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東京ドームシティ舞姫事件にみる「経営トップのジレンマ」

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1月30日、東京都心部の遊園地でたいへん痛ましい事故が発生し、経営母体である東京ドーム社(東証1部)の経営トップの方による記者会見も行われたようであります(記者会見の様子は東洋経済ニュースが詳しいようです)。事実関係を報じる記事が各紙より毎日続報としてリリースされておりますので、現段階でモノが言えることには限りがございます。ただ、本件(東京ドーム舞姫事件)につきましては、問題をふたつに整理して論じることが適切だと思います。

1経営トップの刑事責任問題

ひとつは経営者の刑事責任に関する問題であります。ご承知のとおり、4年前の大阪エキスポランドでの痛ましい事故につきまして、平成21年9月28日に、取締役2名に対して禁固2年、執行猶予4年の(建築基準法違反および業務上過失致死傷罪による)有罪判決が出されました(この判決全文は最高裁HPから閲覧できます)。この大阪地裁の判断は、現場責任者ではない経営陣に対して、「条理上の義務」として刑事責任の根拠となる注意義務を認定しております。つまり、部下をして遊戯機器の安全性を確認させる、ということが「条理上の義務」として経営者に課されていることが判決で示されております。また、昨年5月に本ブログでもご紹介しましたとおり、パロマ工業社元社長刑事事件判決でも、経営トップに業務上過失致死罪の有罪判決が出ております。この東京地裁の判断は、たとえ製品に不具合がなくても、湯沸かし器という極めて安全確保が要請される製品を世に出している企業であれば、その使われ方にまで細心の注意をしなければならないことが示されていました。さらにJR福知山線事故において、歴代社長らが強制起訴の対象となっていることもご承知のとおりであります。もちろん憲法31条(罪刑法定主義)の関係上、過失犯といえども、刑事裁判において注意義務の認定はそれなりに厳格にされていることは間違いないのでありますが、「世の中に危険なものを送り出して収益を上げている企業は、予算に関係なく安全措置を第一に考えて経営判断をしなければならない」といった考え方が最近の裁判に流れていることは間違いないと思われます。

また、昨年暮れのJAL管制官刑事事件最高裁判決にも象徴されるように、日本では原則として法人の刑事処罰という概念が存在しないために、組織のなかで危機管理ミスが発生した場合には、組織の構造上の欠陥に光を当てることなく、かならず誰かの刑事責任を問うことで「一件落着」させる傾向があります。このたびの舞姫事件においても、「誰かが」刑事責任を問われる可能性は高いわけでして、その可能性は、現場のパート社員や契約社員よりも、事故の予測可能性、および結果回避可能性を持つ経営トップに向けられることも当然に考えられるところであります。

たとえ提供する商品に不具合がなくても、その商品の使われ方に危険性が認められる場合、これを取り除くところまでの法的責任がある・・・というのが昨今の経営者の刑事責任に関するリスクでありまして、そうであるならば昨日の東京ドームの経営トップの方が、被疑者となる可能性を見据えて、ほとんど「捜査中なのでお答えできない」と話しておられたのは、まことに正当な姿ではないか、と思うところであります。また、本来ならば直ちに事故原因調査のために「社外調査委員会」を立ち上げるべき典型的な事例でありますが、経営トップを中心とする社内調査委員会によって調査を行う・・・と表明しているのも、刑事問題がからむために、無理からぬところではないかとも思われます。

2企業コンプライアンスの視点

しかしもうひとつの問題は、企業コンプライアンスの視点であります。エキスポランドは2009年に破産手続が開始されましたが、あの痛ましい事故後、いったんは周辺住民の要望等もあり、遊園地は再開されました。しかしながら、再開後、数回にわたる停止事故、人身事故が発生し、その事故報告を大阪府に行っていないことが後から発覚いたしました(大阪府からも「危機意識のなさ」を指摘されておりました)。たしかにあの重大事故がなければ、「いつもなら報告していなかった程度の事故」(当時のエキスポランドの広報担当者の言)だったかもしれません。しかし、重大事故後の遊園地だからこそ、些細な事故でもきちんと報告をしなければ、従業員は「この会社は変わっていない」と判断し、内部告発が生じることになります。また、マスコミの記事で周辺住民は恐怖を感じ、結局再開したものの遊園地に家族連れは戻ってこなくなり、民事再生は破産手続きに移行されてしまった、というものであります。

私は小さい時に、父に連れられて「後楽園ゆうえんち」に来たことはありますが、東京ドームシティには遊びに行ったことはございませんので、その経営状況に関する知見がございません。しかし四季報によれば、東京ドーム社はこのドームシティに経営資源を集中させ、とりわけパラシュートゾーンには30億円を投下して再開発を予定している、とのことであります。いわば上場企業の命運を握っているのがこのドームシティということになろうかと。

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