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大量懲戒請求が投げかけた課題

 弁護士の大量懲戒請求と、それに対する複数の弁護士による民事訴訟などの対抗措置が話題なっています。あくまで個人的な損害賠償という観点でみれば、精神的苦痛や弁護士会から課されることになる手続的な負担をどの程度のものと捉えるのかや、共同不法行為とみるのかといったことが論点にもなっています。また、今回の事態に注目しているメディアや、弁護士側の動きを支持している一般の論調のなかには、ネトウヨといわれる者たちによる、ネット社会を背景とした動員型の個人攻撃の現実とつなげて、その歯止めへの期待を含めて、この動きに注目しているととれるものがあります。

 しかし、請求対象の弁護士たちの意識としても、業界内の受けとめ方としても、今回の件では、もう一つ別のことが強調され、あるいは注目されているといえます。それは、やはり、弁護士自治の根幹である懲戒制度の悪用への対策という観点。つまり、彼らが何に対抗しているのかといえば、それは個人に対する攻撃であると同時に、弁護士自治への攻撃なのだ、という受けとめ方です。

 ただ、少なくともその観点に限っていえば、これまでの流れには率直にいって違和感を感じるところがあります。結論から言えば、それはこのケースについて、弁護士自治を防衛するためにも、あるいは会員の利益擁護のためにも、もっと弁護士会が前面に出て、その盾になるべきではないか、と思うからです。

 今回のような、ブログなどを介した動員型、殺到型の懲戒請求は今後も起こる可能性がありますが、懲戒制度や対象会員の利益擁護は、今後も会員個人の法的対抗手段に委ねるということでいいのでしょうか。弁護士個人が不法行為に対して、独自の判断で損害賠償請求ができるとしても、その点では妥当性が議論される余地があると思うのです。

 有り体にいえば、この方向は、一般の人が個人の判断で、軽はずみな、根拠がない懲戒請求をすれば、対象弁護士から反撃をくらうことを思い知らせ、要は「覚悟して制度をつかえ」ということを啓蒙することで、不当な懲戒請求をやめさせ、制度を守るという方向になります。果たしてそうなるのかもさることながら、毎回毎回、それに期待し、その効果が社会に行き渡るのを待つということでしょうか。

 昨年12月、日弁連は今回につながる弁護士会の意見表明をめぐる、全国21の弁護士会の所属会員全員に対する懲戒請求に対して、中本和洋会長名でそれを「取り上げない」とする声明を発表し、それに続き単位弁護士会でも同様の会長声明が出され、この時は、ある意味、懲戒制度を守るという点で、毅然とした対応がとられました。しかし、今回は、こうした「門前払い」の対応はとられなかった。個人が対象となっているから、ということのようですが、会として制度の形がい化批判を相当に恐れた、という話も伝わっています。

 今回、「門前払い」とされず、綱紀委員会に諮られたことで、逆に請求者側に、自分たちの主張を弁護士会が「故なしとはしなかった」という解釈する余地を生んでいる面も、問題のブログからはうかがえます。しかも、そう解釈されてしまうと、請求そのものを不当として逆に訴えられるという結果の不当性を浮き立たせてしまう可能性があります。

 対象会員への負担軽減ということからいえば、仮に「門前払い」にせず、手続きにのせたとしても、会が事前に判断し、会員には負担をかけない、認否確認だけのような形式的な処理をするという方法も考えられます。実際、今回のケースにしても、たとえ数行の弁明書であっても、また、仮に弁明書を提出しなくても「懲戒不相当」は間違いない案件、としている対象弁護士もいます(弁護士 猪野 亨のブログ)。今回については、弁護士会の対応にバラツキがあるのかもしれませんが、会がどうにもこうにも会員の盾になることができない案件とは思えません。

 弁護士自治のための、適正な懲戒制度を守り、対象会員の負担を軽減し、不当請求の攻撃から守るために、さらにいえば、背景になっている弁護士会のアクション(今回については朝鮮人学校への補助金支給要求)と会員個人の思想信条とは明確に区分されるべきことを確認する意味でも、個人が対象であっても、その内容を判断したうえで、定型化された動員型・殺到型の請求を取り合わず、あるいは形式的に処理する。そして、それが仮に制度の形がい化だと批判されるのであれば、その時こそ、会員のために弁護士会は毅然とした反論する――ということはできないのでしょうか。

 さらに負担ということでいえば、今回、大きな事務的な負担を課された被害者は弁護士会であり、法的な措置というのであれば、それこそ弁護士会自身がそれを検討してもいいはずです。いうまでもなく、その事務的な負担にも強制加入団体の会費が投入され、それもまた会員利益にかかわる問題なのです。

 たとえ不当な懲戒請求がこれから何千件、何万件こようと、相手にしないし、効果なし。弁護士会自身が会員に負担をかけない対応によって、不当請求をしようとする人たちに無駄を分からせる――。今回のように、会員個人が訴訟による賠償金、和解金によって、思い知らせるだけが対策ではないように思います。訴訟を検討している弁護士は会見で、もちろん懲戒制度そのものを否定するつもりはない、としていますが、それでも今回のような対応には、請求そのものを委縮させるという批判が今後もつきまとうことも考えられます。それも踏まえて、弁護士自治と会員にとっては、どちらがより妥当なのか。これからの問題として考える必要があるはずです。

弁護士自治と弁護士会の強制加入制度の必要性についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4794

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