記事

北朝鮮外交に巻き込まれるな 安倍首相は「高みの見物」を

【核・ミサイル問題では日本はサブプレーヤー AFP=時事】

【東京通信大学教授、早稲田大学名誉教授の重村智計氏】

「今こそ日本には、朝鮮半島に関わらない戦略が必要」──朝鮮半島を長きにわたり取材・分析してきた東京通信大学教授の重村智計氏は、こう断言する。

 * * *
 3月に行われた中朝首脳会談の実現を「金正恩外交の大成功」と評価するのは間違いだ。中国外務省の公表文を丹念に読むと、金正恩・朝鮮労働党委員長が習近平国家主席に対し、「これまで中国を訪問せず申し訳なかった」と謝罪する様子がうかがえる。

 つまり、3月末の訪中は金正恩の「お詫び行脚」であり、困り果てた北朝鮮が最後の最後に中国に泣きついたのが実情なのだ。

 中国としては、米国のトランプ大統領が貿易問題で「敵対政策」を表明したことへの対抗手段として、金正恩の電撃訪中を受け入れた。一方のトランプは、自身のスキャンダルから国内世論やメディアの関心をそらすため米朝首脳会談に即座に応じた。

「世界各国の指導者は国際平和のために理想を掲げて日夜努力している」と信じるのは、とんだ思い違いである。国際政治においては、みな自国の利益しか考えず、外交を国内問題の回避に利用するのが常だ。

 金正恩が習近平に泣きついたのは、国連や日米による制裁で北朝鮮が困窮したからだ。北朝鮮の軍隊は世界で最も石油の少ない軍隊であり、今年の制裁が実行されれば年間の軍事用石油は40万tに減る。戦争をしない日本の自衛隊でも年150万tの石油を消費しており、彼我の燃料差から北朝鮮軍が「戦えない軍隊」であることは明白だ。

 制裁の効果は着実に出ている。黙っていれば北朝鮮のほうがアクションを起こすだろう。来る米朝会談は「核放棄」「在韓米軍撤退」「米朝平和協定締結」「制裁解除」という4つのカードをめぐる困難なやり取りになり、決裂も十分予想される。すると北朝鮮は、「助けてくれ」と日本に泣きついてくるはずだ。

「日本置き去り」論に警戒すべきもう一つの理由は、この機に便乗してカネ儲けを企む工作員(エージェント)の存在である。彼らは、“外交素人”の政治家に「私が平壌とつなぎます」「首相の訪朝を実現します」と巧みに取り入り、カネをせしめようとする。

 日本の政治家は、与野党が裏で握って法案を通す“国会対策政治”に慣れ切っている。外交においても〝国対政治〟の感覚が抜けず、北系団体や運動組織にカネをバラまけば日朝交渉がうまくいくと考えてしまう。だから「北とつなぎます」と寄ってくるエージェントにコロリと騙される。

 実際に民主党の野田政権時代、「拉致被害者を帰国させる」と売り込むエージェントが現れて、日本政府が訪朝のためのチャーター機を羽田空港に準備したことがある。最終的に北朝鮮サイドの合意が得られず実現しなかったが、この時、官房機密費から億単位のカネがエージェントに流れたと言われる。

 北朝鮮の件なら日本政府はいくらでもカネを積むという話はソウルの脱北者の間でも有名だ。

 しかし、そもそも日本に金正恩と直接つながる個人や組織が存在すれば、とっくに機能しているはずだ。功名心や野心を抱える政治家ほど、この手の「詐欺師」にひっかかるので手に負えない。

 日本は北の核・ミサイル問題のメインプレーヤーではなく、あくまでサブプレーヤーだ。北朝鮮が交渉相手にするのは米中韓の3国であり、日本がしゃしゃり出ても何も解決しない。日本が率先して北朝鮮と関わるべき唯一の課題は、拉致問題である。

 そのためにも安倍首相がトランプ大統領に働きかけ、日本が拉致問題と核・ミサイル問題を切り離して対北交渉を行うことへの理解を得たうえで、日米共同で圧力をかけ、直接交渉に持ち込みたい。

 朝鮮半島問題は一筋縄ではいかない。日本にとって最も重要なのは北朝鮮外交に巻き込まれないことであり、チャンスが訪れるまで、安倍首相は蚊帳の外で「高みの見物」を決め込めばいい。

【PROFILE】重村智計(しげむら・としみつ)/1945年、中国・遼寧省生まれ。毎日新聞記者としてソウル特派員、ワシントン特派員、論説委員などを歴任。朝鮮半島情勢や米国のアジア政策を専門に研究している。『金正恩が消える日』(朝日新書)、『外交敗北』(講談社刊)など著書多数。

●取材・構成/池田道大

※SAPIO2018年5・6月号

あわせて読みたい

「北朝鮮」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    橋下氏 任命拒否の教授らに苦言

    橋下徹

  2. 2

    田原氏 野党は安易な反対やめよ

    たかまつなな

  3. 3

    iPhone12かProか...売り場で苦悩

    常見陽平

  4. 4

    コロナ禍も国内工場は異常な強さ

    PRESIDENT Online

  5. 5

    倉持由香 初の裸エプロンに感激

    倉持由香

  6. 6

    数字を捏造 都構想反対派の欺瞞

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  7. 7

    政府のデジタル化策は正しいのか

    山田太郎

  8. 8

    コロナ巡るデマ報道を医師が指摘

    名月論

  9. 9

    ベテランは業界にしがみつくな

    PRESIDENT Online

  10. 10

    のん巡る判決 文春はこう考える

    文春オンライン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。