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Vol.369 東日本大震災における被災地の現状と保健師の役割~福島県相馬市での活動を通して~

相馬フォロアーチーム 保健師
塩満 芳子
2012年1月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.はじめに
2011年3月11日に発生した東日本大震災は、北海道沿岸部から千葉県までと被災地域が広範囲に及んだ。地震による被害はもちろん大津波による破壊力は想像を絶し、一瞬にして人も町も生活基盤もすべてを奪い去った。さらに、福島第一原発の事故は、福島県のみならず国家的危機と呼ぶべき状況に発展し、放射能汚染による混乱は今もなお続いている。

私は中長期的被災地支援として、東京都健康長寿医療センター研究所より福島県相馬市へ出向し、子供の心のケアを目的に結成された「相馬フォロアーチーム」の保健師として6月より活動している。相馬市の人口は約38,000人で、東日本大震災による死者は457人、行方不明者は2人という被害状況の中、6月 17日には避難所を閉鎖し全員が応急仮設住宅や借り上げ住宅等へ入居した。被災地はもちろん相馬市を訪れるのも初めてであった私にとって、保健師としてこの地でいったい何が出来るのか等と悩んでいる暇はなく、仮設住宅を一戸一戸訪問して相談活動を行ったり、学校訪問をして保健師のニーズを調査し、自らも被災していながら児童や生徒の為に必死で頑張っている教職員のカウンセリングを開始したりと、とにかく自分に出来る事なら何でもやろうという思いで毎日駆け回って来た。そんな活動の中で、今回は仮設住宅の全戸訪問を通して見えて来たものを報告する。

2.応急仮設住宅入居者が抱えている問題
相馬市は、集落ごとになるべく同じ仮設区に入居できるように配慮されており、仮設住宅全戸に対して夕食の配食も行っている。また、訪問販売員がリヤカーを引いて毎日全戸を訪問している事等により、仮設での孤独死は今のところ防げている。しかし、元々のご近所付き合いの関係から周囲との関わりを拒絶している方、家族を亡くして独居になってしまった方、震災の影響から鬱傾向となり閉じこもっている方も少なくない。震災後、国内のみならず世界中から支援団体が仮設住宅を訪れ、集会所でのイベントを企画したり支援物資を配布したりして下さったが、前述のような孤立しがちな方はなかなかその情報を入手出来ず、ますます孤立してしまったり、集会所へ自ら受け取りに行かないといけないような支援物資は貰う事が出来ていないという現状がある。また、相馬市の仮設住宅には原発による避難者も入居しており、家や家族を流されてしまった方と、家はあるが帰れない方との目には見えない壁が、仮設住宅支援を複雑化させている。

仮設住宅入居者の身体的な特徴としては、震災直後の精神的ショックや食糧難による体重減少と反対に、運動量や活動量の低下、およびストレスによる過食からの体重増加が挙げられる。仮設住宅は周囲を山に囲まれた場所に多く、ちょっとした買い物も車で市街地まで出なくてはならず、通学も基本的にはスクールバスによる仮設住宅と学校間の送迎となっている。また、高齢者の多くは畑仕事を日課としていたが、仮設住宅に入居して体を動かす機会が無くなっている。そんな状況の中、楽しみと言えば外食やおやつとなってしまい、子供に関しては、住居内で泣いたり騒いだりすると騒音トラブルになる為、すぐにおやつを与えてしまう親も多い。

精神的な特徴としては、津波による喪失体験の影響はもちろん見られるが、特に福島県特有の原発関連の影響が大きい。仮設住宅入居者の多くが漁業関係の仕事をしており、放射能の影響で漁業再開に目途が立たない苛立ちから飲酒量が増えたり、パチンコ通いをしている方も多い。最近では宮城県や岩手県の漁港が復興している様子がメディアに多く取り上げられているが、そのニュースを見ると自分達が取り残されている気がするといった声も聞かれ、震災直後にあった「がんばっぺ!」の気力が途絶え、意欲低下の傾向が目立つ。特に、寒くなると寂しさが増すせいからか、冬になってその傾向が強く出ている。農業関係の方も同様である。少なくとも現在の相馬市内の仮設住宅においては、一般的に報道されているような復興ムードは感じられない。また、東北の人は我慢強い等と言われているが、このような大災害を体験して平気な人などいる訳が無い。ただ、今回の被災者の傾向として、家族を亡くしたか亡くしていないか、家を流されたか流されていないか等、被災の程度で必然的に順位をつけてしまい、私よりあの人の方がもっと辛いのだから弱音を吐いては申し訳ないと我慢している方が多い。

