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カンボジアの民主主義は死んだのか? - 米倉雪子 / 国際協力

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逆境の中でも希望を捨てずに独立系の政党活動を続ける人々

このような状況では、2018年の総選挙は自由で公正な選挙とはいえないという見解が国際社会で強まっているが、逆風の中、農家と市民を母体とし、民主的な政党活動を続ける新しい政党がある。草の根民主党(Grassroots Democratic Party: GDP)である。GDPは2015年8月2日に、「クメールのためのクメール(Khmer for Khmer:KfK)」という社会ネットワークの仲介により、元NGO代表、10か所の地方の農家グループ・リーダー、教員、労組メンバー、若者などによって創立された。

KfKは民主的で豊かな社会を実現するためには、一般の人々が政治過程に参加し、民主的に運営される政党活動が重要であることを広めていた。2016年7月10日に首都プノンペンで政治的理由により殺害されたとみられている著名な政治アナリストのカエム・ライ博士は、KfKとGDPの主要な創立メンバーの一人である。2016年8月2日、GDPはカエム・ライ氏に「GDP創立の父」とする名誉称号を授与した。

GDPの主要な構成員は、多様な市民や農家で、二大政党である救国党や人民党が政策論議ではなく党首間の誹謗中傷に終始し、党運営もトップダウンであることに共感できず、GDPのボトム・アップ・アプローチや農業政策、ジェンダー政策など政策に共鳴して支持者となった人たちだ。

GDP党首は、権利・法律の教育などを行うNGO・CLECの元代表のイェング・ヴィラク氏、GDP事務局長はNGO・Life with Dignity(LWD)(元国際NGOルーテル世界連盟(Lutheran World Federation (LWF)))元代表のサム・イン博士である。党首と事務局長はGDP党員の投票によって選出されている。

カンボジア最大規模の農村開発NGO・カンボジア農業開発研修センター(CEDAC)創立者のヤン・セン・コマ博士もCEDAC代表を辞任し、加わっている。同氏はCEDACによる「幼苗一本植え(SRI)」の普及で、農家20万人がSRIを実践して米の収量が増大し経済効果があったとされ、2012年にアジアのノーベル賞といわれるラモン・マグサイサイ賞を受賞している。

GDPには党運営のチェック・アンド・バランスのため、党員が投票で選ぶ理事会と規律・紛争解決委員会があり、ヤン・セン・コマ博士が理事会長、規律・紛争解決委員会会長は元教員・元NGO代表で国際機関・NGOなどのジェンダー・コンサルタントとして活動するプロック・ヴァンニー氏が選出されている。

GDPは、持続的な地域開発と民主的な地域統治のためのコミュニティー・エンパワメントを政策にかかげ、地域で党員が自分たちの真の代表を選び、選挙に立候補して議会に自分たちの代表を議員として出すという、真に民主的な運営をする政党として設立された。

党の核心となる価値観は、団結、正義、非暴力で、ヴィジョンとして、全市民が尊厳を持って生きることができる、完全な市民主権のカンボジア国家を掲げる。GDPのミッションは、豊かで平和なカンボジア社会のために良いリーダーシップを養成し、民主的基盤をつくることである。

GDPは2017年6月4日の地方選挙/コミューン議会選挙で9県(バッタンバン県、コンポン・チュナン県、コンポン・スプー県、コンポン・トム県、カンポット県、プレイ・ヴェン県、ラタナキリ県、スヴァイ・リエン県、タケオ県)の27コミューンで立候補者を立てた。その結果、3県3コミューン(ラタナキリ県のペート、コンポン・トム県のサークレアム、カンポット県のドムナックソクロム)のコミューン評議会で5議席を獲得した。

同選挙では各地域の候補者を党員が投票で選出し、各候補の写真と略歴をGDPリーフレットに載せた。候補者がトップダウンで任命され、政党看板には党首と副党首のみを載せる二大政党とは、まったく異なるボトム・アップ・アプローチを実践している。現在、GDP党員は1万名に増え、その約7割が農家という。

2017年11月に救国党が解党され、同党の議席が小政党に分配されたが、GDPは議席を受け取ることを断り、全政党が参加できる自由で公正な総選挙の実施を求めている。GDPは2018年7月の総選挙で全県、全125議席に候補者を立て、総選挙に出ることをめざしている。

