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食のリスクは多面的に評価しないと見誤る PartⅡ ~週刊新潮さん、リスク学/栄養学を勉強してから記事にしませんか?

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 "リスクの伝道師"山崎です。毎月食の安全・安心に係るリスクコミュニケーションを議論しておりますが、今月も食のリスクについて誤った解釈の記事が世間を騒がせているようなので、先月に引き続いて食のリスク評価はどうあるべきかについて考察したいと思います。まずは、問題となっている週刊新潮さんの記事は以下の通りです(ネット上に記事が掲載されておりませんが、悪しからずです):

◎専門家が危険性を告発!食べてはいけない「国産食品」実名リスト
 週刊新潮 5月24日号(5/17発売)p20-p25(ライター/文責者の記載なし)

 http://www.shinchosha.co.jp/shukanshincho/

 そもそも本記事において取材された「専門家」の方々は、食のリスクや栄養学に詳しい科学的バックグラウンドをもった学者/研究者なのか。「専門家」というからにはそれなりの学位をお持ちだろうし、科学的なリスク評価を過去にやってきた実績はあるのだろうか(まさか「加工食品診断士」などという民間でたちあげた独自の資格ではないですよね?)。もし単に食品業界の裏事情に詳しいとして、消費者の不安を煽る非科学的書籍を出版している方々を「専門家」と呼んでいるとしたら、「週刊新潮さん、大丈夫?」と言いたい。しかも、このような見出しの記事を掲載しておきながら、「いたずらに恐怖を煽る意図はいささかもないが・・」とのフレーズには苦笑するしかない。

 本記事において語られている「専門家」のコメントを疑義言説としてピックアップし、ファクトチェックを実施したので以下をご一読いただきたい。なお、SFSSによるファクトチェック運営方針/判定レーティングはこちらをご参照のこと。

<疑義言説1>
「亜硝酸Na(ソーセージ類・ハム類などに使用される食品添加物)は劇物指定を受けている物質です」「そのADI値(1日許容摂取量)は体重30kgの子供の場合2mg、ウインナーに換算すると30gでたった2本分ほどです」「亜硝酸Naとソルビン酸の組み合わせには相乗毒性があることがわかっている」

<ファクトチェック判定> レベル2(不正確)
リンク先を見る

<エビデンスチェック1>
 「亜硝酸Na」という化学物質はたしかに劇物指定されている: ウイキペディア「亜硝酸Na」
ヒトで暴露量が大きい場合に死亡する可能性があるからだが、それはほかの食品成分でも同様だ。食塩でも大量に摂取すれば死亡するが、食塩を「毒」とは呼ばないだろう。(参考情報:『毒か安全かは量で決まる[理事長雑感2013年9月]』 そもそも本記事の著者は、自分たちが「毒」と呼んでいる「亜硝酸Na」や「ソルビン酸」が天然の植物/野菜にも含まれる物質であることをご存知なのだろうか。

 「亜硝酸Na」自体は化学物質として劇物指定されているものの、食品添加物として一定基準内の微量を使用することは厚生労働省が認可しており、古くから加工肉製造の際の「塩せき」に食塩とともに使用されている。加工肉製品でもっとも懸念されるリスクは、ボツリヌスによる食中毒であり、その死亡リスクを最大限下げたいがために、発色剤の亜硝酸Naや保存料のソルビン酸が使用をゆるされているわけだ。いわゆる「リスクのトレードオフ」を十分理解している方なら、食品添加物自体の健康リスクと食品添加物による食中毒のリスク低減効果のどちらが優先されるべきかは自明なはずだ。

 それでも食品添加物自体の生体への健康リスクをできるだけ小さく抑える必要はあるだろう。本記事にも「基準を定めて、人体に影響がない範囲での使用が許可されている」との記載があり、ソーセージなどの食肉製品では0.07g/kg(0.007%)というわずかな量が使用基準として指定されている(参考情報:厚生省告示第370号 食品、添加物等の規格基準より抜粋: 使用基準(H29.06.23))。また、この使用基準が認められている理由は、本記事にも記載があるとおり「亜硝酸Na」のADI(Acceptable Daily Intake:1日摂取許容量:生涯にわたり毎日摂取し続けても影響が出ないと考えられる一日あたりの量をいう)が亜硝酸根として「0-0.07 mg/kg bw/日」とJECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)が評価しているからだ(参考情報:亜硝酸ナトリウム - 日本医薬品添加剤協会)。

