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日大の学長と監督は、だれに謝罪したのか

日大アメフト部の危険タックル問題で、日大の大塚吉兵衛学長が一連の対応について謝罪した。この問題では内田正人前監督も記者会見で謝罪している。しかし内田前監督は危険タックルについて「私からの指示ではない」と述べ、選手の証言とは食い違ったままだ。彼らの謝罪は、いったいどこに向けられたものだったのだろうか――。

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2018年5月25日、アメリカンフットボールの悪質タックル問題の記者会見で、頭を下げる日本大学の大塚吉兵衛学長。(写真=時事通信フォト)

■共同正犯で監督が起訴されても不思議ではない

アメリカンフットボールの日本大学と関西学院大学の定期戦で、日大の選手が関学大のクオーターバック(QB)に危険なタックルをしてけがを負わせた。

日大の「ナンバー2」といわれる監督やその下のコーチは、「つぶせ」という言葉で選手を追い込んだ。アメフトの世界では「選手をつぶせ」との表現を使って叱咤激励することはよく行われるという。

だが反則行為をした日大選手は「つぶせ」という言葉を「相手選手にけがを負わせて立ち上がれないようにすること」と理解した。これまで試合に出してもらえないなどのパワハラ行為を受け、精神的に追い詰められた末の反則だった。

彼はここで監督の指示に従わないと自分の存在が否定されると思った。どうしようもなくなり、相手のクオーターバックに後ろからタックルしたのだ。

これは傷害事件である。けがを負わせた事実はなくならない。しかしそれ以上に選手を追い込んだ監督やコーチ、日大には大きな責任がある。共同正犯として監督が起訴されても不思議ではない。

■「選手を追い詰めた責任は重い」

今回も各紙の社説を比較しながら、この問題を考えたい。

5月23日付読売新聞の社説は「選手を追い詰めた責任は重い」との見出しを付け、冒頭から「選手は、危険な反則タックルをするしかない、と思い詰め、突進した。そこまで追い込んだ監督とコーチに、指導者としての資格はない」と述べ、続いて日大の監督とコーチの弁明を書く。

「内田正人前監督は『私からの指示ではない』と、自らの指示について否定した」

「井上奨コーチは、関西学院大の選手を『潰してこい』と言った点は認めたが、『闘志を出してやれという思いだった』と釈明した。相手選手を負傷させろ、との意味ではなかったとも強調した」

危険なタックルをした日大選手は記者会見で、監督とコーチの指示があった、とはっきり述べている。それに比べ、内田前監督と井上コーチの表情はさえなかった。

■選手と指導者の見解が真っ向から対立する異常事態

読売社説は「危険なタックルをした宮川泰介選手は前日の記者会見で、前監督とコーチの指示があったことを認めている。大学アメフト界の名門で、信頼関係で結ばれるべき選手と指導者の見解が真っ向から対立しているのは、残念な事態だ」と指摘する。

さらに「今月になって、宮川選手は、日本代表を辞退するよう内田前監督から言い渡されたという。実戦練習からも外されていた」と書き、「20歳の若者が精神的に追い詰められたのは、想像に難くない。コーチから、『潰せ』と言われれば、『けがをさせろ』と捉えるのも、無理はない。関学大との試合当日には、『ここでやらなければ、後がない』とまで思った」と日大側を批判し、選手に軍配を上げる。

■事態を甘く見て不誠実、非常識な対応をくり返す

朝日新聞の社説(5月25日付)も日大の責任を追及する。  

「最大の責任は、事態を甘く見て不誠実、非常識な対応をくり返してきた日大にある」

「1日遅れて会見した前監督とコーチは、けがをさせることを目的とした指示はしておらず、誤解した選手に問題があるとの説明に終始した」

こう指摘したうえで朝日社説は「(日大選手と日大の)二つの会見を通じてはっきりしたこともある。日大アメフト部がとってきた、いかにも時代遅れで閉鎖的な指導法だ」と書く。

「選手と監督が話をすることはめったになく、指示はコーチが伝える。問題の選手は突然、日本代表チームへの参加を辞退するよう命じられたが、理由は説明されない。選手の発奮を促すためと称して、練習に参加することも許さず、追い込む」

