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金正恩は冷酷戦略家 笑顔外交の一方で国内の監視・統制強化


【習近平氏相手の外交デビューも無難にこなした 朝鮮中央通信撮影・共同】

 アメリカ、韓国、そして中国までもが、つい先日まで世界中で愚かな指導者と蔑まれていた男に振り回されている。金正恩とは何者なのか。何を考えているのか。北朝鮮報道のスペシャリスト・城内康伸氏が未公開情報をもとに、その実像を明らかにする。

 * * *
 限られた情報の中で、「危ない人物」とのイメージが先行してきた金正恩氏は、正日氏と在日朝鮮人出身の3番目の妻、高ヨンヒ氏との間に、三男として生まれた。

 12歳の時、スイスの首都ベルンに留学し、留学途中の2001年に帰国した。それから、2010年9月に朝鮮人民軍大将に就任するまでの彼の歩みは、ベールに包まれたままだ。

 定説では、金正日総書記が2008年8月に脳卒中で倒れて後継者決定が至急となり、翌2009年1月に後継者に内定したとされる。だが、労働党幹部出身の脱北者は異を唱える。

「後継内定は2003年春。最高首脳部だけに明らかにされた」

 韓国の情報関係者も「後継内定が2009年より前という情報は確かにある」と話す。「2003年説」が事実とすれば、金総書記の死去に伴う権力継承まで、9年近くを後継者修業に費やしており、経験不足とは言い切れない。

「気が短い」(韓国情報機関・国家情報院)とされる半面、その周到さも多くの専門家が認めるところだ。

 2011年12月28日に行われた金総書記の永訣式で、軍・党・政府の高官とともに、正恩氏は霊柩車に伴って歩いた。

 軍総政治局の内部資料によると、正恩氏は「将軍様と永訣する行事で、粗相があってはならない」と言い、「冷たい風が吹く深夜」に二度にわたって霊柩車に手を添えて歩く予行練習を行ったという。

 こうして万全な準備を整えていた正恩氏は、父の逝去後、ほどなく権力を掌握し、「恐怖政治」を敷いた。そして幹部や側近といえども異論を許さなかった。

 韓国のシンクタンク・国家安保戦略研究院によると、正恩氏が最高指導者となってからの5年間で、粛清された幹部らは、叔父の張成沢元国防副委員長をはじめ340人に上る。

 2013年2月に開かれた党中央軍事委員会では「山奥で落ちる針の音も聞き逃すな」と指示を出している。自分を脅かす勢力の台頭に極度の警戒心を持っていることがうかがえる。

 北朝鮮関係者によると、首都平壌の人口を年内に5%削減する方針も打ち出した。約14万人減らす計算で、体制に不満を持つ人々らを地方に強制移住させるという。

 対外的には、軟化しつつある正恩氏だが、国内では相変わらずの強権を振るっている。

 4月1日夜、韓国芸術団が平壌市内の東平壌大劇場で公演した。チョー・ヨンピル氏や人気女性グループ「レッドベルベット」らが歌や踊りを披露した。正恩氏は出演者一人ずつと握手を交わし、「人民たちが南側の大衆芸術について理解を深め、心から歓喜する姿を見て、感動を禁じ得なかった」と述べたという。

 だが、労働党機関紙・労働新聞はその当日、正恩氏の態度とは逆に「資本主義社会で小説、映画、音楽、舞踊、美術は腐り果てたブルジョア生活様式を流布し、人々を堕落させる」と批判する論評を載せた。

「冷酷な戦略家」(北朝鮮関係筋)は、外交舞台で笑顔を振りまく一方で、国内の監視・統制を強めている。

●しろうち・やすのぶ/朝鮮半島情勢に精通するジャーナリスト。主な著書に『猛牛と呼ばれた男 「東声会」町井久之の戦後史』『昭和二十五年 最後の戦死者』。共著に『朝鮮半島で迎えた敗戦 在留邦人がたどった苦難の軌跡』など。

※SAPIO2018年5・6月号

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