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テレビはもはや"ネット文化の一部"である

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社会で起きている事象の多くが、ネット上で最初に可視化されるという時代に突入した。このためテレビでは、独自のコンテンツをつくらず、ネット上の「ネタ」を集めた番組が増えている。慶應義塾大学政策・メディア研究科特別招聘教授の夏野剛氏は「テレビはすでに、壮大なネット文化の中の一部として取り込まれてしまったのかもしれない」という。今後、テレビはどうなるのか――。

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テレビは今や、社会の隅々まで浸透したネット文化の一部だ(写真はイメージです。写真=iStock.com/Manuel-F-O)

※本稿は、夏野剛『誰がテレビを殺すのか』(角川新書)の一部を編集部で再編集したものです。

ネット情報がテレビの先を行く時代

ネットが人々の生活の隅々にまで浸透した結果、社会の動きとネット上で騒がれていることが完全に一致する状況がかなり一般化してきています。社会で起きている事象の多くが、ネット上で最初に可視化されるという時代に突入したのです。

例えば、流行や最新ファッションの伝播(でんぱ)は、インスタグラムなどの会員制交流サイト(SNS)から生まれ、それによって世界的なトレンドになったりします。また、おいしいレストランに行きたいときも、ネットを見れば実際に行ったことのある人の報告が投稿されているので、リアルな行動に基づいた情報を仕入れることが可能です。

ネットが誕生する前までは、こうした情報はテレビ局があちこちを歩き回りながら一生懸命探っていました。その情報を番組の中で紹介し、世の中の多くの人たちが知るというサイクルだったのです。ところが今や、個人によってネット上で明かされる情報が先を行き、テレビは完全に後追いをしています。

玉石混交とはいえ、ネット上の情報が豊富になってくると、テレビの制作側はネット上で懸命にネタ探しを始めます。ただし、ネットからネタを集める際には注意を払わなくてはいけません。制作側がネット素材を集めて安易な方法で番組を作ったりすると、ネタ元がすぐにバレてネガティブフィードバックが起こり、「炎上」を誘発することがあるからです。

一方で、ネット発のネタからポジティブフィードバックが起きることもあります。例えば、スーザン・ボイルやポール・ポッツのように、これまではチャンスに恵まれずに世間に埋もれていた才能が発掘され、メジャーデビューを果たして世界的な人気歌手になるケースも生まれるのです。

テレビとネットはとかく反目し合うライバルのように言われることが多いのですが、実は共依存の関係になっている部分も多々あります。踏み込んだ発言をすると、テレビはすでに、壮大なネット文化の中の一部として取り込まれてしまったのかもしれません。

50代までの人たちは、こうした感覚に触れながらテレビとネットの両方を見ているので「テレビはもはやネット文化の一部」という考え方もすんなり理解できます。しかし、テレビのメイン視聴者である60代以上の人たちの大半はそうした感覚を持ち合わせていないため、テレビ制作者側は視聴者がネット利用者であることを前提としたコンテンツづくりを実行することができません。

討論番組を例にしてみましょう。ネットを日常的に利用している視聴者であれば、討論テーマに関連する統計データや調査結果などはネットで事前に調べられます。視聴者が事前にネットで情報を入手しているという前提で番組を作ることができれば、討論番組をより深く、濃い内容のものにできるはずです。ところが、ネット上で得られる情報とは切り離されている視聴者に向けて番組を作らなくてはならないため、討論は常に初歩段階からスタートさせなくてはならず、深い議論にまで展開させることはできません。

ネットを使わない60代、70代の人たちは、平均寿命からするとあと20年くらいは健在だと思われます。したがって、テレビはこれからも彼らを意識したコンテンツづくりを続けなくてはならないでしょう。

「敵対」から「共存」への移行

ネットの存在が大きくなるにつれて、ネットの広告費が右肩上がりに増え続け、テレビの広告費が著しく減少するという傾向がしばらく続いてきました。ところが今、テレビの広告費は年間1兆7000億円ほどで下げ止まり、均衡状態を保っています。

ネットの広告費に関して言うと、現在1兆円超の規模にまで膨れ上がり、すでにテレビの広告費に次ぐ規模になっていますが、それよりもテレビの広告費の減少に歯止めがかかった点に注目すべきです。苦境に立たされていたテレビ業界ですが、ここに来てようやく一息つける安定的なポジションを確保できたのかもしれません。

今から10年ほど前、テレビ関係者はネットに対してものすごい警戒感を抱いていました。特にYouTubeやニコニコ動画に向ける敵対心は強く、テレビで放送された番組がアップされるのを必死で阻止したり、訴訟を起こすなど、過敏な姿勢を見せていたのです。ところが今や、そうした態度はすっかり消えうせてしまいました。それどころか、むしろ積極的にネットを利用して番組を作るようになっているのです。この共存関係はここ10年でより明確になっています。

私が、ニコニコ動画を運営するドワンゴの取締役に就任したのは2008年です。就任後に私が始めたのは、在京キー局に向けてニコニコチャンネル上に公式チャンネルを作ってくれるようにお願いすることでした。すると、まずはフジテレビとNHKがチャンネルを作ってくれ、他のキー局もあとに続いてくれました。潮目が変わったのは、ちょうどこのころだったのかもしれません。それ以降、ネットとテレビの共存関係は続いています。

テレビ側がさらに生き残りをかけるのであれば、今以上に踏み込んだ決断をし、お互いにウィンウィンとなる関係をネット側と築く努力をする必要があります。その動きの一つはテレビ朝日が踏み切ったAbemaTVでしょう。テレビと同じようなクオリティとコストをかけたネット、あえて言えばスマホ専用テレビ。それをキー局であるテレビ朝日がネット企業であるサイバーエージェントと率先して作っていく、という構図は放送業界を震撼(しんかん)させました。

制作予算でテレビ局を凌駕する新興勢力

ネットの勢いがこれほどおさまらない理由の一つは、ネットフリックスのような新しいメディアが登場しているからです。この新メディアの強みは、ネット的でもなく、テレビ的でもないところと言っていいでしょう。「ネット的でもなく、テレビ的でもない」と表現したのは、彼らが作っているコンテンツはテレビ(もしくは映画)そのものなのに、それらをネット上で流しているためです。

放送と通信の融合は、本来であればテレビ局が進んで模索すべき道です。ところが、一向にそうした動きは見られずに、気が付いたらネットフリックスのような存在が突如現れ、テレビ局のようにドラマやドキュメンタリーを作り始めるようになっています。ネットフリックスについて言うと、彼らがコンテンツに費やせる予算はすでにテレビの規模を超越しており、今後もいいコンテンツを作り続けていくことでしょう。そうなると、テレビの存在はますますシュリンクしていきます。

この流れが世界的な潮流ともなっているので、逆らうのはかなり難しいでしょう。長期的には、やはりテレビ局はなくなる運命にあると私は考えています。

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