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東電には事業継続の体力はありません ――私の原子力日記その5

年が明けました。1月18日は私にとって5回目の原子力委員会新大綱策定会議でした。
会議は、被災地の除染や避難区域の見直し、核燃料サイクル技術等検討小委委員会の今後の進め方、新大綱策定会議の論点整理でした。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/sakutei/siryo/sakutei11/index.htm

以下は私の提出した意見書です。東京電力の料金値上げも、やらせ3兄弟による安全性無視の原発再稼働も、巨大な失敗公共事業=六カ所村の再処理工場の継続も、ゾンビ企業=東電の救済のためであることは明らかです。

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【1】現状の除染事業の問題点
(1) 原子力災害対策本部「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」(2012年12月26日)について、問題のある記述は訂正し、除染事業を地域住民の期待に応えるものにするように求めます。

  1. 「除染特別地域」に関して、従来の放射性同位元素による障害防止法や平成12年度科学技術庁長官告示など、政府が事故前に設定してきた安全基準(妊娠中の女性内部被ばく1ミリ以下、妊娠可能な女性の腹部外部被ばく2ミリ以下など)に準拠し予防原則に徹するべきであります。原子力災害対策本部は、地震後の初動対応に失敗し、SPEEDI データを隠蔽して「さしあたり健康に問題ない」と強弁して被災者の被ばくを増すなどの数々の失敗に責任ある立場でありながら、20ミリシーベルト╱年を「健康リスクは喫煙や飲酒、肥満、野菜不足など他の発ガン要因によるリスクと比較して十分に低いものである」として当面の目標とし、住民に強要しています。このため、福島県からは子どもや若い夫婦の流出が拡大しつつあり地域社会の崩壊の危機が深刻化しています。この20ミリシーベルト╱年なる基準は、根拠のあるものでなく、原子力推進機関が中心になって資金を出して運営しているNPOであるICRPの議論によるものであり、到底国民が容認できるものではありません。しかも放射線障害による発がんは、喫煙などと相乗的に働くことが知られており、「喫煙など他のリスクと比較し」などと言えるものでないことは明白です。チェルノブイリ事故による長期にわたる低線量被曝については、さまざまな調査結果が出てきており、なおも未解明の部分があります。これらの事実をあえて無視するのは、現実的ではないと思います。実際、自ら「事故による被ばくリスクを自発的に選択できる他のリスク要因と単純に比較することは必ずしも適切でないものの」と書いているように、そもそも自分でコントロールできるリスクと放射能のように自分では意識的にコントロールできないリスクを一緒にするような記述は、原発事故に対する政府と東京電力の責任を回避させるような印象を与え、国の機関がこうした不適切な比喩を使うのは非常に問題があります。削除を求めます。
  2. 2年後に10ミリシーベルト╱年,次の段階は5ミリシーベルト╱年を目指すと書いていますが、住民が現実に復帰できるのには何年かかると考えているのでしょうか。その間に、若い世代を中心にして、町を捨てていく傾向が顕著になっています。井戸川双葉町長が言うように、長い期間がかかるのであれば、双葉町民に対して新たな生活が可能になる新しい町を提供するのが、国および東京電力の責任であると考えます。
  3. 「年間20ミリシーベルトは、除染や食品の安全管理の継続的な実施など適切な放射線防護措置を講ずることにより十分リスクを回避出来る水準である」と書かれていますが、この間の杜撰な「除染や食品の安全管理」が破綻しているのは誰の目にも明らかです。福島県が「安全宣言」を出した後に、二本松市、福島市、伊達市などから次々とコメから暫定基準値を超えるセシウムが検出されました。国民の食に対する不安を増幅させ、福島県および隣接する地域の農業に甚大な被害を与えました。急いで現状のサンプル調査を止めてコメの全量検査を行い、基準値を超えるコメは国と東京電力で買い取るべきです。
  4. 「信なくばたたず」といいますが、原子力安全行政全体の危機の大きな原因は、「安全神話」を振りまいてきた経緯から、適切な予防対策を講じず、初動からの一連の事態の失敗に責任ある現在の原子力安全委員会にあります。現在の原子力安全委員会は被災地住民の信頼を全く失っています。政府はただちに清新でベストかつブライテストな専門家委員会を選任し、被災地住民の信頼を取り戻す努力を行うべきです。
  5. 福島県の面積の約7割は森林です。この森林に関する除染の方針がないのは非常に問題です。バイオマス発電を利用した森林除染を考えるなど、早急に方針を出すべきです。