「こうした一方通行の手法がまかり通っているとは驚きだ」

年齢がばれてしまうが、まるで子供のころに週刊少年マガジンで夢中になって読んだ『巨人の星』のような世界だ。いまだにそうした指導が行われているとは信じられない。

■大学の資金稼ぎのために体育会の指導が過激化

最後に朝日社説は「『もう大人なのだから自分で善悪を判断すべきだった』と選手に苦言を呈する声もある。だが学生にとって指導者の存在は極めて大きく、だからこそ、その責任は重い。これからの学生スポーツのあり方を考えるうえでも、背景までしっかり掘りさげた調査を求める」と主張する。

大学の体育会は、監督やコーチに対する服従の精神を厳しく要求することが多いようだ。それは試合に勝って大学の名を上げ、入学者を増やして経営を充実させたいからだろう。

しかし体育会といえども教育の一環であるはずだ。体育会は大学のためにあるのではなく、学生のために存在する。それがいつの間にか大学の存続のため、大学の資金稼ぎの目的で体育会が存在するようになってしまった。だから日大アメフト部のような不祥事が起きるのである。

少子高齢化社会が進み、大学の入学者が減るなか、大学教育のあり方そのものが問われている。体育会もこれまでのやり方を反省し、新しく変わっていく必要がある。

■80億円を超す「税金」が日大に投じられている

「醜悪な事態である。日本最大規模の有力大学が、教育サービスの受け手、つまり顧客で将来ある若者に、組織防衛のため責任転嫁しているようにみえるからだ」

こう日大側の対応を批判するのは、日本経済新聞の社説(5月24日付)だ。

日経社説はその終盤で「内田前監督が大学経営の中枢である常務理事の要職にあることと無関係であるまい。日大は年80億円を超す私学助成を受けている。理事の不祥事や法令違反が確認された場合、補助金が不交付、または減額される」と指摘し、次のように訴える。

「これを回避するため、前監督の反則行為への指示などを否定しているのだとすれば、理事会の責任は重大だ。文部科学省は、適切な指導をする必要がある」

やはり大学経営の問題が横たわっている。日経らしい指摘だ。それにしても「年80億円」とは大した額である。この私学助成はすべてが私たち国民の税金なのだ。

こう考えていくと、「日大だけの問題だ」などと対岸の火事にはできないのである。

■20歳の大学3年生とは思えないほど立派な会見

ところで、駆け出しの新聞記者時代、先輩記者からたたき込まれたことがある。

感動し、次に疑う。これが記者の基本だ、と。

この基本にのっとって冷静に考察してみたい。相手選手にけがを負わせた日大選手の記者会見には心を打たれ、感動した。産経新聞は他紙に先駆け、記者会見翌日の5月23日付紙面の社説でテーマに取り上げ、こう表現している。

「これほど悲痛な会見を見たことがない。『顔を出さない謝罪はない』と自ら語ってカメラの放列の前に立ち、深々と頭を下げた。質問者の目を真っすぐに見ながら、必死に言葉を選び続けた」

たしかに20歳の大学3年生とは思えないほど、立派な会見だった。産経社説が書いているように、彼の言葉には説得力があった。

世論は彼をここまで追い込んだ日大アメフト部に大きな怒りを覚えた。みごとなまでに世論を味方に付けた記者会見だった。世論だけではない。新聞各紙の社説も彼の強い味方になっている。

■彼をリードした人物は世論を熟知している

ただし、あの記者会見は成功しすぎた、という感想も持った。

タイミングは日大の先手を打つもので、絶好だった。記者会見の場所は、東京・内幸町の日本記者クラブだ。あの会見場は10階にあり、かなり広い。このため衆院選の前には、各党の党首が新聞社やテレビ局の編集委員などに向けた記者会見を開く場所でもある。格式があるだけでなく、多数の報道陣が詰めかけても混乱しにくい。

記者会見が成功したのは、第一に日大選手のアメフトに対する熱意であることは間違いない。だが、それだけではない。彼をうまくリードした人物がいるのだろう。その人物は世論というものを熟知している。大した人物である。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)

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