世代別の特徴としては、子供達に関しては、震災や放射能の影響で様々な制約を受けて生活しなくてはならない事に関連した問題が大きい。仮設住居内では、隣の部屋の声や物音が聞こえ易く、暴れちゃダメ、騒いじゃダメと怒られてばかりいる。かといって仮設住宅敷地内は駐車車両でいっぱいの為、遊ぶスペースも無く、周囲の山は放射能が怖いからと立ち入りが制限されている。また、仮設区によっては同年代の子供がいない等もあり、子供の健全な成長に不可欠な「遊び」の場が減っている。
 
成人に関しては、収入が安定しない事による今後の生活や住居の不安、子供のいる家庭ではさらに養育費等の不安が大きい。また、子供達の問題と関連して、あれダメこれダメと子供を叱ってばかりいる自分にストレスを感じている方、放射能による子供への影響に不安を抱えている方も多い。こうした大人の不安定さというのは確実に子供達へも影響を及ぼしている。

高齢者に関しては、活動性の低下による影響が最も大きい。動かない事で筋力が低下し、ちょっとした移動も辛く感じる為に閉じこもりがちとなったり、畑仕事等の生きがいを失い鬱傾向となったりした事で、さらに閉じこもるという悪循環を招いている。また、運動不足やストレスから血圧が上昇している方も多い。高齢者は他の世代と比較して、戦争を経験している事、あるいは放射能の影響がそれ程心配ない事等から、強くたくましく前向きに生きているという印象がある。しかし中には、子供や孫を亡くし、自分が死ねば良かったのにとおっしゃる方や、今までは一人暮らしをしていたが、今回子供達家族と一緒に仮設住宅へ入居し、子供の世話になって申し訳ないから死んだほうがましだったとおっしゃる方がいる等、高齢者特有の問題もある。

3.保健師に求められるもの
今までの活動を振り返るとその内容は多岐にわたり、「なんでも屋」と言っても過言では無い状況であった。しかし、そもそも保健師というのはそういうものなのではないか。活動の軸となるのは、被災地に限らず保健師が日常的に行っている地域保健活動で、訪問による相談活動を通して個々の課題とニーズを把握し、心身の健康管理と生活環境の整備を目的とした各関係機関や他職種との連絡調整を行う事である。その中で、被災地で保健師に一番求められるものは、なんと言ってもコミュニケーションスキルに尽きる。被災地支援は他地域から派遣された保健師が担う場合が多く、被災者に必要な支援を迅速かつ的確に判断する為にも、地域の方々とうまく信頼関係を築き、潜在化している問題をいかに引き出せるかが鍵となる。

また、被災地では様々な職種や団体が活動しており、その方達と被災者支援という同じ目的を持ったチームとして連携していく事で、被災者にとってより良い支援につながる。特に、保健師のマンパワー不足を補うものとして、被災者とより密に接しているボランティアの存在というのは重要で、気になる人がいればボランティアから保健師につないでもらうという連携は非常に有効的である。

次に求められるものとして、保健師の専門性を活かした包括的ケアが挙げられる。被災者支援というとどうしても心のケアに重点を置きがちであるが、身体面、家族状況、生活状況等全てが整わない限り、被災者の生活は成り立たない。これら全てを多角的な視野でコーディネートするスキルが必要だと言える。その他、先に述べた「なんでも屋」とういう表現からも分かるように、私自身支援活動における柔軟性を求められた。時には子供達と思いきり遊んだり、支給された新しい家電の使い方をレクチャーしたり、電話の無い被災者の代わりに受診予約や家族との連絡を行ったり、被災者の生の声を聴いて今一番必要な物資の支援要請をしたり等も、保健師ならではの重要な支援だと考える。

4.おわりに
被災地支援という偉そうな言葉を使っているが、実際には自分の活動が本当にお役に立っているのか正直分からず、逆に相馬の方々から多くの事を学ばせて頂き、こちらが元気を貰っているというのが実情である。仮設住宅は基本的に入居期間が2年であるが、福島県は原発問題もありなかなか先が見えないまま早1年が経とうとしている。今後長期化が予想される被災地支援において、支援者側の心身の健康管理も忘れてはならない。いつか必ず復興を成し遂げる事が出来ると信じて、まずは身近な人達の笑顔を守って行きたい。

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