2.2012年施行の放射性物質汚染対処特措法で想定されている「本格除染」は、決して「本格的」とは言えないと考えます。

  1. 現状では、洗浄が中心の除染事業は線量低下の効果が上がりません。線量を細かく測り、放射線が染み込んだ屋根の張り替えや部材の交換、コンクリートや道路舗装の上部を削る必要がありますが、一軒当たり500~600万円近くかかります。
  2. 除染に関して、昨年度の第三次補正予算の2,459億円、2012年度予算の4,513億円、合計6,972億円しか費用が見込まれていません。飯舘村だけで3000億円近くかかるとされています。この予算では制約が大きすぎて、実効性ある除染はできません。
  3. 仮置き場と中間処分場を設ける方式は、当該地の住民の同意を得ることは難しく、住民同士を対立させてしまいます。いたずらに除染を遅らせて住民の健康被害の恐れを放置して、自然減衰を待って費用を「節減」しようとしているとしか思えません。当該地で人工バリア付きの保管場所を作り、住民参加のもとに住民自身が決定する仕組みを作らないと、除染は進まないと考えます。

【2】賠償費用と除染費用は捻出可能か
(1)こうした杜撰な「除染」が行われている問題の根源には,東京電力に、もはや賠償費用・事故処理費用はもちろんのこと、除染費用を負担する体力がなくなっている現実があります。「東京電力に関する経営・財務委員会」の報告書からも、そのことは明らかです。
(2)東京電力は巨額の債務を抱えています。2012年3月末時点でみると、

  1. 3.11以前に発生した短期借入金:4040億円
  2. 震災前の長期借入金:1兆5837億円―1306億円(返済済み)=1兆4531億円
  3. 震災後に実施された緊急融資:1兆9650億円➝合計:3兆4181億円
  4. 2011年7月末段階で、国内社債の未償還残高:4兆4657億円

(3)電力債の償還や銀行借入れの返済や借換えがつぎつぎとやってきますが、深刻な原発事故を引き起こした東電は、電力債の発行や銀行借入れができなくなっており、その他の電力会社も社債の発行ができず、資金繰りが非常に困難になっています。
当面の4年間だけで発生する東電の債務返済額をあげると以下の通りです。

         社債償還額  短期借入金 長期借入金
  2012年3月末  2,000億円  4,000億円* 2,000億円
  2013年3月末 7,500億円     3,500億円
  2014年3月末 5,857億円    4,900億円
  2015年3月末 4,464億円    3,200億円
   累計  19,821億円  4,000億円* 13,600億円

(4)経営・財務委員会が、原発再稼働も料金引き上げもナシの場合に,東電に発生する赤字を以下のように試算しています。安全性が極めて怪しい原発は一種の「不良債権(不良資産)」になっています。当面の債務超過を避けるために、借入れ能力のなくなっている東京電力が、「燃料費上昇」を理由に企業向け(50kW以上の契約企業)電力料金を2.6kW/h引き上げを決めましたが、自らが引き起こした事故費用を利用者に負担を負わせるものです。なお、以下の数字には不動産の含み益3400億円が入っており、また核燃料サイクルの政策変更は予定されていません。

2011年 ▲5,179億円
2012年 ▲10,594億円
2013年 ▲5,899億円
2014年 ▲3,845億円

2011年9月末における東電の自己資本は、連結で9,215億円、単体で6,187億円です。 このままだと、2012年度に10,594億円が減り、東電は債務超過の状況に陥ります。(ここから1兆円の公的資金注入と1兆円の借り入れという話が出てきています)。