 ちなみにこのADIはNOEL(無作用量)の100分の1を目安に設定されており、今回の疑義言説で指摘されているように、もし「亜硝酸Na」がADIの上限いっぱいまで配合されていたとしても、体重30kgの子供の場合、ADIを数倍超えるような10本・20本のウインナーを食べても子供の生体に影響が出ない程度のリスク(安全基準はもっと高いところにある)ということだ。本当にこの「亜硝酸Na」を「毒」と呼ぶのは適切なのだろうか?

 また本疑義言説では、これらの食肉加工品に食品添加物として配合されている「亜硝酸Na」と「ソルビン酸」の組み合わせは「相乗毒性」があるとし、内閣府食品安全委員会の食品健康影響評価書『ソルビン酸カルシウム(2008年11月)より「ソルビン酸が広範に使用される一方、亜硝酸塩も食肉製品の発色剤として多用され、両者がしばしば共存するという事実と、両者の加熱試験反応によりDNA 損傷物質が産生されることが報告されている」と引用している。しかしながら、食品安全委員会のfacebookページによると、同じ評価書の中で引用文の次に「しかしながら、この結果は特別なin vitro における実験条件下で得られたもので、ソルビン酸と亜硝酸ナトリウムが食品中に共存した場合に実際に形成されることを意味するものではないとされている。(参照15)」と記述しているとのこと。

 また同評価書において「SCF(欧州連合食品科学委員会)においてはソルビン酸類と亜硝酸塩の共存下における遺伝毒性物質の生成に関する試験結果の一部が相互矛盾のため信頼できず、また、通常条件下ではヒトの健康に対するハザードがないとしており、本調査会としては妥当と判断した。」と結論付けているとのこと。本疑義言説は、2つの物質の「相乗毒性」が試験管内での実験で認められた結果のみを恣意的に抽出し、評価書の重要な結論部分はあえて黙殺して、これらの食品添加物の組み合わせがいかにも危険なものだという結論ありきだった可能性が高い。

<疑義言説1に関する事実検証の結論> レベル2(不正確)
 疑義言説1で引用された文献情報は事実に反しているとまでは言えないが、言説の重要な事実関係について科学的根拠に欠けており、不正確な表現がミスリーディングである。本疑義言説において指摘されている加工肉に配合された「亜硝酸Na」や「ソルビン酸」の安全性は摂取量の観点から評価するとまったく健康影響の心配はなく、「劇物指定」「毒」などという用語により消費者の恐怖や不安を煽ることで当該食肉加工品の信用を毀損する悪質な記事と評価判定する。


<疑義言説2>
「リン酸塩(ソーセージ類・ハム類・サラダチキンに使用される食品添加物)には体内にあるミネラルと結合して排出されるものもあり、摂りすぎると重篤な健康被害を引き起す可能性があります。(健康被害の例:骨粗鬆症・高血圧・うつ病)」「結着剤として加工肉の多くに使われるリン酸塩は過剰に摂取すると成人病や腎臓疾患を引き起こすという研究結果が出ているので、注意が必要です」

<ファクトチェック判定> レベル2(不正確)

リンク先を見る

<エビデンスチェック2>
 この疑義言説をよむとこのリン酸塩は、われわれの生体にとってまったく不要な成分のように読み取れるが、実際はどうなのか?厚生労働省が5年ごとに公表している「日本人の食事摂取基準(2015年版)」によると、1日のリンの目安量を18歳以上の男性で1,000mg、女性800mgとしている。すなわちリンはわれわれの生体にとって必須のミネラルであり、摂取不足により健康障害が出る可能性もあるものだ。ただ、いまの日本人の一般的食事におけるリン摂取量はそれほど不足していないという実情があること、またリン酸塩の過剰摂取により健康への悪影響が出る可能性が否定できない耐容上限量(18歳以上で「3,000mg」)が設定されているのも事実だ。このあたりのリンに関する栄養学的概要をわかりやすくまとめたウェブサイトがあるので、以下で参照されたい:

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