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中国が3,000発もの核弾頭を保有しているわけがない

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ジョージタウン大学のフィリップ・カーバー教授と学生たちによる研究チームが、中国の核戦力施設の調査を行い、「山岳地帯地下数百mのところにトンネルを掘り、軍事施設を建設している」、との報告書をまとめました。これについては以前のエントリで扱っていますのでご参照ください。

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この報告書で注目されたのは、地下トンネルやそのユニークなデータ収集の方法論(methodology)もさることながら、それよりも「中国は3,000発の核弾頭を保有している」という内容でした。しかし、この報告書の概要が報じられた当初から、中国の核弾頭保有数があまりに多く見積もられている点を疑問視する専門家の声は少なくありませんでした。

全米科学者連盟(FAS)の核専門家として知られるハンス・クリステンセン氏も、ジョージタウン大学の調査報告書が興味深いものであることを認めつつも、彼らの分析が不十分であり、誇張された数字が世の中に伝わることを懸念しています。クリステンセン氏は、中国の核弾頭保有数が3,000発であるというジョージタウン大学の調査を完全に否定しています。FASが発表している数字(240発)と比べても桁がひとつ違いますね(FAS)。まあ、普通に考えて3,000という数字があまりに現実的でないことは分かりますが、クリステンセン氏の考察記事を読むと妥当な数値が自ずと見えてくるかと思いますので、以下に短くまとめてみました。

◇ ◇ ◇
No, China Does Not Have 3,000 Nuclear Weapons
By Hans M. Kristensen

  • 中国は3,000発もの核弾頭を製造するのに十分な核分裂物質を生産していない
  • 300~500キロトンの2ステージ型熱核融合兵器を3,000発製造するためには、兵器級プルトニウム9~12トンまたは高濃縮ウラン(HEU)45~75トンが必要。
  • 「核分裂性物質に関する国際パネル(IPFM)」によると、中国がこれまでに生産した兵器級プルトニウムは2トン。そのうち実験などで消費されて約1.8トンが残っていると見られる。この数値から見積もられる製造可能な核弾頭の数は、450~600。
  • HEUの総生産量は20トンと見られ、実験その他で消費されたものを除くと、約16トンが備蓄されている模様。ここから理論的に導き出される製造可能な核弾頭数は640~1,060。
  • もうひとつの核燃料としてトリチウムがある。中国には、四川省楽山市夾江県にある高中性子束試験炉(HFETR)で約300発の核弾頭を維持するのに必要なだけのトリチウムが生産されている。
  • 中国は、近い将来において必要となるかもしれない限定的な核戦力を維持するためだけの核分裂物質しか生産しておらず、拡大傾向にもない
  • 核保有国が、所有する核物質をすべて核兵器にするわけではない。一部を兵器に、残りを将来の備蓄として取り置くため、所有する核分裂物質の量=核兵器の数という理屈にはならない

  • 核兵器保有量を推測する際に有用なのが、運搬手段(車両、ミサイル、航空機)の数である。
  • 中国の弾道ミサイルの多くは通常弾頭もしくは通常/核両用であるが、ジョージタウン大学の報告書では、短距離、中距離弾道ミサイルすべてを3,000発の核弾頭として含んでしまっている。
  • FASの分析では、中国が保有する核弾頭は240発
  • 運搬手段であるミサイルと航空機は約180
  • 実戦配備されているもののうち140発が陸上配備で、米本土に届くものは50発以下。
  • 240発の中には現在まだ開発中の潜水艦発射型弾道ミサイル(JL-2)や、爆撃機用のもの、さらにはスペアも含まれている。
  • 「中国が保有する核弾頭は100発余り」という2006年の米国防情報局(DIA)の分析とFASの見積もりは一致している。
  • さらに、ジョージタウン大学の分析では、昆明の南に建設された地下施設がDF-31大陸間弾道ミサイルを配備するためのものだと結論付けているが、根拠が示されていない。
  • ソースは中国のウェブサイト「Sina Military Forum」のようだが、その建造物はDF-31を配備する施設としての特徴が何もない。
  • トンネルの入り口や通路が、DF-31の発射台を運用するには狭過ぎ、兵器庫と見るのが妥当である。
◇ ◇ ◇

確かに、中国北部などに建設された地下トンネルを中国の戦略核ミサイル部隊である第二砲兵が使用していることは間違いないことですし、クリステンセン氏も否定していません。ただ、ジョージタウン大学の中国の核弾頭保有数の見積もりは妥当性を欠いたものと言わざるを得ません。

中国の戦略級弾道ミサイルは量産されることなく、数量的にはここ20年ほど抑制的に推移しています。依然として米国の大都市に対する核報復攻撃能力は十分なものとは言えず、彼らの本意であるかどうかはともかくとして「最小限抑止」の範囲内にとどまっているのは事実です。配備ペースや現在の核戦力の規模からみると、予見しうる将来において、中国は引き続き「最小限抑止」を核戦略の基本に据えるつもりなのだと考えられます。

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