(5)当会議の議論にとって大きく問題となるのは、経営・財務委員会の試算には、原子力損害賠償費用が含まれていないことです。一応、現時点での賠償費用をあげると、

  1. 潜在賠償見込額(当初)は45,402億円
  2. その後、12月以降の潜在特別損失:年7,900億円(賠償対象が8万人➝150万人に)
    内訳)賠償地域拡大分   4,300億円
       自主避難賠償額   2,100億円
       精神的被害基準変更分 500億円
       追加福島処理費用  1,000億円
  3. 2.の2年分(追加福島処理費用除く6,900億円×2年)を入れると、潜在賠償見込額は6兆円近くに膨らむと考えられます。
  4. しかし、このうち引当等が行われているのは1年目(第1四半期)の10,248億円のみです。結局、そのうちの1,200億円を原発保険の代わりとして供託で拠出せざるをえないので実際の賠償引当は8,909億円しか積めていません。その後、2011年12月末に6,894億円の追加申請を行いましたが、未だ認可を受けておらず、現状でも約5兆円弱が未引当ということです。

(6)当初、経営・財務委員会は、昨年5月の「東電を債務超過にしない」という閣議決定を前提にしておりました。東電は、まず賠償費用の引当金を計上し、つぎに支援機構に交付金を申請し、当面「未収金」扱いとして、交付金がおりた時点で相殺される仕組みとなっておりました。しかし、国会の附帯決議でこの閣議決定を解消するとした結果、東電は賠償費用の引当金を計上すれば、その分赤字となります。したがって、申請しても、スムーズに交付金が得られず、あるいは先に引き当てても満額もらえる保証がなくなっており、賠償金支払いが進まなくなっています。

(7)しかも、現時点の廃炉費用見込みは1兆2000億円とされています(廃炉費用として十分かどうか疑いが強い)が、原発の廃炉費用は1基あたり600億円が積まれているはずです。しかし、福島第1第2原発10基すべて合わせても6000億円です。福島県知事が要求している全機廃炉にすると、相当額の資金不足が予想されます。

(8)このように賠償費用や事故処理費用も支払いがままならない状況で、これらには含まれていない除染費用を捻出することは不可能に近いと思われます。1兆円の公的資金注入と1兆円の融資を得たとしても、当座しのぎにすぎません。深刻な被害にあっている福島県および隣接地域の住民を救うために、賠償費用や除染費用を捻出できるように東京電力の経営形態の変更や資産売却、原子力予算の組み替え等を緊急に行う必要があります。そうしないと、福島県民が被った被害を放置し、住民の命や健康を著しく脅かす事態は改善されません。

【3】六カ所村の再処理工場のコストについて
(1)日本原燃は2011年以降、有価証券報告書の公表を止めました。電力会社が株式の90%近くを所有しているために公開義務がないとはいえ、3.11福島第1原発事故を契機にして、有価証券報告書の公開を止めるのは由々しき問題を含んでいます。六カ所村の再処理工場は1989年の建設申請から20年以上経過しても操業できず、建設費も申請時の約7600億円から現在では約2兆2000億円にまで膨れあがっています。典型的な失敗公共事業の様相を呈しており、国民負担に深くかかわる重大な問題だと思われます。

  1.  この建設費の膨張にともなって、日本政策投資銀行や市中銀行などから1兆252億円の借り入れを行っており、ほぼ全てについて電力会社が債務保証をつけています(最大の債務保証は東京電力で2810.5億円)。
  2. さらに1997~2005年まで、日本原燃は電力各社から再処理料金の一部を前受金として1兆1000億円を受け取っており、それをアクティブ試験などに使用しています。

このまま六カ所村の再処理工場が動かなければ傷が深くなるばかりです。これらは電力料金に上乗せされる再処理料金に含まれていない「持ち出し分」だと考えられます。これらはバックエンド費用にカウントされているのでしょうか。

