言うなら、米国の生産者はプレミアム(上乗せ価格)をいただければ作るだろう。今は生産余力がある」と説明する。プレミアムは契約ごとにさまざまだが、価格の1~2割になる例があるという。食品表示制度を厳格にするほどコストが増え、結局は消費者の負担が増えるわけだ。

新しい表示制度に向き合う企業の意見はさまざまだ。あるビール会社の製造担当幹部は「GM作物は安全性が確認されている。だったら安いそれを使い、その事実を表示したい」と話した。最近のヒット作「第三のビール」「発泡酒」は、価格の安さを選ぶ消費者の志向から生まれた。しかし、この個人的意見は、なかなか社内で通らないようで、「実態のよく分からない『消費者の意向』に、私たちは振り回されている」と嘆く。

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