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セクハラ被害は雑誌に訴えるしかない現実

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日本で告発することの代償

私もかつて週刊新潮を通じて性被害を告発しました。

話は昨年の春に戻ります。当時私はコロンビアで現地のゲリラを取材していました。2015年の事件後、被害届を出したら「日本のメディアでは働けなくなる」と警察から言われる中、捜査が始まりましたが、DNA、防犯カメラ、タクシー運転手などの証言があったものの、証拠不十分で不起訴をという結果になりました。レイプ被害後、精神的ショックから仕事ができない時期がありましたが、必死にフリーランスとして海外メディアとの仕事を増やし、やっと軌道にのせたところでした。

そんな中、週刊新潮から、私が受けた性被害を記事化できないかと相談されました。それまでも、性犯罪に対する法的、社会的システムを変えなければいけないと強く感じ、日本の信頼できるジャーナリストや大手のメディアに話し、何度か取材も受けていました。ただ、一向に記事は公にはされませんでした。日本の性被害に対する報道が及び腰なのは、テレビ朝日だけではないのです。

週刊誌での「記事化」は最初は不安だった

正直、当時の私は週刊誌にいいイメージを抱いてはいませんでした。それに私が被害を訴えている相手が安倍晋三総理に関連する本を2冊も出版している、“大物”であったことを考えると、週刊誌がどのような意図で記事にしようとしているのかわからず、最初は不安でした。

また記事を出して、何かあったらどう家族や周囲を守れるかなど、葛藤はありました。日本に帰国してすぐに記者に会い、最終的には、週刊新潮編集部に対して「性被害に関する日本の法的・社会的システムを変えなければいけないから取材受ける」という意図を明確にしたうえで、全てを語りました。

しかし記事が乗った週刊新潮が発売されると、私の生活は一変しました。自宅付近で不審な動きがあり帰宅すらできなくなり、友人の家に3カ月近く「隠れる」ことになりました。同時に起こったのはオンラインバイオレンスでした。SNSやメールなどで中傷や、「死ね」などといった脅迫を受けました。プライベートや家族について、事実ではないこともウェブに広がりました。恐怖で外出すらできなくなっていたそんな時ロンドンの女性人権団体から連絡をいただき、そのことがきっかけで、イギリスへ移り住むことになりました。これが私の告発の結果です。

本当は、日本は一時帰国するだけの予定で、すぐコロンビアで取材を続けるつもりでした。あれから1年。今年4月、私はコロンビアのジャングルへ取材に行きました。昨年告発後に止まってしまった取材をやっと再開することができたのです。時間はかかったものの同じ場所で仕事が再開できたことの喜びは大きく、少しずつではありますが、前進できていると実感しています。

テレビ朝日の女性記者もその後の仕事、生活がどうなるのかなど、いろいろな不安に襲われる中、告発に踏み切ったのだと思います。それでも、今回、彼女が声をあげたのは「これ以上同じ思いをする人が出てほしくない」と、彼女が考えたからではないでしょうか。

「嫌よ嫌よも好きなうち」は古すぎる

これまで、どれほどの人が、セクハラやハラスメントの苦痛に耐えながら、仕事を続けてきたのだろう。言葉にはできないようなつらい経験した女性もいたと思います。会社内でセクハラが起きたら、被害者の担当を変えて加害者からの距離を離し、そのあとは何事もなかったかのようにした。そんなこともあったことでしょう。明確な「NO」を突きつけない限り、このようなセクハラがなくなることはありません。

世界各地で起きた#MeTooの動き。今まで聞きいれられなかった声、上げることすらできなかった声、そしてこれまであげられた声、その全ての声が大きくエコーしています。今まで被害者を一方的に沈黙させてきた芸能、政治、スポーツありとあらゆる業界にいる人たちに「NO」が突きつけられています。

スウェーデンでは#MeTooやアンチハラスメントの動きを受け、法律が強化されます。今年7月より施行されるこの新しい法律では、性的行為に及ぶ場合は、明確な合意(口頭、または行動)がなければ犯罪になります。今までは被害者が抵抗したか「NO」と示したかが話し合われましたが、これからは「YES」と示したかが焦点になるのです。日本でも合意についての認識をしっかりと学ぶ教育が必要でしょう。「嫌よ嫌よも好きのうち」という思考はあまりにも時代遅れです。

「犯罪被害者に『社会はあなたの味方』と表したい」

この法改正について、スウェーデンのステファン・ロベーン首相は「被害の申し出をしやすくすることを促し、犯罪被害者に対し『社会はあなたの味方』であることを表したい」と伝えています。日本の社会は「あなたの味方」だとセクハラ、性暴力被害者に寄り添えているでしょうか?

声がやっと届いたいまだからこそ、これからはその声をしっかり聞き入れる必要があります。その声がいつあなたのものになるか、あなたの大切な人のものになるか、わからないのです。

声をあげてくださったテレビ朝日の女性記者へ改めて敬意を示したいと思います。そして彼女の声とともに動いた人々の声をしっかり受け止め、私たちも世界とともに大きく前進する必要があるはずです。

伊藤 詩織(いとう・しおり)
ジャーナリスト
1989年生まれ。フリーランスとして、エコノミスト、アルジャジーラ、ロイターなど、主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを発信している。国際的メディアコンクール「New York Festivals 2018」では、Social Issue部門とSports Documentary部門の2部門で銀賞を受賞。著者『Black Box』(文藝春秋社)が第7回自由報道協会賞大賞を受賞した。

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