(2)2003年11月11日の総合資源エネルギー調査会電気事業分科会小委員会で,電気事業連合会が出したバックエンド事業の総費用は18.8兆円とされています。これが経産省の試算のもとになっていると考えられます。しかし、2004年10月22日の原子力委員会の新計画策定会議での試算では、全量再処理した場合は42.9兆円、直接処分は30~38.6兆円と試算しています。この大きな違いはどういう理由なのでしょうか。もし後者が真実であるとすれば、大幅な引当金不足が生じていることになります。

(3) 大島堅一氏の「原子力政策大綱見直しの必要性について――費用論からの問題提起――」(2010年9月7日 第48回原子力委員会資料第1-1号)によれば、バックエンド費用推計にあたって、①再処理工場の稼働率を100%と想定しているが、アレバ社の実績は56%(2007年)である、②高レベル放射性廃棄物の管理費用はガラス固化体1本当たり3530万6千円としているが、実績値は1億2300万円である、などの問題点をすでに指摘しています。今回の計算ではどう活かされたのでしょうか。

(4)仮に、バックエンド費用をもとの18.8兆円と考えたとしても引当金不足が生じていると考えられます。電力各社の有価証券報告書から、「使用済み核燃料再処理引当金」を抜き出し合計すると、2005年までに15年間に3兆1359億円を積み立てています(引当必要額は7.5兆円)。2005年の新制度では(旧引当金は再処理費用の60%を引き当てるルールだった)、新たに将来発電分2.4兆円、既発電分2.7兆円が引当対象となり(上記と合わせると、合計12.6兆円の引当が必要となります)、2011年3月末では「再処理等引当金」は3兆1098億円、「積立金」は再処理分が2兆4415.9億円になっています。高レベル放射性廃棄物の処分費用として「最終処分積立金」を8,200億円(必要金額は3.6兆円)積み立てています。一見すると順調に積み上がっているように見えますが、いくつかの問題が生じています。

  1. 引当金は、使用済み核燃料が発生するとともに生ずる部分があるので、原発の稼働率が低下すれば、自動的に収入が低下していきます。実際、2007年3月末には4325.3億円あった「使用済燃料再処理等費」は、2011年3月末には2574.3億円になっています。つまり原発稼働率が落ちれば、六カ所村の再処理工場は経営的に成り立たなくなり、引当金不足が発生する構造となっています(仮に再処理施設が稼働して電気料金で徴収可能になったとしても、使わない再処理燃料が積み上がっていくことになります)。とくに問題なのは、日本原燃の取引先のうち東京電力が37%、関西電力が20%、九州電力が10%(合計で77%)を占めている点です。福島第1第2原発を全て廃炉、さらに老朽原発や危険な原発を廃炉にしていけば、日本原燃の収入が減少して引当金不足に陥り、六カ所村の核燃料サイクル政策は成り立たなくなるからです。事業の見直しが不可欠です。
  2. 上記12.6兆円の積立金の他に、MOX燃料加工費用3.7兆円がかかりますが、電力料金に含まれないことになっています。いまの電力会社の体力でこれらの費用が賄えるとは思われません。この分も将来、電力料金に上乗せせざるをえないのではないかと推測できます。国民負担を考えると、重大な問題です。

(5)深刻なのは、日本原燃と東京電力がもたれあいの関係にありながら、両者とも手元のキャッシュフローが決定的に不足している点です。
 日本原燃の手元現金はわずか452億円、有価証券(譲渡性預金等)の4003億円を合わせても4455億円しかありません。他方で、東京電力は原燃への出資が1716億円、債務保証が2810億円、前受金は2854億円と計7381億円もの資金を原燃に提供しています。どちらが経営破綻しても、連鎖する可能性があると言えます。

(6)以上を勘案すると、六カ所村の再処理工場は一種の「不良債権(不良資産」)であると言えます。できるかぎり早い段階で、資金管理センターの積立金を使ってでも事業の再編整理を行わないと,取り返しのつかない事態になる危険性があると考えます。
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