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富士フィルムの教訓

「富士フィルムの教訓」とタイトルを打ってしまえばゼロックス買収が失敗に終わったかのような印象を持たれるかもしれません。まだ、この買収交渉は続いていますのでどうなるかはわかりませんが、個人的には数歩後退してしまい、あと一歩下がればディール不成立になる瀬戸際まで追いやられているように見えます。私にはこのプロセスこそが教訓だと思っています。

日経ビジネスの「賢人の警鐘」はビジネスの賢人達が持ち回りで寄稿するシリーズで3月26日号は富士フィルムCEOの古森重隆氏の順番でした。氏はゼロックスを買収することに決めたことを踏まえ、「優れたリーダーにビックデータは要らない。情報の量は関係ない」とし、情報を集めることに翻弄され、考えることを忘れているのはダメだ、と強い主張をされています。もう少し、読み解くとトップに立つべき人間は与えられた与件をサマライズされたデータと経験に基づく鋭い判断力で強く推進するべきだ、とも読めます。

これはある意味正しいですが、誰にでも備えられる能力ではありません。カリスマ性が強い経営者ほどこの手の主張を貫く傾向はあると思います。私はカリスマ性はないですが、情報が多すぎると確かに判断に迷うことはあります。細かい話に「あぁでもない、こうでもない」と振り回された経験を踏まえ、今では「そんなのはどっちでもいい」と一蹴することはよくあります。

そんな日本を代表する経営者である古森氏にとって「経営人生の総仕上げ」と称したゼロックス買収が見事に暗礁に乗り上げました。顛末を一言でいうとゼロックス経営側とは買収合意に至ったもののゼロックスの株主がその買収案に不満で大株主たちが連携し、買収案を潰しにかかったのです。その相手はカールアイカーン氏らであります。典型的な「ものをいう株主」で非常に力がある投資家です。

アイカーン氏らの反対の声に対して富士フィルム側は即座の対話をしなかったようです。その間隙をぬうように株主側が訴えていた「暫定買収差し止め」がNYの裁判所で決定され、その上、ゼロックス側のCEO以下経営陣がごっそり辞任し、アイカーン氏らが推奨する経営陣に変わる、というオセロゲームとなったのです。

このどんでん返し、ゼロックス株主の立場を代弁すればゼロックスの経営陣は富士フィルム側と打算的な買収合意をしたもので株主の利益を十分に考慮していない。よって、誤った判断をした経営陣は退陣し、株主が指名する役員人選を行い、富士フィルム側と再交渉、ないし、交渉破棄をする、ということになります。

では古森氏は何を間違えたのでしょうか?評論家的にはなりたくないのですが、自分がその立場ならどうなのか、という観点に立ちたいと思います。買収発表した1月に古森氏はインタビューで「今回の統合にはさまざまなメリットがある。株価も自然に上がる。アクティビストたちもおとなしくなるでしょう」と述べ、アイカーン氏らの動きを無視しています。

私にはここが分からないのです。経験と判断力を重視する古森氏にとってアイカーン氏は簡単に遣り込めると思ったのでしょうか?それとも株価が上がれば連中は黙る、と思ったのでしょうか?今のアメリカの投資家は強欲です。そして自分の力を見せつけることに極めて大きなプライドを感じています。そのプライドを古森会長は「しかと」したわけです。これが相手の反骨精神をぐっと引き上げた気がします。つまりあれは究極的な失言だったのではないかと思います。

古森氏は情報より戦略、というスタンスですが、今回の場合、極めて重要な情報が欠落していたとみています。一つは株主たちの動き、二つ目にNYの裁判所に提訴された買収差し止め請求は却下されるという弁護士の楽観的なコメントを鵜呑みにしたこと、三つ目に盟友のゼロックスCEOがあっさりと辞任したことですが、これらはすべて情報不足そのものではなかったでしょうか?

もともと買収にあたり、株主からの強い反発があったわけでこれらの動きはある程度想定されていたはずですが、古森氏が大丈夫だろうと楽観視したことで富士フィルム側の役員や担当者の緊張の糸が切れてわきが甘い詰めとなったとみています。カリスマ経営者の持つ最大の弱点です。

他の会社のことを悪く言うつもりはないですが、一言でいえば富士フィルムの買収チームの気持ちが緩んでいた、ということに尽きるでしょう。古森氏には「経営人生の集大成」をもう一度、やっていただくことになるかもしれません。

いいんです、失敗なんて何度やっても何歳になって経験しても。勝ち続ける人間などいません。ただ、「賢人の警鐘」で大言されていたのにこの顛末が同誌の「敗軍の将、兵を語る」の記事になるとすればお笑い事では済まされません。

では今日はこのぐらいで。

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