2018年4月末から5月半ばに立候補者登録をする必要があるため、4月半ば現在、すでに7県で立候補者を選出し、さらに8県での選出が月末までに予定されている。一つの県で複数の議席がある場合、投票により候補者リスト第一位から順位付けをしている。またGDPではジェンダー政策もあり、第一位と第二位が男性候補となった場合、第三位には女性候補者の中から候補を選出している。

GDPの政策は、持続可能で平和で豊かなコミュニティーの構築をかかげている。各地域がその特産物や特性を活かして経済を活性化できるよう、農業生産を増やすため5000人の農業技術指導員の各地への派遣、低利子の農業ローンを設ける。教育と保健医療にも力をいれ、1万か所の幼稚園、各県に首都のカンタボパ小児病院と同様の質の高い病院の建設、月500リエルの保険料納付による全国民を対象とする健康保険、などの政策を掲げる。

しかし人民党系ではない野党であるGDPに対し、政党活動への妨害が続いている。政府はGDPの看板を北西部のバッタンバンやシエムリアップで撤去し、首都プノンペンでは看板の設置すら許可していない。GDPの集会では複数の警察官がビデオ撮影をするなど、威嚇をしていた。

このような妨害がさらに悪化し、政党活動が自由に行えないのであれば7月総選挙に参加しない可能性もある、とGDP幹部は述べている。しかしGDPは、全政党が参加でき、中立的な選挙監視が全県全投票所で行われ、自由で公正な総選挙が実施されることへの希望は捨てていない。

GDPは各地域の党員が候補者を選出する平和的で民主的な政党である。GDPへの妨害も、現在のカンボジアの状況が自由で公正な選挙を実現できる状況ではないことを明示している。

打開にむけた日本の役割

最後に二点、留意しなければならない点をあげる。第一に、カンボジアにおける一連の政策は国際基準からみると民主化の後退とみなされるが、国際機関や欧米からの懸念表明に対して、フン・セン首相は一連の政策も合法的に国家転覆・反逆を阻止したもので、現在も多党制民主主義、平和と安定を守っていると公言していることである。そして法や司法を使って、野党、メディア、NGO、市民団体の活動を取り締まっていることである。

第二に、国連や欧米が、人権保護や自由で公正な選挙の実施などについて、カンボジアに対しては、他の途上国に対してよりも懸念を表明し関与する点も留意に値する。国連人権高等弁務官事務所は2017年6月以降のカンボジア政府との交信記録を公開し、野党救国党党首の逮捕、カンボジア・デイリー紙廃刊、Lower Sesan IIダムによる影響など一連の政策に対する懸念を表明した。国連特別報告者・人権特使も、カンボジアの法務省、(政府)人権代表や最高裁副長官などと会談し、法改訂などについて懸念を表明し、解決策が見いだせないとした。

2017年12月、米国務省は「カンボジアの民主化を妨害する個人の米国入国を制限する」として、特定のカンボジア人に対する米国ビザの発給を制限すると発表した。2017年12月、EUは最大野党・救国党解党とその議席を他党に分配したことは2013年と2017年の投票結果を否定するとみなし、主要野党が参加できない選挙は正当でないとし、カンボジア選挙管理委員会への支援中止を発表している。

なぜフン・セン首相は多党制民主主義を装い、国連や欧米がカンボジアの民主化や人権保護に強く関与するのか。この背景には1991年の「カンボジア紛争の包括的な政治解決に関する協定」(通称、パリ和平協定)の存在がある。

カンボジアは冷戦の影響を受け内戦となり、1975年から79年のクメール・ルージュ政権下では170万人が虐殺などで亡くなった。全国民が、家族の誰かしらを失っている。その悲劇をくりかえさないよう、1991年のパリ和平協定には特別な措置をとることが明記され、中国、ソ連、米国、英国、フランス、オーストラリア、インド、カンボジアを含むASEAN諸国9か国が署名している。カンボジアにおける現在の民主化の後退は、パリ和平協定に明記された悲劇を繰り返さないための国際協力の効果が問われているといえるのだ。

パリ和平協定にはくりかえし、人権侵害の防止策をとることが明記されている。現在、カンボジアでとられている政策の是非を考える上で重要な主な点を以下に抜粋する。

「前文 悲劇的な近年の歴史にかんがみ、人権を擁護し並びに過去の政策及び慣行の再現を防止することを確保するための特別な措置が必要である」

「15条(a)カンボジアは、次のことを約束する。
カンボジアにおける人権及び基本的自由の尊重及び遵守を確保すること。
カンボジア市民が人権及び基本的自由を促進し及び擁護する活動を行う権利を支持すること。
過去の政策及び慣行の再現が許されないことを確保するための効果的な措置をとること。
関連する人権に関する国際文書に従うこと。

