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【赤木智弘の眼光紙背】罪は罪なのか?

赤木智弘の眼光紙背:第208回

 昨年の11月、JR大井町駅前の歩道で、信号を無視して横断歩道を渡った男性を注意した人が、男性に殴り殺されるという事件があったという。(*1)


 昨年のニュースで申し訳ない。どうしてもこのニュースが頭の片隅に残ったままで、なかなか消えてくれなかったので、今回はこれを取り上げさせてもらう。

 何が一番ひっかかっているのかといえば、「被害者はなぜ、信号無視をした人を注意するというようなことをしたのだろう」ということである。

 信号無視は、ある意味「どこにでもある風景」である。私自身が信号無視をすることもあれば、私が信号を守っているときに他の人が信号を無視することもある。しかし、私がするにせよ、他人がするにせよ、それを注意する人はなかなかいない。

 こう言うと、注意した被害者に対して「気骨のある人だ」と評価しているかのように思えるかもしれないが、私の評価はそうではない。余計なお世話やおせっかいという以上に、こういう正義感を持ち合わせた人を、正直、私は嫌っていると言っていいだろう。

 夕方のニュース番組でときおり、街角で常習化している交通違反、例えば、コンビニの駐車場などを利用して信号待ちをパスするなどの危険な運転を取り上げることがあるが、現場のインタビュアーが「それは交通違反ですよ、分かってますか!」みたいに問い詰め、それを車が振り切って行ってしまうシーンなどを見ると、車に対してではなく、インタビュアーに対して憤りを感じてしまうのである。

 私はこのニュースを見て、どうして私は「悪いことをした人」にではなく、「悪い人に注意する人」に対してムカついてしまうのか? という問題をずっと頭の片隅で考え続けているのである。


 考え続けた結果、私が嫌悪しているのは「罪を犯したからといって、それを一方的に糾弾することの暴力性」なのであろうという結論に至った。

 もちろん、信号無視は悪いことには違いない。しかし、それが悪いことであるということと、それを注意するということは、そのまま繋がらない。

 世の中には「放っておいても問題のない罪」というのがあるはずで、歩行者の信号無視というのは、そういう罪だと考える。もちろん、安全確認をしないで飛び出せば大事故に繋がる危険もあるが、明らかに車のない場所での信号無視が、悪いことだとは私には思えない。

 しかし「罪は罪」という感覚でそれを断罪することは、結局は安易なディスコニュニケーションに過ぎないのではないかと思う。  容疑者は子供と一緒だったというから、注意した方は「子供の為にならない」と思ったから注意したのかもしれない。しかし、一方で容疑者が見知らぬ老人から注意されることは、親としてのメンツを潰してしまうかもしれない。そうしたお互いの立場の違いが「信号無視」という罪が故に、十分に考慮されず、被害者から容疑者側への一方的な注意というディスコミュニケーションにつながったのではないかと思う。


 もう少しお互いが相手の立場に対して配慮をできていれば、この悲しい事件は起きなかったかもしれない。しかし、今の日本社会には「小さな罪でも、決して見逃すな」という空気がある。そうした空気が今後、このような事件をひこ起こさないことを願う。

*1:信号無視注意に立腹、男性殴り死なす 傷害致死容疑で男を逮捕 警視庁(産経新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111224-00000545-san-soci

プロフィール
画像を見る赤木智弘(あかぎ・ともひろ)
1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

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