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GC注記とコーポレート・ガバナンス

WSJニュースによりますと、東京電力は20日、2011年3月期通期決算を発表し、純損失は1兆2473億円と、金融機関を除く日本企業では史上最大の赤字、とのことであります(60年ぶりの無配 ニュースはこちら)。福島第1原発事故による巨額の費用が響き、今後賠償責任が総額何兆円にも達するとみられるため、東電は財務の「大幅な悪化」によって、「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる状況にある」とのこと。つまり決算短信にGC注記が付されたことになります。

東電の場合は特殊な事情があるとはいえ、上場企業にとってGC(継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる状況にあること)の注記を付すことは非常に重いです。決算短信、計算書類の開示(招集通知の発送)、有報開示等、法定監査の差はありますが、いずれの場面でもGC注記の重みは同様であります。なぜならGC注記は会社だけのものではなく、会社と監査人との共同作業による成果物だからであります。

成果物といいますのは、①GCはいきなり付記されるものではなく、注記の必要性について1年ないし2年前からそれとなく監査人との交渉が始まる、②解消のための条件を含め、様々な葛藤が会社と監査人との間で生まれる、③将来事象等、楽観的なムードを漂わそうとする会社側に対して、不確実性を理由にこれを拒む監査人の対応、④注記の理由をぼやかしたい企業側に対して、財務制限条項違反等の正確な理由の記載を求める監査人の対応等、最後まで注記を記載するか否か、また記載するとしても、何を理由として記載すべきか、というところで会社と監査人双方の決着をつけたうえでの公表物だからであります。少し前に、GC注記に関する監査人の判断基準が国際ルールに合致するよう改訂されたそうでありますが、「不確実性」に関する監査基準としては、それほど大きく変わっていないように感じております(財務体質がある程度健全な企業への延命効果はあったとしても、業績が悪化し続けるならば、どこかでかならずGC注記が課題となってくるわけでして)。

新興企業でも、伝統ある企業でも、経営環境が悪くなり業績が悪化した場合には、どうしてもGC注記問題に直面することは避けられないわけでありますが、社内でGC注記を真剣に検討しなければならない時期こそ、ガバナンスの重要性が問われるものと思います。会社の役員の立場からすれば、中期経営計画の実行可能性や金融機関の融資実行の姿勢を含め、将来予測はかならず悪い方向には考えないものであり、自分にとって都合の悪いことは過小評価しかしません。投資家や株主保護の視点よりも、会社の将来リスクを楽観的に考えるのが当然ではないかと。

またいったん、GC注記が付いた場合、その解消によって株価が大幅に上昇する事例をたくさん見ておりますので、企業経営者としては早くGCを解消したいと考えることは当然のところであります。そこでは粉飾への誘惑が強く働き、不都合な事実は(一時的にせよ)全社挙げて隠ぺいすることに躍起となります。恐ろしいのは、組織的に悪意をもって粉飾や事実隠ぺいに手を染めるのではなく、経営陣の楽観的な将来見込みのシナリオと、これに異を唱えることができないモニタリング部門の勇気欠如に起因するものではないかと。

こういったときにこそ、監査役や社外取締役、独立役員はステークホルダーのために冷静に第三者的な観点からGC注記の必要性、その理由の正確性について検討し、経営陣はこれに冷静に耳を傾けるだけの度量があるか等、その企業のガバナンスが問われるものと思います。独立役員や監査役にとっては、監査人の意見に誤解があると思えば、経営陣の意見をわかりやすく代弁すること、監査人の意見を正当と判断すれば、勇気をもってこれを経営陣に伝え、投資家や株主の投資判断に資する形での情報開示に努めるよう促すことが必要であります。

冒頭の原発事故における東電さんの初期対応の公表姿勢が問題となっておりますが、私は「事実を隠ぺいしていた」のではなく、「公表しなければならないほど大きな事態にはならないだろう」といった楽観的な見込みが社内に蔓延していたことが問題だったのではないか、と推測いたします。これは危機に直面した企業であれば、どこも同様のリスクがあると思います。人間誰しも、目の前の現実から逃避したいわけでありますが、「不都合な真実」を事実と受け止め、これを前提に説明責任を果たすこと、これは良質なコーポレート・ガバナンスの試金石ではないか、と最近特に感じております。

PS 朝鮮日報ニュースによりますと、日本よりも一足早くIFRSを適用した韓国で、上場企業の決算開示に相当の混乱がみられるようであります。GC注記にみられるような課題が、今後は日本の多くの上場企業でも問題となってくるのではないでしょうか。

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