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【読書感想】君たちはどう生きるか

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 この本のすごいところは、「ヒューマニズム」というのを必ずしも美化していないというか、現実の矛盾や人間の弱さをキッチリ描いていることなんですよね。
 主人公のコペル君は、賢い少年なのだけれど、ちょっと理想主義者の背伸びした子ども、という感じもします。
 まあ、僕もそんな感じの子どもだったのだけれども。
 ところが、彼の理想主義やヒューマニズムというのは、「圧倒的な力」の前では、無力なんですよ。
 僕だって、目の前で反社会性力に知らない人が脅されていたら、見て見ぬふりをするか、せいぜい、少し離れたところから警察に通報するくらいのことしかできないと思う。

 この本のなかで、コペル君の叔父さんは、ワーテルローの戦いに敗れたあとのナポレオンの話をしてくれます。

 イギリスに着いて以来、ナポレオンはずっと船室にとじこもったまま暮らしていたので、波止場に集まった人々は彼の姿を見たいと思っても見ることができなかった。ところが、ある日、ナポレオンは久しぶりで外の空気に触れたくなり、とうとうその姿を甲板にあらわした。
 思いがけず、有名なナポレオン帽をかぶった彼の姿を、ベルロフォーン号の甲板の上に認めたとき、数万の見物人は思わず息を呑んだ。今まで騒ぎ立っていた波止場が一時にシーンとしてしまった。そして、その次の瞬間——、コペル君、どんなことが起こったと思う。数万のイギリス人は、誰がいい出すともなく帽子を取って、無言で彼に深い敬意を表して立っていたのだ。
 戦いにやぶれ、ヨーロッパのどこにも身の置きどころがなく、いま長年の宿敵の手に捕えられて、その本国につれてこられていながら、ナポレオンは、みじめな意気沮喪した姿をさらしはしなかったのだ。とらわれの身になっても王者の誇りを失わず、自分の招いた運命を、男らしく引き受けてしっかりと立っていたのだ。そして、その気魄が、数万の人々の心を打って、自然と頭を下げさせたのだ。何という強い人格だろう。
 ——君も大人になってゆくと、よい心がけをもっていながら、弱いばかりにその心がけを生かし切れないでいる、小さな善人がどんなに多いかということを、おいおいに知ってくるだろう。
 世間には、悪い人ではないが、弱いばかりに、自分にも他人にも余計な不幸を招いている人が決して少なくない。人類の進歩と結びつかない英雄的精神も空しいが、英雄的な気魄を欠いた善良さも、同じように空しいことが多いのだ。
 君も、いまに、きっと思いあたることがあるだろう。


「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない」
 レイモンド・チャンドラーの『プレイバック』という作品のなかでの、私立探偵フィリップ・マーロウの言葉です。
 僕は長年これを「優しさの大切さ」を語ったものだと思っていたのですが、あらためて考えてみると「まずは、強くなければ、優しいかどうかを問われるレベルにまで達することもできない」という解釈もできますよね。
 「弱いばかりにその心がけを生かし切れないでいる、『小さな善人』」か……
 僕もこのタイプだよなあ。
 「弱くて善良なばかりに、自分にも他人にも余計な不幸を招いている人」は、本当に多いのです。
 逆に、「悪いヤツでも、強ければ、無理を通すことができる」という例も、少なからずありますよね。
 結局のところ、みんなが抱えている問題は、80年前と、そんなに変わらない。
 「正しいけれど、力がない人の話」は、なかなか聞いてもらえない。

 コペル君は、叔父さんに問われるままに、浦川君のうちの様子や浦川君のことを、詳しく物語りました。しかし、浦川君のお父さんが山形までお金を工面しにいったのだということだけは、話さずにしまいました。コペル君は、ちゃんと約束を守ったのです。
 話を聞きおわると、叔父さんはいいました。
「君たちと浦川君とでは、何もかも、たいへんな違いだねえ。それじゃあ、浦川君がみんなといっしょになれないのも、無理はないや。——ところで、コペル君、君に一つ考えてもらいたいんだが——」
「何さ」
「いったい、君たちと浦川君と、どこが一番大きな相違だと思う?」
「そうだなあ——」
 と、コペル君は、少々当惑したような顔をしました。そして、しばらくもじもじしていましたが、やがてさも言いにくそうに申しました。
「あのう、浦川君のうちは、——貧乏だろう。だけど、僕たちのうちはそうじゃない」
「そのとおりだ」
 と、叔父さんはうなずいて、なおたずねました。
「しかし、うちとうちとの比較でなく、浦川君その人と君たちとでは、どんな違いがあるだろう」
「さあ」
 コペル君は、ちょっと返答に困りました。

 この本って、「問い」や「ヒント」は書かれているのだけれど、「答え」はほとんど書かれていないのです。
 というか、「答え」がない、あるいは、「答えようがない」問いが、投げかけられている本なんですよね。
 そして、その「答え」は、世に出てから80年経ったいまでも、出ていない。

 子どもに読ませたい、という前に、まず、親に読んでみてほしい、そんな本でした。

 漫画版もあって、こちらのほうが売れているみたいです。

漫画 君たちはどう生きるか

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