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- 2018年05月10日 20:36
ソフトバンク孫代表、悩みに悩んで米スプリントの経営権を手放した理由
●合併交渉が何度も頓挫した理由
ソフトバンクグループ子会社の米通信会社スプリントがT-Mobile USに経営権を手放す形で合併することで合意したが、ソフトバンクグループの孫代表が今回の決断を下すには、複雑な思いがあったようだ。○三度目の正直で合併に合意
ソフトバンクグループが米業界4位の通信会社スプリント買収を発表したのは2012年。孫代表によると、当初は業界3位のT-Mobile USも同時に買収することで動いていたという。孫氏が考えていたのは、両社を買収・合併させ、ベライゾン、AT&Tと伍する力を持ち、米通信業界ナンバー1を目指すことだった。
しかし、この計画は米政府の許認可を得られずに頓挫した。結果的にスプリントの買収にとどまり、同社の経営再建を進めてきた。
スプリント買収後もT-Mobile USと交渉し、合併を試みたが、条件面で折り合わなかった。障壁になったのはスプリントの経営権の行方だった。孫氏は過去を振り返る。「(スプリントの)経営権を手放すべきではない、せめて対等の権利を持つべきだと。結果、破談になった」としており、どちらが主導権を握るかで折り合いがつかず、物別れに終わった。
そして三度目の今回、孫氏がこだわっていたスプリントの経営権を手放す形で、合意にいたった。
合併後の社名はT-Mobile USとなり、スプリントが傘下におさまる。合併にあたり、ソフトバンクグループはT-Mobile USの株式を27.2%保有し、14人からなる取締役会に4名を送り込むものの、筆頭株主は41.7%を持つドイツテレコムとなり、スプリントの経営権を手放す形だ。

合併により新会社T-Mobile USの持分は27.2%に
孫氏は「恥ずかしいとわかりつつ、それを飲み込んだ」とし、忸怩たる思いを明かす。しかし、続けて「一時的な恥だが、大きな意味での勝利を取れるなら、恥じるべきではない」とし、合併を承諾したというのだ。孫氏が話す"大きな勝利"とは一体何なのか。
●なぜ妥協したのか
○合併に妥協した理由孫氏が話す理由は次のようなものだ。
「群戦略が基本戦略として鮮明になったから。ソフトバンク・ビジョン・ファンドが素晴らしい立ち上がりを始め、関心が群戦略に移ったこと。それが重要な要因であろうと。大きな目標に小さな妥協はあってもいいのではないかと。恥やプライド、こだわりを飲み込み、より大きな成果のために受け入れてもいいのではないかと考えた。この1、2カ月のことです。大人になったんです」(孫氏)
群戦略とは、300年成長を続ける企業グループを生み出すために孫氏が考案した組織論だ。群戦略の群とは様々な業界におけるナンバーワン企業の連合体のこと。巨額ファンドのソフトバンク・ビジョン・ファンドを中核に、有望なユニコーン企業へ出資し、強固な連合体を作り上げていくという考え方だ。
ナンバーワン企業への出資比率は20-30%程度であることが特徴で、一部の例外を除き、過半数株式は持たない。この考えをスプリントに当てはめれば、スプリントの経営権にこだわる必要もなくなる。
そして現在、この群戦略はうまくいっているという評価だ。2017年度連結決算におけるソフトバンク・ビジョン・ファンド事業により計上した営業利益(評価益)は3030億円。今年度についても「イメージとしては少なくともこの額を上回る。大きく上回るだろうと。ソフトバンク・ビジョン・ファンドを始めてから月を追うごとに自信は深まっている」とする。
今回の合併を機に、スプリントが連結子会社から抜けることで、ソフトバンクグループのバランスシートが改善され、米国における5Gへの移行に向けて、巨額のコスト圧縮効果を見込むこともできる。
これらも、合併の効果として大きなものだが、発表会で語られたのは、群戦略がソフトバンクグループの基本戦略であり、その基本に立ち返ったということに尽きる。様々な物事の見方があるだろうが、孫氏の発言を正面から受け止めるなら、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの推進こそが、現時点における注力テーマであり、これまで以上に同事業が加速していきそうだ。