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HPVワクチンの「重篤な有害事象」7%は高すぎるか?

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医療情報を吟味し伝える活動を行うコクランがHPVワクチンのレビューを発表した。各新聞社が伝え、また、コクランの日本支部による日本語訳も読める。

■英民間組織:HPVワクチン「深刻な副反応の証拠なし」 - 毎日新聞

■子宮頸がんワクチン、「前がん病変」予防効果は高い…国際研究グループ : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)

■子宮頸がんおよび前がん性病変の予防を目的とするヒトパピローマウイルスに対する予防的ワクチン接種 | Cochrane

さまざまな論点があるが、今回は、HPVワクチンの重篤な有害事象が約7%である点を主に論じる。7%と聞くと不安に感じる人もいても当然であろう。HPVワクチンに子宮頸がんの前がん病変を減らすという利益(今回のコクランのレビューによればだいたい1万人中百何十人、パーセントに換算すると1%強)があるにしても、7%という重篤な有害事象の害と引き合わないのではないかと考える人もいるかもしれない。ただ、おそらくはほとんどのワクチンの専門家は、7%という数字を、まったく無視できるというわけではないのもの、それほど驚くような数字ではないと考えているだろう。それはなぜかという解説を試みたい。

有害事象と副作用は異なる

まずはおさらい。有害事象と副作用は異なる。もともとのコクランの記事自体に混乱がある*1が、7%というのは重篤な有害事象のことである。有害事象は因果関係の有無を問わない一方で、副作用は因果関係を否定できないものを指すという定義が一般的である。

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「有害事象(治験薬を投与された被験者に生じたすべての好ましくない又は意図しない疾病又はその徴候)」

「副作用(少なくとも合理的な可能性があり、因果関係を否定できない)」

■有害事象より引用

よく引き合いにだされるたとえとして、ワクチン接種後に交通事故に遭っても有害事象として数えられる。ワクチンと無関係であろうと思われても、とにかく記録をしておかないと後から検証ができない。「いくらなんでも交通事故とワクチンは無関係だろう」「いやいや、ワクチンのせいでふらつきが起こって交通事故に遭ったという可能性が否定できない」なんて議論をする前に、とにかく、有害事象は記録することになっている。

対照群と比較して重篤な有害事象の頻度に差はない

当然のことながら、因果関係が否定できない副作用よりも、因果関係を問わない有害事象のほうが多くなる。ワクチンを否定したい人たちによって「こんなにも高頻度で有害事象が起こっている!ワクチン危険!ワクチン反対!」といった主張にしばしば利用される。有害事象と副作用の区別がつかないか、あるいは、区別がついていても意図的に無視して煽っているのかのどちらかであろう。

ただ、今回はそういう安易なワクチン反対者以外からも「いくらなんでも7%というのは高すぎるのではないか」という懐疑的な意見が出ている。当然である。ただ、この懐疑に答えるのはいくつか段階を踏まねばならない。

まず、ワクチンの使用後に起きた有害事象のうち、どれぐらいがワクチンと無関係で、どれぐらいがワクチンのせいなのか、どうやったら区別できるだろうか。それは、ワクチンを打った群と、打ってない対照群を比較すればいい。ワクチンのせいでふらついて交通事故に遭う確率が高くなっていれば、対照群と比較して、ワクチン群で交通事故の報告数が多くなるはずである(加えて、ふらつきや転倒といった関連する有害事象もワクチン群で多くなる)。

今回のコクランのレビューでは、すでにそのような比較がなされており、「重篤な有害事象の発現リスクは、HPVワクチン接種群と対照群(プラセボまたはHPV以外の感染症に対するワクチンを接種)とで同等であった(確実性は高い)」と結論付けられている。対照群にも有害事象は7%ほど起きているので、HPVワクチンとの因果関係は認められないというわけだ。比較試験で差がつきにくいほどの稀な(たとえば10万人に1人とか)副作用までは否定できないが、少なくとも7%も重篤な副作用が起きていることは否定できる。

「他のワクチンでもこんなに重篤な有害事象が起きているのか」という疑問も出されているが、たとえば、タイで行われたHIVワクチンの臨床試験では、3.5年間の観察期間中、ワクチン群で14.3%、プラセボ群で14.9%の重篤な有害事象があった*2

生理食塩水を対照にしないのには理由がある

次に問題になるのが、対照群が適切であったかどうかである。HPVワクチンの比較試験の多くでは、対照群は生理食塩水などの非活性プラセボではなく、アジュバントや他のワクチンを接種されている。アジュバントとは、ワクチンの効果を高めるために使われる薬剤のことだ。

HPVワクチンの反対者の主張の一つに、アジュバントこそが悪者でありさまざまな副作用の原因だ、というものがある*3。彼らに主張によれば、対照群にもアジュバントが打たれているがゆえに比較試験で差が出ないというのだ。対照群に7%もの重篤な有害事象が生じることこそが、その証拠であるとも。タイで行われたHIVワクチンの臨床試験も対照群にはアジュバント(aluminum hydroxide gel adjuvant)が接種されている。

対照群に非活性プラセボを使わない理由は、盲検が破れてしまうことと、対照群の不利益を考慮した倫理的なものである。HPVワクチンを接種した直後は接種部位に局所的な痛みや炎症が生じる。対照群が生理食塩水だとこうした痛みや炎症が生じにくいのでHPVワクチン群か対照群かが気づかれてしまい、試験の妥当性が落ちる。また、臨床試験に参加していただくからにはなるべく不利益にならないよう、対照群に対し安全性や効果がわかっているワクチン(A型肝炎ワクチンが採用されていることが多い)を接種する場合もある。

アジュバントなしの対照群でも重篤な有害事象の頻度はワクチン群と変わらない

そもそも、アジュバントなしと比較した臨床試験は存在する。それも日本の研究だ*4。20歳から25歳までの日本人女性を、HPVワクチン群と対照群にランダムに振り分けて24ヶ月間観察したところ、HPVワクチン群で3.5%(18人/519人)、対照群で3.6%(19人/521人)の重篤な有害事象を認めた。対照群はA型肝炎ワクチン(Aimmuge/エイムゲン)を接種されているがアジュバントを含有していない*5

A型肝炎ワクチンは長年使用されてきた実績があり安全性はおおむねわかっている。被験者がそれぞれの群で500人程度であるので稀な副作用が生じるかどうかはこの試験ではわからないが*6、少なくとも、HPVワクチンの対象となりうる女性においてアジュバントを含有していない安全とされているワクチンでも重篤な有害事象が数%は起こってもおかしくないことはわかる。

24ヶ月間(2年間)観察して3.5%の重篤な有害事象が起こるのであれば、4年間も観察すれば7%も不思議ではない。コクランのレビューは「0.5〜7年にわたってワクチンの安全性を評価」した結果である。ワクチンの専門家がHPVワクチンの重篤な有害事象の頻度7%を、それほど問題視していない理由をご理解いただけただろうか。

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