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人口が減少を続けていく中で、自治体単位での行政区分の維持はこれからの時代に適合しない - 「賢人論。」第61回木下斉氏(中編)


海外で地方再生の成功事例を調査し、「まちづくりは行政に頼るのではなく、民間主導で経営的な観点を取り入れて行わねばならない」という問題意識を持ったという木下氏。大学卒業後、一橋大学の大学院で経営学を学び、その後、全国の事業型まちづくり会社が加盟する一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立。代表理事として、全国のまちの再生に取り組んでいる。そんな木下氏に、人口減少、少子高齢化といった時代の変化に対応できる地方のあり方を聞いてみた。

取材・文/ボブ内藤 撮影/公家勇人

今後、自治体の合併や事業統合はますます進む

みんなの介護 2014年に元総務大臣で日本創成会議座長をつとめる増田寛也氏が「このままでは896の自治体が消滅しかねない」とするレポートを発表して、世間に衝撃を与えました。これについて、木下さんはどう考えていますか?

木下 「地方消滅」とか「消滅可能性都市」という言葉が一人歩きして騒がれ過ぎた観がありますが、これは誤解を招く言い方ですよね。正確には「人口が減少していく中で、現在の自治体単位での行政区分が維持できなくなっている」と言い換えるべきです。

ならば、都道府県や市町村といった自治体区分を、これからの時代に合う形に変えていけば良い。

みんなの介護 具体的に、どう変えれば良いのですか?

木下 一例を挙げると、岩手県の北上市、花巻市、紫波町の3つの地域は、老朽化した水道管を補修しなければならないタイミングで岩手中部水道企業団という地方公営企業を設立して、合同で水道事業を行っています。

実は、地方の水道は人口減少という要因だけでなく、節水トイレの普及などが進んだことなどもあって水が余っていたりするんだけど、市町村ごとに権利水量の取り決めがあって効率化が進められなかった。そこで、各地域の水道事業を統合したことで効率よく浄水場をまわしていけるようになったのです。

こうした広域水道企業団の取り組みは、神奈川県や千葉県、大阪府など他の地域でも行われています。

みんなの介護 業務統合だけでなく、自治体そのものが合併するという選択肢もあるわけですよね?

木下 もちろんです。2005年前後をピークに行われた「平成の大合併」では、全国の市町村が3,300から1,700に半減しました。

このとき、合併特例債といって、合併にともなう新庁舎や道路などの建設費の7割を国が地方交付税として負担する制度があって、例の「使えるものは使っちゃおう」という論理でずいぶん無駄なお金が使われてしまったのは問題でしたが。

ただし、国費も無尽蔵ではありませんので、今後はそんなにお金を使わない形での合併が進められていくと思います。

みんなの介護 しかし、地域同士でいがみ合っているところがあったりすると、合併を進めるのは難しくありませんか?

木下 そういういがみ合いは、他の自治体から自分の自治体へ人口を移そうとする競争原理から生まれるんです。つまり、人口を「増やそう」という発想に縛られているわけです。

だけど、人口が減っていくのは避けられない流れなんだから、人口が「減る」ことを前提にしてしまえば、いがみ合う必要なんてありませんよね。

20万人の人口が5万人になったならば、20万人時代の自治体単位のまま行政サービスやインフラ量を維持するのではなく、5万人時代の機能的かつ効率的な行政単位に移行していけば良いというだけの話です。


日本の未来は決して悲観的ではない

みんなの介護 ところで、地方再生を実現できる地域と、できない地域の違いは何でしょう?

木下 市町村の首長の存在は大きいですね。

政治の世界の論理では、自治体が合併したり事業を統合したりすれば、議会の議席やポストが減って既得権益が侵される。そこで、組織のコンパクト化に反対するという動きが出てきます。

だけど、選挙に強い首長がいれば、そうした抵抗をはねのける力がある。改革には時間がかかりますので、1期(4年)でできることは限られています。できれば3期から4期くらい、10年オーバーの期間で選挙に勝ち続け、改革を押し進めていくだけの気力と体力のある首長の存在が必要になってくるでしょう。

みんなの介護 選挙のたびに首長が変わったり、圧力団体の顔色をうかがっているような首長がトップをつとめるような地域では、改革が進まないわけですね。

木下 残念ながら、そういうことになりますね。

それからもうひとつの重要な要素は、首長以外にも本気で改革に取り組もうとする人材が行政側だけでなく、民間レベルでどれくらいいるのかということ。

私たち、エリア・イノベーション・アライアンスでは、各地の地方再生の成功事例を「エリア・イノベーション・レビュー」という文書にまとめて有料ウェブマガジンとして配信しています。そこに書かれているのは、「こういうことをすれば成功する」という答えではなくて、他の地域の成功事例を自分たちの地域にどう応用するかを議論するための材料なんです。

みんなの介護 どんな地域にも当てはまる「成功セオリー」のようなものは、存在しないわけですね?

木下 地域の環境やそこに住む人たちはそれぞれ違うわけですから、当然のことですよね。

答えありきで他の地域で成功した事業をスライドさせるという発想は、「こういう事業をやるから補助金をください」という思考から生まれるんだと思います。ついた予算を使い果たしても成果が出ず、また別の地域の成功事例に手をつけてそこでも失敗するという負のループにはまってしまいます。

みんなの介護 最初から国の補助金をあてにするのではなく、自分たちの力で稼いでいこうとする本気のメンバーの存在がいかに大事か、よくわかりました。ところで、そのようなメンバーは何人くらいいると改革がうまく進みますか?

木下 これは人数ではなくて取り組みの問題で、最初はキーマンとなる人が1人とか、2~3人しかいなかったのに成功した例もたくさんあります。

最初はお金がありませんから、IT技術などを最大限に活かして、ギリギリのところまで少人数でまわせるようなシステムを作れば良いのです。

「金がなければ知恵を出せ」というのは、僕が早稲田商店会のまちづくり活動をしていた頃に会長さんから教わったことで、その考えは今でも役立っています。

みんなの介護 木下さんには日本社会の未来はどのように見えていますか?

木下 僕はそんなに悲観する必要はないと思っています。急激といっても10年間で半分になるような早さで減っているわけではないので、手を打てる余地はまだまだあります。

とにかく、地元の人が自分たちで稼いで、一定の都市経済圏を成立させ、その中でインフラ整備や行政サービスをまわしていく新たな自治体経営を目指すことが重要です。

ここで言う、インフラや行政サービスの量を増やしていかなければならないとしたら、大変なことですが、効率化や集中化で減らしていけば良いのですから、それほど難しいことではありません。

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