(b)この協定の他の署名国は特に人権の侵害の再発を防止するため、関連する国際文書及び国際連合総会の関連決議にうたわれた人権及び基本的自由がカンボジアにおいて尊重され及び遵守されることを促進し及び奨励することを約束する。」

「17条 国際連合人権委員会は、暫定期間の終了後、必要な場合には同委員会及び国際連合総会に対して調査結果を毎年報告する特別報告者を任命することを含め、カンボジアにおける人権の状況を引き続き密接に監視するものとする。」

「20条 1 カンボジアの国外に居住するカンボジアの難民及び避難民は、安全のうちに、尊厳をもって、かつ、いかなる種類の脅迫又は強制も受けることなくカンボジアに帰還し及び生活する権利を有する。」

「25条 署名国は、誠実に、かつ、協力の精神に基づいて、この協定の実施に関する紛争を平和的手段により解決する。」

「27条 署名国は、国際連合による任務の遂行を確保するため、国際連合に対し、特権及び免除の付与並びに自国の領域内及び当該領域を通過する移動及び通信の自由を容易にすることを含む全面的な協力を行う。」

ひるがえって日本政府の方針はどうか。本稿執筆の2018年4月半ばの時点では、カンボジアにおける和平と民主化プロセスへの逆行に対し、国際的な批判が強まる中、日本政府は総選挙支援の継続を公約し、ODAの供与も予定通り行なっている。本年2月21日には、無償資金協力で日本製投票箱など選挙用物品供与に8億円、4月8日には無償資金協力で税関監視艇の贈与などに5億円、円借款でプノンペン首都圏送配電網拡張整備計画に92億円を供与する交換公文を署名した。

本年2月27日に第37回国連人権理事会ハイレベルセグメントで、日本政府代表・堀井学外務大臣政務官は、「カンボジアにおいては、本年7月の国政選挙を国民の意思が反映される形で実施することが極めて重要です。日本は高い関心を持って情勢の推移を注視しており、引き続きカンボジア政府へ必要な働きかけを行っていく考えです。」と声明を出している。

その後も3月23日に薗浦健太郎首相補佐官が、4月8日には河野太郎外務大臣がカンボジアを訪問し、カンボジア政府に対し、本年7月の国民議会選挙が国民の意思を適切に反映した形で実施されることが極めて重要であると働きかけた。

これに対し、フン・セン首相は7月の選挙を自由・公正かつ民意を反映した形にすると述べた。しかし、一連の民主化に逆行する政策は撤回していない。さらに、8万人の治安部隊(人民党・村長が任命する村治安警備員2万人を含む)を7月総選挙で配備すると4月中旬に発表し、選挙・人権オブザーバーが、投票者への威嚇、人権保護や中立性の点で強い懸念を表明している。

日本政府はカンボジア和平プロセスに貢献し、パリ和平協定締結後、国際連合カンボジア暫定機構(UNTAC)には平和維持活動(PKO)要員として、第二次世界大戦後初めてとなる自衛隊派遣を行った。UNTACでは2名の日本人(国連ボランティア故中田厚仁氏、文民警官故高田晴行氏)が命を落としている。また日本からカンボジアへの政府開発援助(ODA)は、法整備、選挙支援など2014年度までに累計1000億円、その他含め、累計3500億円、投じてきた。

しかし、現在、その民主化プロセスに逆行する政策がとられ、「援助効果」が問われている。独裁政治か、自由民主主義か、カンボジアは非常に重要な岐路に立たされている。世界が注視する中、パリ和平協定で署名国が公約した「人権侵害の再発防止」に積極的に取り組むことが、日本が今、果たすべき役割であり、アジアの真の平和と安全に貢献することにつながるのではないだろうか。

【参考文献】 『朝日新聞』
『朝日新聞アジア太平洋』facebook
East asia forum
『カンボジア経済』ホームページ
Cambodia Daily
在カンボジア日本大使館ホームページ
Channel news asiaホームページ
THE NATION – Thailand Portal
日本外務省ホームページ
『日本経済新聞』ホームページ
Phnom Penh Post
『毎日新聞』ホームページ
Radio Free Asiaホームページ
unicef『世界子供白書』
xinhuanet

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