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目まぐるしく動く東アジア情勢 - 澁谷 司

 北朝鮮の金正恩委員長は、今年(2018年)韓国で開催された平昌五輪を契機に、韓国の文在寅大統領と手を携えて東アジアの“和平ムード”を演出してきた。

 北朝鮮は、米朝会談(6月12日、シンガポール)を直前に控え、段階的「非核化」への道を歩むとして、米国側から一定の譲歩を引き出そうとしている。具体的には米国による北への経済制裁解除(場合によっては、日米からの経済援助)だろう。

 だが、トランプ政権は(安倍政権と共に)北朝鮮に対し“完全で検証可能かつ不可逆的な”「非核化」を求め、依然、経済制裁の圧力を緩めていない。

 一説には、ワシントンは平壌に対し、核開発データの廃棄や核開発に従事した技術者数千人の海外移住を要求しているという。

 そこで、5月6日、北朝鮮外務省報道官は、米国に「われわれの意思を誤って判断し、圧迫と軍事的脅威を追求すれば、問題解決の役に立たない」と警告した。

 同日、北朝鮮の『労働新聞』は、日本が北への圧力を維持しながら、米韓を通じてのみ日朝対話を模索しているとして「悪い癖を捨てない限り、1億年たってもわれわれの神聖な地を踏むことはできない」と非難している。

 さて、5月3日、金正恩委員長は、訪朝した王毅外相と面会した。だが、金委員長は、どうしても習近平主席と直接、話す必要があったのだろう。4日後の7日、わざわざ飛行機で大連へ飛んだのである(8日か9日、習主席は中国初の国産原子力空母の進水を見るため、会談場所が大連となったという)。

 その会談で金委員長は習主席に「関係国が北朝鮮に対する敵対的な政策や安全保障上の脅威を排除しさえすれば、北朝鮮は核兵器を保有する必要はない」と語ったという。

 そして、委員長は「この前提の下であれば、半島の『非核化』は必ず実行できる。更に朝米の相互信頼を構築し、最終的に『非核化』した半島の平和実現を望んでいる」とも述べたと伝えられる。

 譬えが適切ではないかもしれないが、子分が大親分の所に泣きつき、その大親分から別の大親分に口添えしてもらう構図ではないか。つまり、北朝鮮はそれほどまでに追い詰められていると見るべきだろう。

 早速8日、習近平主席はトランプ大統領と電話会談を行った。そして、習主席は同大統領に「米朝双方ができるだけ早く接触と対話をスタートし、積極的な成果を得ることを希望する」と述べた。習主席はトランプ大統領に、北朝鮮に対する一定の譲歩を訴えたのだろう。

 同日、トランプ大統領は、突然、欧米6ヵ国とイランが結んだ「核合意」離脱を表明した(そのため、英仏独首脳は困惑している)。今後、米国はイランへの経済制裁を再開するつもりである。だが、これは北朝鮮に対するメッセージではないだろうか。

 北朝鮮が確実に段階的「非核化」を実行しなければ、ワシントンは平壌と会談を行わない(或いは、いつでも米朝会談での合意を破棄する)という意味が込められていると考えられよう。

 翌9日、訪朝していたポンペオ米国務長官は、北朝鮮から3人の韓国系米国人の人質を連れて横田基地経由で米国へ戻った。金正恩委員長は、ワシントンに対し“善意”(特赦で人質を解放)を示し、経済制裁解除やハードルの高い要求の取り下げを求めたのではないか。

 ところで、一方、同9日、日中韓の首脳会議が東京で行われた。当然、安倍首相は、北朝鮮問題を最大のイシューと位置付けた。だが、今の中韓にとっては、米朝会談前の微妙な時期である。あまり同テーマに深入りしたくなかったに違いない。

 確かに、日中韓は「北朝鮮の完全な非核化」で3ヵ国が協力する方針で一致した。だが、日本の求めていた“完全で検証可能かつ不可逆的な”「非核化」という文言は、3ヵ国の共同声明に盛り込まれなかった。

 現在、李克強首相と文在寅大統領にとっては(北朝鮮問題も大切だが)自国経済が気になって仕方ないのだろう。実際、両国共に経済があまり芳しくない。そのため、日本との経済交流で、景気浮揚を狙っているのではないだろうか。

 そこで、中韓はいざと言う時のために、我が国と「通貨スワップ協定」を締結したいのではないか(既に日中間では協定早期再開に合意した)。

 特に、中国は米国との“貿易戦争”が勃発し、苦境に陥っている。

 李克強首相は、日中韓首脳会談後の共同記者会見で、「高く貿易の自由化を掲げ、保護主義に反対する旗印を高く掲げるべきだ。実際の行動をもって中日韓3ヵ国が自由貿易の取り組みを支持していることを見せよう」と主張した。

 その真意は日中韓でトランプ政権の保護貿易政策の変更を迫り、中国の対米輸出攻勢を維持したいという思惑が透けて見えよう。

澁谷 司(しぶや つかさ)
1953年、東京生れ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、同大学海外事情研究所教授。
専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる!「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)等多数。

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