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イラク日報の"黒塗り"はまだ不十分だった

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防衛省が国会で「不存在」としていた自衛隊イラク派遣時の『日報』が、一部黒塗りにした上で公開された。情報公開は歓迎すべきことだが、今回は拙速ではなかったか。国際政治学者の篠田英朗氏は「イラクでは有志連合による治安維持活動が続いている。『日報』の黒塗りは不十分で、機密情報が漏れることで、他国に被害をもたらす恐れがある」という――。

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保存されるべき文書であったのは確かだが、政争的文脈の中でなし崩し的に“一般公開”されてよかったのか――公開された「日報」の一部(写真=時事通信フォト)

■「戦闘」という字面だけに反応する浅はかさ

自衛隊のイラク派遣時の『日報』が公開された。一部メディアが、「戦闘」という言葉が何度も出てくる、と報じた。それらメディアの論調は、自衛隊を非戦闘地域に送ったという政府の説明はうそだった、といったものであった。

論外であろう。一般の方が開発した『イラク日報検索』で「戦闘」という語を探してみれば、そのばかばかしさがわかる。

「戦闘」という言葉が使われているのは、自衛隊が派遣されていたのとは別の地域の様子を描写するときであったり、「戦闘服」について言及していたりするときだけだ。こんな字面だけの話で大げさに「うそ」や「違反」を主張するのは、とても真面目な話だとは思えない。

「戦闘」という漢字2文字を使うと、法律違反になるというのなら、「戦力」はどうなのか。「戦力」という漢字2文字は、「日報」に出てくる。とすれば、憲法9条2項の「戦力不保持」に反する違憲行為が行われていたと断定するべきなのか。

そうではないだろう。「戦力回復」と自衛隊員が言うのは、休みをとる、という意味である。字面だけを追えば、休みをとって「戦力回復」を果たして職場に戻ってくると、憲法違反になる(なお『日報』では次第に自衛隊員が「R&R」という国際的な言い方で「休暇」を表現していくようになる様子が見えるのは興味深いのだが)。「今年も広島カープは戦力が充実している」、と野球解説者が言った瞬間、「それじゃ、カープは憲法違反ですね」、と言う人はいない。憲法が禁止しているのは、「戦力」という漢字2文字を使うことではない。言葉は、文脈の中で、読まなければならない。

■保存と公開はなされるべきだが

『日報』には、「CIMIC(Civil-Military Cooperation)(民軍連携)」という語が、何度も出てくる。軍事部門と民生部門が協力して作業を遂行するための調整会議に、自衛隊員が定期的に出席していたからである。政府見解では、自衛隊は、憲法上の「戦力」ではないが、国際法上の「軍隊」である。したがって問題はない。しかし日本には、自衛隊は軍隊ではない、と感情的になって主張したがる人がいる。こうした人の憲法観では、自衛隊員がCIMIC会合に出席していたら、違憲行為をした、ということになるのかもしれない。『日報』の取り扱いは、意外にも複雑で、恐ろしいものだ。

果たして、そもそも『日報』は、このような形で公開されるべきものだったのか。私は研究者なので、『日報』はきちんと保存されるべきものだと思うし、万が一にも隠蔽(いんぺい)されたりしてはならないとも思う。しかし、そのことと、今このような形で公衆に公開することとは、別の次元の問題だ。

自衛隊がイラクでの活動を終了させてから、すでに10年以上の歳月が過ぎている。新たに同じような活動で再派遣がなされる可能性も、極めて小さいだろう。『日報』に書かれている情報は、その意味では、高度な機密情報だとまではいえない。しかしイラクは現在でも、軍事作戦が全く不要になるほどに安定している状態だとはいない。他国のことまで気を遣うのであれば、『日報』記載内容は、安易に取り扱われるべきものではない。

実際、『日報』は、相当程度の黒塗りの部分がある形で、公開された。しかしそれでも、見えてくる情報はある。そのことについて、少し書いてみたい。

以下に書くことが、自衛隊その他の関係者にとって迷惑ではない範囲のものであることを祈る。関係者に迷惑をかけることは、避けたい。しかし私が読んだのは、すでに誰も読めるようになっている『日報』の記載だけである。私は国連平和維持活動(PKO)なども専門研究対象にしているだけで、本当の軍事専門家が、複数で、長い時間をかけて解析したら、もっと多くのことが判明してきてしまうだろう。私が言いたいのは、そうした観点からも『日報』問題について考えておくべきではないか、ということである。

■自衛隊によるUAVの使用

「UAV」とは、「Unmanned Aerial Vehicle」のことを指す。無人飛行機、つまりドローンのことである。情報収集目的で軍事部隊が活用するもので、コンゴやマリではPKOでも導入されている。今回の『日報』によって、自衛隊がUAVをどのように使っていたかが、ある程度推察できる。

2005年4月12日にクウェート分遣班でUAV「後送準備」が行われ、4月28日にサマワ宿営地で、4月30日・5月4日にはバグダッドで、UAVの「資料作成」がなされている。5月7日にはサマワを来訪した「在イラク米国大使館付武官ら」が、UAVを視察している。その際の『日報』には写真も掲載されている。

ただし6月20日に陸上幕僚監部(陸幕)副長と第3師団長が、また2006年3月12日に富士学校長や第1空挺(くうてい)団長らがサマワを訪問してUAV視察を行った際には、写真が黒塗りにされている。なお2005年5月18日にサマワ宿営地近くで英軍が迫撃砲弾5発を発見した際には、発見地域を「UAVの重点指向」地域に指定すべきだと記載された。

7月25日、英・豪軍が、サマワに近いキャンプ・スミッティのレーダーでロケット弾射撃らしき反応を確認するという事態が発生した。その際、英・豪軍は緊急対応部隊を展開させ、自衛隊はUAVによる偵察を実施するという連携を見せた。8月7日のミーティング内容から、UAVは「経路」の偵察にも使われていたことが確認できる。

さらに2005年10月26日の「ジャマーによるUAV影響確認試験」の記載から、車両移動を意識したUAV運用がなされていたこともわかる。ちなみに「ジャマー」とは遠隔装置で起爆するIED(即席爆発装置)に対抗して、赤外線センサーをかく乱するための赤外線パルス装置である。自衛隊の車両がジャマーを搭載していたことは、『日報』の別の箇所からも確認できる。

11月6日の『日報』では、オーストラリア国防省がイラクの部隊に「小型無人偵察機」4機を導入すると発表したことに関する読売新聞の報道が紹介されている。あわせて、それまで豪軍がUAVを所持していなかった経緯の説明などが、『日報』には追加的に記載されている。そこで「UAV」にあたると思われる文字の箇所に黒塗りがなされているのだが、日本の新聞が「小型無人偵察機」と書いたところを黒塗りにしていないので、容易に「UAV」についての記事であることが推察できるようになってしまっている。実際に、11月10日以降の『日報』では、キャンプ・スミッティにいる自衛官の業務に、繰り返し「UAVの飛行計画」が登場するようになる。UAV飛行計画について、日・豪間で、調整が図られていたということだろう。

2006年6月4日、「情報収集」の項目に、「UAV飛行経路偵察」の文字がある。ちなみに『日報』のフォーマットとして、サマワでの活動予定に「情報収集」の欄が登場するのは、それまで「ルートチェック」と記載されていた欄が消えてからである。両者の内容は重複していると推察できる。「情報収集」は、「ルートチェック」の目的で行われていた。そのためにUAVが使用されていた。

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